水鏡にはこの国の未来がくっきりと映っていた。
それを読み解いて、国王陛下に伝えるのが私の役割だった。
その日も、水鏡を覗きこんだ。
すると水平なはずの水が荒々しく揺れ動く。
未来が分からなくなる。
今までそんなことはなかった。
不吉だった。
責任を取ってこの役割から外されるのだろうか。
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モデルか芸能人か、勘違いされるあなた。
整った容姿に、優しい笑顔。
私にはもったいない人だ。
街で一緒に歩いていると女子たちがざわめく。
歩く女子たちの方がお似合いだ。
そして私は空気になる。
「どうしたの?」あなたが問う。
私は目を逸らしつつ、指先を両手で包む。
これぐらいいいよね。
「iotuは、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をつきました。
それは相手の笑顔のための嘘でした。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。 」
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君にはいつでも笑っていてほしいから、嘘をついた。
これが最後の別れだと知っていた。
でも僕は大丈夫と自分に言い聞かせ、笑顔を浮かべる。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」ずっと繋いでいた手を離す。
嘘だと言えたら、どんなに楽になるだろう。
それでも僕は嘘をつきとおす。
君の笑顔のために。
辺境も辺境だった。
国の片隅に、その領地はあった。
そこの伯爵から、婚姻を求められた。
成り上がりの男爵には断る実力はなかった。
貴族同士の政略結婚は珍しくはない。
平民から男爵に格上げをされた時に、覚悟をするように父から言われた。
華やかな王都にいるのに田舎に行くのは悔しい気分だ。
意見の違いで口論になってしまった。
不器用な沈黙が訪れてしまう。
こんな時間を過ごすために君と一緒にいるわけじゃない。
腹が立つが謝罪をしようと思った。
すると「ごめん」君がぎこちなく、手を差し出す。
僕も手を伸べると、君は指先を折れんばかりに握る。
絶対許す気がないことがわかった。
車で運ばれてきた林檎。
ちょっと見た目は悪いけど、味は絶品ということだった。
最悪ジャムにすればいいと思って引き受けた。
覚悟をしてダンボール箱を開けると、意外に色艶がある林檎たちが並んでいた。
兎にできないのが残念だったが剥いて硝子の容器に入れていく。
今日のデザート。
何回目のリストカットだろうか。
風呂場で手首にカミソリを当てる。
ぷつりと赤い滴が生まれる。
『生きている』と体感する。
ここから消えたくてリストカットをするのに、生を実感するのはこの時だ。
ふいに幼馴染の声が脳裏をよぎる。
『大切にもさせてくれないの?』
怒った声を心の中でなぞる。
宅飲みの帰り道。
君は千鳥足でフラフラと歩く。
足が足に絡んで倒れそうになった。
僕は慌てて手首をつかむ。
『家まで送っていく』と言って大正解だ。
僕の指が余るほど細い手首は脈打つのがわかるほどだった。
「ありがと」君は顔を上げた。
「急につかんで悪かった」僕は言った。
「助かったよ」
「お願いがあってきた」身なりのきちんとした人がやってきた。
嫌な予感しかしない。
話を聞くか悩む。
「これ何だが、毎夜悲鳴を上げる」と脇差しを出す。
予感は的中。
そっち関係の仕事の依頼らしい。
「さわったもいいですか?」諦めて、尋ねる。
頷くのを確認して手に取る。
長丁場になりそうだ。
君があまりにも寒いというので、僕は首を傾げる。
僕はぎこちなく、君の指を指先でなぞる。
「くすぐったいよ」君は笑う。
君の指は冷えていた。
僕のぬくもりが伝わればいいと君の手を握った。
「少しはあたたかくなった?」僕は尋ねる。
すると君は空いている手で胸を叩く。
「ここがあったまった」
あなたは今、どこで何をしていますか?
雨音が想い出を呼び起こします。
傘を忘れた私のために、傘を差しだしてくれましたね。
置き傘がある、とあなたは言っていましたがそれは優しい嘘でしたね。
次の日、あなたは風邪で休みました。
借りた傘と課題のプリントを届けにあなたの家に行きました。
『指切りしよう』
「あなたの言うことなんて信じられない!」何度目かの約束破りに、とうとう君を怒らせてしまった。
『ごめん』と何度、謝っても許してくれなさそうだ。
「指切りしよう」と僕は提案した。
「破ったら針を飲んでもらうわよ」君は真剣な眼差しで言う。
「もちろん」僕は頷いた。
『91日目、君は星になった。』
余命は半年だと医者から告げられた。
本人に伝えるかどうか、尋ねられた。
その時、頭の中が真っ白になった。
これから婚約指輪を買おうと決めたばかりの矢先だった。
ここでのやりとりは記憶にない。
半年が過ぎ、楽観していた。
けれども91日目、君は星になった。
『拝啓、空の貴方へ』
貴方に手紙を書くのは、初めてですね。
今まで手紙なんて書いたことなんてないので、ルールに則ってなくても見逃してくださいね。
とりあえず拝啓から始めればいいのですね。
空の貴方はお元気ですか?
貴方へと届かせるためにはどのポストに入れればいいのでしょうか?
「iotuは、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「ずっと君と一緒だよ」、と。
・・・うまく笑えたかな?」
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ポロポロと君の涙が零れる。
僕はとても幸福な夢を見ている気分だった。
「ずっと君と一緒だよ」僕は言った。
君にはいつでもキラキラと輝く前を進んでいてほしい。
これが最後の嘘だと君は気がついているのかもしれない。
それでも、君には未来を見続けてほしい。
・・・僕は君にうまく笑えたかな?