君がいなくても僕は生きていけるよ。
でも、君がいてくれれば楽しいと思う。
君が僕の隣にいてくれれば嬉しいと思う。
君が僕のことを少しだけでも好きだというのなら、簡単に「死にたい」と言わないで欲しい。
その呪いの言葉は君自身を傷つける。
僕は君の気持ちが分からないから、願うだけだ。
自然公園は花見客で混雑していた。
屋台も出て、おいしそうな香りが漂ってくる。
百選に選ばれるだけあって駅から続く並木道も桜だった。
交通量が多いせいか花びらはほころんでいた。
「ほら」手が差し出された。
「また迷子になるぞ」痛いところを突かれた。
嫌々ながらも、指先をぎゅっと握る。
私のことが好きなら待ち合わせの時間を守ってほしい。
間に合わないのなら時間に余裕を持った約束をしてほしい。
あなたが約束の時間に現れることはないのはわかっている。
待っている時間の私の気持ちがわかる?
不慮の事故に巻きこまれたのか、出かけに身内の不幸があったのか。
考えてしまう。
硝子のような片想いをしている。
水のように透明で、熱が伝わってくるのに、直接ふれることはない。
脆く、壊れやすいのに、壊れたらその破片は鋭く肌を傷つける。
どこにでもあるのに一つとして同じ顔をしていない。
そんな片想いはいつか終わりが来るのを待っている。
シンデレラの靴のように。
朝が破滅へと向かっている。
まもなく瓦解するであろう。
たった一人の女性が現れただけで。
隣国から和平の証と贈られた娘は魂が抜けるかと思う妖艶だった。
皇帝といえども一人の男。
美姫に骨抜きにされてしまった。
朝を沈めまいと努力する忠臣たちを美姫は睨みつける。
それだけで更迭された。
君と僕の距離は近すぎた。
たぶん、普通のクラスメイトよりも。
ただ君は親切なだけで、僕のことを同じクラスメイトだと思っているのは分かっている。
勘違いしちゃダメだと自分に言い聞かせる。
「困るようなことをした?」君は尋ねてきた。
「いや別に」勝手に引いた境界線なんていらないのに。
「平成最後」が安売りだ。
改元が決まってから、その言葉を聞かない日はなかった。
どんなささやかなイベントも「平成最後」とつくと立派なものに見える。
正直、食傷気味だ。
新年の挨拶だって松の内までだ。
それよりも長々と「平成最後」が謳われている。
そろそろ黙ってほしいと思う。
今、君はどこにいるの。
誰の隣で笑っているの。
僕のことをどれだけ覚えているの。
僕は独りで毎日をやり過ごしているよ。
仕事は順調だし、話し相手になるような友だちもいる。
それでも、ふとした瞬間に君のことを思い出してしまうよ。
「ずっと一緒にいる」という約束を守れなくて、ごめんね。
油断していた自分が悪い。
それにしてもバケツをひっくり返したかのような強雨はついていない。
傘のない自分は濡れて帰ることが決定したわけだ。
雨の中に飛びこむ決心がつかない。
下駄箱で迷っていると、「一緒に帰りませんか?」と小さな声をかけられた。
クラスの女子だった。
その手には傘。
消しゴムが滑って机の上から落ちた。
コロコロと転がって、クラスメイトの足元に落ち着いた。
拾おうと立ち上がったらクラスメイトの方が気がついて拾ってくれた。
反射的に「ありがとう」と言うと「どういたしまして」ぶっきらぼうな答えが返ってきた。
そのギャップに驚きながら好奇心が湧いた
祖父が亡くなった。
といっても平均年齢を超える年齢だった。
祖母が亡くなってから、独り暮らしを満喫していた。
これといって大きな患いもなく、診断も老衰だった。
明るい通夜になった。
棺の側を離れようとしない犬型のロボット。
忠犬のようだった。
きっと幸せだったんでしょう。
誰かが言った
我が家はアルバムが少ない。
正確には第二子である私のアルバムが極端に少ない。
第一子の姉はマタニティ姿の母の写真から始まっている。
第三子の弟も同様だっだ。
初めての子と跡取り息子の写真が多いの当たり前だ。
両親から私も愛されている。
その差を見せつけられたようで、写真が嫌いだ。
待ち合わせの時間、ジャスト。
モニュメントの側で時計を眺めている。
僕はできるだけ目立たないように君に近づく。
「お待たせ」声をかけると、君の顔がパッと輝く。
この瞬間の君が好き。
僕のことを想っていてくれるんだと分かるから。
君が喜んでいるのがダイレクトに伝わってくるから好きだ。
「早く支度しなさい! お迎えがきたわよ」とおばさんが言う。
ドタバタを階段を降りる音がして、幼馴染が姿を現す。
「おはよう」幼馴染の少女がお日さまのように笑う。
「おはよう」少年は満面の笑みを浮かべながら、手のひらをぎゅっと握る。
手を繋いで歩きたい。
そんな欲望を押さえつける。