忍者ブログ
ついったーでポストした創作文芸系のlog。 中の人の都合でUPされないlogもあります
石鹸で洗っても消えない。
まるで刺青のように手の甲に書かれた文字は、はっきりとしていた。
油性のボールペンで書いたのが良くなかったのだろうか。
筆記する場所がなく、とっさに自分の手に書いた。
「メモを取るから待ってほしい」そう言えなかった自分を悔やむ。
さっきから手を洗っている。
PR
与えられた自由は狭く、息が詰まるほどだった。
「誰のものだとお思いで?」と令嬢は扇越しに笑った。
仕える主は美しい代わりに、棘があった。
まるで咲き誇る薔薇のようだった。
「貴方様のものです」僕は答える。
「よろしい。分かっているわね?」令嬢は念を押す。
「はい」と僕はうなずく。
元は野良猫だった。
がりがり痩せていて、平均の半分ほどしか体重がなかった。
人間を見ると怯えて、動物病院に連れて行くのも大変だった。
それが月日が流れたせいか、人間に慣れてくれた。
ざらざらとした舌が手をなめる。
すっかり飼い猫のようになった。
野良猫だったとは思えない姿だった。
月光を浴びた緑は昼間と違った顔を見せる。
独りで見るとなおさら違って見えた。
涼しい風が吹いて緑を揺らす。
木の葉のこすれる音は、どこか寂しかった。
ここにはいない君は元気で過ごしているだろうか。
小さな町を飛び出してから、ずいぶんと経つ。
僕は君が好きから幸せであることを祈る。
君と手を繋いで歩きたかった。
けれども、君は自由だ。
いつでも僕の一歩手前を歩く。
二人並んで歩くなんて出来なかった。
そんな君の手を掴みたかった。
臆病者の僕は君に嫌われたくなくて勇気がなかった。
嫌々ながら、自分の手のひらを軽く握る。
昔からずっとそうだった。
僕は君を追いかけた。
「貴方のことは尊敬しています。でも恋ではありません」秘書官は言った。
それを聞いた王様はためいきをついた。
「愛してくれてはいるのだろう?」王様は言った。
「勿論、敬愛しています」秘書官は生真面目に答える。
「妃になって欲しい」王様は求婚する。
「何回言ったら信じてくれますか?」
TVも新聞も飛行機落下事故を伝える。
夫が乗っていた便だ。
まだ「愛している」と言い足りない。
こんな別れは想定していなかった。
ふと玄関に気配がした。
帰ってくるはずのない人がいた。
「仕事に時間がかかって乗る飛行機を遅らせたんだ」
夫の無事の姿に、子供のように泣く。
「心配かけたね」
初めて二人で迎える夜だった。
清らかな交際だったから、二人分の布団に途惑う。
それは彼女も同じだったらしい。
花嫁は目を逸らしつつ、僕の指をぎゅっと握る。
緊張で震えているのが伝わってくる。
だから僕は安心できるように、額にくちづけを落とす。
「怖かったら言って」僕の言葉に頷く。
私が私でいるために、恋を捨てた。
終わりの見えている恋に縋りつくことができなかった。
そんな可愛くない私だから、貴方も頷いたのだろう。
貴方と共に歩いた海に、今日は独り。
海に沈めたあの日の思い出は、浮かび上がることはないだろう。
寄せては返す波を見ていたら、涙があふれてきた。
桜木の下で邂逅した。
もう二度と会えないと思っていたから、信じられなかった。
会えなかった時間だけ歳を重ねた君は「やあ」と微笑んだ。
まるで昨日もあっていたような軽い口調だった。
僕は慟哭した。
そんな僕の背を君は優しく撫でてくれた。
それすら別れの時の仕草に似て涙が止まらない。
今日もスマホの画面を見せられる。
フローリングの床に四肢を伸ばして寝ている。
飼い猫らしい姿のフォトだった。
「うちの子可愛いだろう?」だらしのない顔で同級生は言う。
猫は可愛らしいが、それはどこの猫も一緒にしか見えない。
だから「そうだね」と無難な相槌を打つ。
「他にもあるんだ」
僕が男で、君が女だということはランドセルの色で分かった。
成長するにつれ、体にも変化が出てきた。
僕は骨ばってきたし、君は柔らかな肉に包まれてきた。
いつまでも一緒にいられると思っていた。
それが体の変化から二人を切り裂いていく。
いつまでも、はなくなった。
もう同じ道を歩けない。
幼少の頃は期待をされていなかった。
だから庭で流れる雲を一日中、見ていても誰も気に留めていなかった。
それが普通だったのだ。
戦で長男である兄が亡くなるまで。
急に後継ぎとしての道を歩くことになった。
もう自由はどこにもない。
空を見上げる余裕すらなく、今は文武に励むことになった。
「猫!」君は目聡く見つける。
野良猫だろうか、飼い猫だろうか。
長い尻尾の猫が路地裏に走り去った。
こうなるとお手上げだ。
君は当然のように路地裏に向かう。
僕はそれを追いかける。
君はくつろぐ猫に撫でる。
「満足だろ。帰るぞ」と僕は言う。
君は目を逸らしつつ、僕の両手を指先でつつく。
二人の間に静寂が漂っていた。
繋いだ手のぬくもりが心細かった。
このままではいけないと口を開く。
けれども言葉にしようとしたら、何を言えばいいのか分からなった。
君は「言わなくても分かるから」と囁いた。
繋いだ手にわずかに力がこもる。
だから、僕は無言で頷いた。
二人は影を追った。
HOME → NEXT
プロフィール
HN:
iotu(そら)
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
iotuは五百箇という意味の古語から。
オリジナル小説サイト「紅の空」では、「並木空」というHNで活動中。
バーコード
ブログ内検索
アクセス解析
カウンター
フリーエリア
忍者ブログ [PR]
 △ページの先頭へ
Templated by TABLE ENOCH