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「 140文字の物語 」
石鹸で洗っても消えない。
まるで刺青のように手の甲に書かれた文字は、はっきりとしていた。
油性のボールペンで書いたのが良くなかったのだろうか。
筆記する場所がなく、とっさに自分の手に書いた。
「メモを取るから待ってほしい」そう言えなかった自分を悔やむ。
さっきから手を洗っている。
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与えられた自由は狭く、息が詰まるほどだった。
「誰のものだとお思いで?」と令嬢は扇越しに笑った。
仕える主は美しい代わりに、棘があった。
まるで咲き誇る薔薇のようだった。
「貴方様のものです」僕は答える。
「よろしい。分かっているわね?」令嬢は念を押す。
「はい」と僕はうなずく。
元は野良猫だった。
がりがり痩せていて、平均の半分ほどしか体重がなかった。
人間を見ると怯えて、動物病院に連れて行くのも大変だった。
それが月日が流れたせいか、人間に慣れてくれた。
ざらざらとした舌が手をなめる。
すっかり飼い猫のようになった。
野良猫だったとは思えない姿だった。
月光を浴びた緑は昼間と違った顔を見せる。
独りで見るとなおさら違って見えた。
涼しい風が吹いて緑を揺らす。
木の葉のこすれる音は、どこか寂しかった。
ここにはいない君は元気で過ごしているだろうか。
小さな町を飛び出してから、ずいぶんと経つ。
僕は君が好きから幸せであることを祈る。
君と手を繋いで歩きたかった。
けれども、君は自由だ。
いつでも僕の一歩手前を歩く。
二人並んで歩くなんて出来なかった。
そんな君の手を掴みたかった。
臆病者の僕は君に嫌われたくなくて勇気がなかった。
嫌々ながら、自分の手のひらを軽く握る。
昔からずっとそうだった。
僕は君を追いかけた。
「貴方のことは尊敬しています。でも恋ではありません」秘書官は言った。
それを聞いた王様はためいきをついた。
「愛してくれてはいるのだろう?」王様は言った。
「勿論、敬愛しています」秘書官は生真面目に答える。
「妃になって欲しい」王様は求婚する。
「何回言ったら信じてくれますか?」
TVも新聞も飛行機落下事故を伝える。
夫が乗っていた便だ。
まだ「愛している」と言い足りない。
こんな別れは想定していなかった。
ふと玄関に気配がした。
帰ってくるはずのない人がいた。
「仕事に時間がかかって乗る飛行機を遅らせたんだ」
夫の無事の姿に、子供のように泣く。
「心配かけたね」
初めて二人で迎える夜だった。
清らかな交際だったから、二人分の布団に途惑う。
それは彼女も同じだったらしい。
花嫁は目を逸らしつつ、僕の指をぎゅっと握る。
緊張で震えているのが伝わってくる。
だから僕は安心できるように、額にくちづけを落とす。
「怖かったら言って」僕の言葉に頷く。
私が私でいるために、恋を捨てた。
終わりの見えている恋に縋りつくことができなかった。
そんな可愛くない私だから、貴方も頷いたのだろう。
貴方と共に歩いた海に、今日は独り。
海に沈めたあの日の思い出は、浮かび上がることはないだろう。
寄せては返す波を見ていたら、涙があふれてきた。
桜木の下で邂逅した。
もう二度と会えないと思っていたから、信じられなかった。
会えなかった時間だけ歳を重ねた君は「やあ」と微笑んだ。
まるで昨日もあっていたような軽い口調だった。
僕は慟哭した。
そんな僕の背を君は優しく撫でてくれた。
それすら別れの時の仕草に似て涙が止まらない。
今日もスマホの画面を見せられる。
フローリングの床に四肢を伸ばして寝ている。
飼い猫らしい姿のフォトだった。
「うちの子可愛いだろう?」だらしのない顔で同級生は言う。
猫は可愛らしいが、それはどこの猫も一緒にしか見えない。
だから「そうだね」と無難な相槌を打つ。
「他にもあるんだ」
僕が男で、君が女だということはランドセルの色で分かった。
成長するにつれ、体にも変化が出てきた。
僕は骨ばってきたし、君は柔らかな肉に包まれてきた。
いつまでも一緒にいられると思っていた。
それが体の変化から二人を切り裂いていく。
いつまでも、はなくなった。
もう同じ道を歩けない。
幼少の頃は期待をされていなかった。
だから庭で流れる雲を一日中、見ていても誰も気に留めていなかった。
それが普通だったのだ。
戦で長男である兄が亡くなるまで。
急に後継ぎとしての道を歩くことになった。
もう自由はどこにもない。
空を見上げる余裕すらなく、今は文武に励むことになった。
「猫!」君は目聡く見つける。
野良猫だろうか、飼い猫だろうか。
長い尻尾の猫が路地裏に走り去った。
こうなるとお手上げだ。
君は当然のように路地裏に向かう。
僕はそれを追いかける。
君はくつろぐ猫に撫でる。
「満足だろ。帰るぞ」と僕は言う。
君は目を逸らしつつ、僕の両手を指先でつつく。
二人の間に静寂が漂っていた。
繋いだ手のぬくもりが心細かった。
このままではいけないと口を開く。
けれども言葉にしようとしたら、何を言えばいいのか分からなった。
君は「言わなくても分かるから」と囁いた。
繋いだ手にわずかに力がこもる。
だから、僕は無言で頷いた。
二人は影を追った。
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