歳の数だけの花。
お洒落なレストランでランチ。
大きな観覧車。
宝飾店でプラチナのネックレス。
夜景の綺麗なホテルでディナー。
毎年、決まったデートコース。
誕生日だから特別に奮発してくれているのは分かる。
でも、何より嬉しいのは丸一日、貴方が一緒にいてくれることなの。
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明日という未来が来るのが心配だった。
今日という日が終わってしまうことが不安だった。
当たり前のことが怖かった。
起きたら夢だったような気がして、漠然とした恐怖を抱えこんでいた。
幸せすぎて、終わりが来ることを知りたくなかった。
限られた時間の中でいつでも怯えていた。
心臓が君が好きなんだと告げる。
君の笑顔を見ると心の奥が締めつけられる。
眩しくて、真っ直ぐに見つめられない。
早くなる鼓動に上手く言葉が紡げない。
そんな僕に君は気がつかない。
だから、今日も無邪気に笑いかけてくる。
僕は目を逸らして、繋げない手を握り締める。
今までが童話みたいなものだった。
苦い水を飲み干すことを知らなかった。
いつでもハッピーエンドが待っているようだった。
それはとても幸運なことだと気がつかなかった。
引かれたレールの上をなぞるように歩いているだけだった。
道は途絶えた。
これからは獣道をかきわけて進む。
好きな人ができた。
けれどもその人にはもっと大切な人がいる。
好きな人に振り返って欲しい。
この願いが叶う日は来るのだろうか。
その人が今、最高に幸せなのを知っている。
隣で相槌を打ちながら、その幸福を聞きたくないと思うのは贅沢なのだろうか。
そんな幸せそうな顔をしないで。
閉じた世界の中で、僕も君も息をしている。
呼吸の数を数えながら、沈黙を埋めている。
ここに君がいなくても平気だと言えるほど僕は強くない。
ドアを開け出て行くほどには君も強くない。
二人だけの世界で生きる意味を見つけられるほど絆は強靭ではない。
時が零れ落ちていく音を聞く。
同胞殺しは人殺しには変わりがない。
大義名分を掲げたところで烙印は消えない。
生温い血を、柔らかな肉を覚えている。
どんな人間だろうところされて当然の人間はいない。
それぞれ懸命に生きているのだ。
けれども神剣・神楽を手に数少ない同胞と殺し合いを続けている。
今日も明日も。
手首が重い。
神剣・神楽を握りなおす。
すすってきた血の分だけ重く感じる。
もう二度と戻らない平穏を懐かしく思う。
決断したのは自分だから後悔はしない。
自分の生命すら保証がないのだから、前を向くしかない。
とりあえずはこの戦いを終わらせるのが先決だろう。
重い鉄の塊を構える
雨上がりに『虹』と言えば、空に七色のアーチが架かった。
言霊使いの血筋に生まれたことに誇りと喜びを感じていた。
口に出したことが何でも叶う。
それはとても素晴らしいことだった。
あの日、恋に落ちるまで。
好きになってもらうことは簡単だった。
でもそれでは意味がない。
唇を噛む
ベッドの上の住人は「また会いましょう」と微笑んだ。
窓から強い西日が差し込んでいて白い部屋を赤く染めていた。
陶磁器のように白い肌もほんのりと色づいて健康そうに見えた。
次に会う日はたくさんの花に囲まれて大きな写真が飾られている時だろう。
分かっていたから約束ができない
コーヒーにミルクを入れて右回りにスプーンでかき混ぜる。
そんなくせを君は笑うんだね。
銀色のスプーン、一匙分欲しいとねだるそんな君のくせこそ微笑ましいのに。
もうすぐノックの音がするだろう。
君が駆け込んでくるのが目に浮かぶ。
今日も一人分では少し多い分だけの豆を挽く。
キッチンにマグカップが仲良く並んでいる。
色違いのペアで買ったそれは使われなくなって久しい。
一緒にコーヒーを飲んだ日が懐かしい。
今はいなくなってしまった人のことを思うと胸が痛む。
またどこかで巡り会う日が来るのだろうか。
マグカップは沈黙している。
それが寂しかった。
死にいたる病。
濁った瞳は景色だけを写していた。
こちらを見つめることはない。
腕には無数の傷。
口癖は「消えてしまいたい」だった。
そんな彼女はベランダで風に吹かれていた。
泣きそうになりながら、その腕にしがみつく。
彼女が空に飛び立とうとしていることが分かってしまったから
静かに時が刻まれていた。
秒針が何週したことだろう。
見つめあっていた。
吐息すら感じる距離だというのに、鼓動は平時と変わらない。
小さな手が細い喉元へと導く。
「このまま力をこめてください」とか細い声が言った。
「疲れました」と言葉が続く。
温かなぬくもりを手のひらに感じる
残暑が厳しく体がついていかない。
日差しはギラギラとしていて、軟な肌を灼く。
黙々とアスファルトの道を歩く。
口に含んでいた塩飴を噛む。
レモン味のそれは口いっぱいに広がって、少しは効果がありそうだった。
コンビニで麦茶を買わなければ。
持参した麦茶は飲みきってしまった。