見るも無惨な光景だった。
木造の城は見事に焼け落ちた。
それを見守っていた男は嘲笑する。
「やっとだ。これで満足だ」と誰に言うでもなく言った。
男はかつて自分を拒否した家族への復讐を遂げる。
火に巻かれて死ぬのはどれほどの苦痛だろう。
その苦痛と同じぐらいの辛さを味わってきたのだ。
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寒さが厳しくなった。
コートとマフラーなしでは外を歩くのもつらい。
それでも今年の冬は暖かいをという。
寒がりな自分としては勘弁してほしかった。
帰り道の喫茶店と彼女と寄る。
席について手袋を外す。
すると手が伸びてきた。
彼女が嬉しそうに、手のひらを触れ合わせる。
体温が交じり合う。
私がどんな女かも知らないで、男は言い寄ってきた。
女性経験が浅そうなのは見て分かった。
だから私が選ばれた。
大人しそうなファッションに、どんな話題にも優しく頷いて耳を傾けた。
呑み会になればお酌もした。
結婚を前提に付き合ってほしいと言われた。
そんな窮屈な付き合いは御免だった。
視線が少女を追いかける。
友達と楽しそうに話している。
話題は何だろう。
今日の授業の話だろうか。
それとも大量に出された宿題だろうか。
もっと踏みこんだ話だろうか。
例えば恋バナとか。
少女と視線が合った。
見つめていたのを気づかれた。
少女は気さくに手を振る。
少年も軽く手を挙げた。
純白のドレスは男の欲望に添うためだった。
花嫁になる乙女は泣く。
二度と故郷に戻れない。
家族とも、友達とも別れ別れになる。
花婿になる男の愛だけを頼りにする日々が始まる。
これで良かったのだ。
戦争は回避されて、二国は友好で結ばれる。
自分ひとりが我慢すればいいだけの話だった。
「君がいなくても大丈夫だよ」嘘つき。
声が震えているよ。
そうやって強がっても、僕にはお見通しだよ。
どれだけの時間、一緒にいると思っているんだよ。
泣くのを我慢しているのは分かっているよ。
「僕には君が必要だ」はっきりと告げる。
「馬鹿だね」君は小さく笑った。
それから涙を零した。
君とふれあっていたのに、傷つけあってしまう。
まるでヤマアラシのジレンマのようだった。
いつの日か、ちょうどよい距離を見つけることができるのだろうか。
その時には、僅かなぬくもりを分かち合えるのだろうか。
これ以上、僕は君を傷つけたくない。
毛布のように優しく包みこんであげたい。
知ってたよ、君の答えは。
それでも伝えたかったんだ。
僕の方を振り向く要素は万が一かもしれない。
それに賭けたかったんだ。
君はお手本通りの言葉で謝った。
僕のことを利用しても良かったのに、誠実な君にはできなかった。
そんな君だから、僕は君が好きになった。
そして叶わない片恋に落ちた
「まるで虚栄みたいね」君は咲いた桜を見上げて言った。
僕には意味が分からなかった。
「いつかは散る姿は一緒だわ」君は続けて言う。
我が身と桜を重ねていたのだろうか。
栄華を誇っていた家は離散を余儀なくされた。
君の言葉を重く、僕を黙らせるのには充分だった。
一緒に見ているが虚無だ。
大人気なく喧嘩をしてしまった。
こうなると今日のデートはキャンセルだろうか。
ランチを代を払って店を出た。
無言が重たかった。
すると君は軽々しく、僕の腕を軽く握る。
迷子にならないように付き合いたてからの習慣だった。
「ごめんなさい」小さく君は言った。
「僕も言い過ぎた」と言えた。
夢の君は、笑っていたのに。
現実の君は、泣いている。それも僕のせいで。
泣き虫の君が泣きだすと長いことを知っている。
ハンカチは涙で濡れて、絞れそうだった。
本当は笑っていて欲しいのに、上手くいかない。
こんな時、どうすればいいのだろう。
静かに泣く君を見ながら、僕は頭は働かせる。
道は枝分かれしていた。
どちらの道の方がより幸せを感じるだろうか。
二つに分かれた道の真ん中で迷っていた。
後ろからやってきた少女は、悩む少年を置いて道を進んでいった。
刹那、視線が合った。
まるで一緒に来ないか、と誘うようだった。
背中を見送って別の道を選んだ。
後悔が心の中疼く。
今日もやってしまった。
後悔するぐらいなら、初めからしなければいい。
そうと分かっていてもできない。
生まれついての天邪鬼なのかもしれない。
ほんの少しの甘えがあるのも確かだ。
そろそろ短いとは言えない付き合いになる。
気がついてほしい。
「簡単な嘘くらい見抜いてよ」と言葉にした。
鋭い眼光に射すくめられた。
子鼠のように怯えた。
その様子がおかしかったのか、帝王は嘲る。
これからの一挙手一投足が運命を決める。
手は震えて、喉はカラカラだけど顔をあげる。
帝王を見つめ返す。
すると変化が訪れた。
帝王の視線に憐みのようなものが混じった。
絶好の機会だった。
口を開く
隠れ鬼には最適な路地裏。
ごったに荷物のあるそこに身を隠そうしたら先客がいた。
他の場所を探そうと踵を返す。
手首を掴まれた。
少女は嬉しそうに、指を指先でなぞる。
どうやらここに隠れていろ、ということだろうか。
途惑っていると「鬼に見つかっちゃう」と透明な声が囁く。
少年は頷いた。