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ついったーでポストした創作文芸系のlog。 中の人の都合でUPされないlogもあります
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行きつけのバーに顔見知りができた。
彼女がどんな人生を歩んでいるかも知らない。名前すら知らないのだから。
ただ止まり木に並んで、カクテルを交わすだけの関係だ。
「うすっぺらい愛の言葉なんていらないの」とポツリと彼女は零した。
「真摯な愛の言葉なら受け取るのかい?」と僕は尋ねた。
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二人が付き合っていることは内緒だった。
だから大通りを通ることは心配だった。
クラスメイトに遭遇するかもしれない。
そしたら、どう言い訳するのだろうか。
案の定、顔見知りと出会った。
「二人でデート?」興味津々と言った顔でクラスメイトは言った。
恋人は「付き合っているからな」と言う。
少女は器用にリンゴを剥く。
悪戯っぽく笑って「責任、とってくださいね」と言う。
「知恵の実を食べた責任か?」と青年は尋ねる。
「楽園から追われた責任です。はいどうぞ」と少女はウサギの形に飾り切りされたリンゴを差し出す。
何も知らない少女を連れてきてしまったことに、青年の胸が痛む。
『生きる意味を棚に上げて』

君は口癖のように『死にたい』と言う。
君の瞳はいつでも凪いでいて、カラカラで涙すら零れない。
乾燥した声で『死にたい』をくりかえす。
まるで生きる意味を棚に上げて、死後の世界に希望を見い出すように。
どんな言葉をかけても君の『死にたい』は止まらない。
『心のパーツ』

奇跡の結晶ができあがった。
人の形をしたロボットが完成したのだ。
けれども、それがすぐさま欠陥品だと分かった。
心のパーツがなかったのだ。
どれだけ学習させても、どれだけ実習させても。
そのロボットは人間と同じように感情を抱くことがなかったのだ。
科学者は落胆した。
『非密の時代』

他人の心を覗ける装置が安価で出回るようになった。
心に秘めておく秘密は、すでに非密になってしまった。
他人の領分をズカズカと土足で上がる行為を懸念する声もあった。
けれども、秘密にされていることを覗きたいという声の方が大きかった。
そして非密の時代の到来だった。
「iotuは、感情を抑えながら最後の嘘をつきました。
それは現実逃避のための嘘でした。
「いなくなったりなんてしないよ」、と。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。」

------

僕は、感情を抑えながら最後の嘘をついた。
それは現実逃避のための嘘だった。
「いなくなったりしないよ」と君に大嘘をついた。
いつかは離れ離れになることは分かっているのに。
いつまでも一緒にいられることなんてできないのに。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。
正しく最後の嘘だった。
俺は気合を入れ直すために、ベルトを締め直した。
狙いは要塞に閉じこめられたお姫様。
盗賊の名にかけてみごと盗むんだ。
夜の闇に紛れて、こっそりと要塞に入りこむ。足音を立てるようなへまはしない。
牢に閉じこめられたお姫様に人差し指を立てる。
そうして、俺はまんまとお姫様を手に入れた。
何度、君と同じ夕方を見ていたのだろうか。
一つとして同じではない空を僕たちは、何度ながめただろう。
喜んだり、悲しんだりしながら暮れていく空を見ただろうか。
僕が遠慮がちに、腕を差し出すと、それに君が握り締める。
もっと強く握っていもいいのに、君はいつも遠慮がちにふれる。
愛しい。
『君暮れに』

夕刻の時間になると、今はいない君を思い出す。
帰り道、わざと遠回りをして河川敷で沈んでいく、夕陽をいつまでも眺めていた。
そんな横顔を僕は盗み見していた。だから夕方は君との時間だった。
君暮れに、染まった頬の色は夕焼け色だった。
互いに想いを告げることはなかった。
『不安定職人の夕飯』

今日も夕食にありつけた。しかもあたたかい。
一口食べると、希望を食べているような気になった。
まだ明日があるような、そんな気分になった。
このご時世だ、いつ首を切られるか分からない。
そんな不安定職人の夕食は慎ましく、豪華なものではない。
それでも良かった。
『孤独うまれの夢から君へ』

穏やかな晩年、一緒に過ごした時間は短かい。
思えば孤独を知る人だった。独りきりで、無言で、時おり来る猫を膝に乗せて、縁側で撫でていた。
その背中は小さく見えた。そんな人が私宛に遺言を残したそうだ。
孤独うまれの夢から君へ、感謝の言葉が綴られていた。
僕には、どんな言葉も響かなかった。
心まで凍てついているのだろうか。そんな不安になるほど、他人の言葉に納得したことがなかった。
君はそんな僕の頑な心を溶かした。
優しく頬にキスをして「大好き」と笑った。
君限定の魔法の言葉に、僕は氷から溶けた心で微笑んだ。
「僕も君が大好きだよ」
君の声は囁き声かと思うほど小さい。だから僕はいつも、耳を澄ましていなければなかった。
けれども、君との会話は嫌いではなかった。
天から星が落ちてきたようなキラキラした言葉であふれていたから。
君の言葉はあたたかい。
君はとっておきの囁き声で僕に告げた。「大好き」とかぼそい声で。
僕は雷鳴轟く中、帰ってきた。
玄関で革靴をそろえて脱ぐと、ドタバタとし足音がやってきた。
それこそ雷鳴を遠ざけるような。
君は「お帰りなさい、あなた」と僕に抱きつく。
微かに震えているようだった。
そう言えば雷は苦手だったな。
降って湧いた幸運に僕は喜ぶ。
「ただいま」と僕は微笑んだ。
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プロフィール
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iotu(そら)
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自己紹介:
iotuは五百箇という意味の古語から。
オリジナル小説サイト「紅の空」では、「並木空」というHNで活動中。
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