『塩味恋愛。』
ポッキーみたいに甘くない。
まるでポテトチップスだ。
隠し味が隠れていないようなチョコレートだ。
バレンタインデーに用意して、試食をして、ごみ箱に捨てた。
そんな恋愛は塩味恋愛。
甘いばかりの恋愛をしたいのに君には届かない。
そんな塩味も悪くないと思うようになった。
『鈴なりの不孝』
可愛がってもらった記憶はない。
可愛がってもらった記録もない。
だから夜空に鈴なりする星のように、不孝をしてもいいよね。
だって、愛された証拠がないんだから。
これは虚しいばかりの復讐だ。
……愛して欲しかったよ。
言えなかった言葉を飲みこんだ。
夜空を見上げた。
『わたしは、きみに、なれないし。』
どんなにきみが苦しんでいても、代わることはできない。
わたしは、きみに、なれないし。
心を軽くするような、言葉をつむぐことはできないし。
冷たいかもしれないけれども、きみの苦しみの隣に座っているしかできない。
きみの泣き言に静かに耳を傾ける。
『吐いて、溜まった、言葉。』
どれほど吐き出しただろうか。
それでも言葉は溜まっていく。
苦しいほど、辛いほど、涙がにじむほど。
僕は言葉を吐き出し続けていた。
それでも、1ミリも君に届かない。
吐いて、溜まった、言葉。
それらが僕の心臓を苦しめる。
どうすれば君に伝わるのだろうか。
『私は夜更けの町で、
君は夜明けの街で。』
私は夜更けの町に帰ろうとしていた。
終電間際の電車に揺られながら、うとうととしていた。
君は夜明けの街で、バイクで朝刊を配っていた。
私と君がすれ違う可能性は、何パーセントだろう。
夜空が繋ぐ。
私は夜更けの町で、君は夜明けの街で。
『コップ一杯の恋。』
君と出会ったのは失恋したての頃だった。
初めて入ったバーで、君と出会った。
笑顔が素敵な君に心が騒いだ。
けれども、君の左手の薬指にプラチナの指輪をはめていた。
僕はコップ一杯のカクテルをあおる。
僕の恋はコップ一杯で終わった。
僕はやるせない心境だった。
『君わずらい』
どうやら僕は、君わずらいにかかってしまったようだ。
心に隙間ができると、君のことを思ってしまう。
今、何をしているのか。
そんなことを考えてしまう。
LINEを送ったら返事をしてくれるだろうか。
淡い期待を持って、スマホを手に取る。
そして、スマホを元の場所に戻す。
『幸せなんかより
涙が宝もの。』
あなたに会ったら、涙が零れました。
胸の奥底から告げていました。
幸せなんかより涙が宝もの、だと。
今あふれて止まらない涙こそ真実、だと。
流行歌が歌う幸せなんかよりも、ずっと幸せな気持ちになりました。
二度と離れないと誓ってくれるでしょうか。
『はじめまして恋人。』
初めて出会ったのに、懐かしいと感じた。
それはきっと、あなたが優しい瞳とをしていたから。
前にも会っていると感じたから。
「はじめまして恋人。また会えたね」と僕が声をかけると、君は微笑んだ。
まるで今までも傍にいたような気がしたの気のせいじゃないよね。
「iotuは、無意識に緊張しながら最後の嘘をつきました。
それは自分の幸せのための嘘でした。
「これ以上関わらないでくれ」、と。
・・・まだ、泣いちゃだめだ。」
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「これ以上関わらないでくれ」と言った声は、普段のものよりも堅かった。
無意識に緊張をしていたのだろう。
これ以上、一緒にいたらだめになる。
自分の幸せのための嘘なんて、最低だ。
それでも、これが最後の嘘だと思うと胸の奥からこみあげてくるものがあった。
・・・まだ、泣いちゃだめだ。
少女が猫のようにまとわりついてきた。
「ねえ、好きだって知ってた?」天気の話でもするように、少女は自然に言ってきた。
「何を藪から棒に」言われた青年は手にしていた本を落とした。
「冗談だよ」少女はふふ、と笑う。
「大人をからかうな」青年は言った。
「冗談じゃないほうが良かった?」
今日は見事な秋晴れ。
大物を片付けるにはぴったりだった。
とりあえず洗濯機を回しながら、布団を干す。
今日はふかふかの布団で眠れるかと思うと幸せな気分になった。
久しぶりのお日さまは、少し動くと汗がにじむ。
だからといって半袖では寒いだろう。
衣更えにちょうどいい。
夏物をまとめる。
無我夢中に走っていたらいつの間にか廃墟に辿り着ていた。
逃げてきた場所よりも、おどろおどろしい雰囲気が漂っていた。
それでも追手から逃げるには、背に腹を変えられない。
「お邪魔します」小さな声で声をかけて廃墟の中に入っていた。
くすくすと笑う声には気がつかない。
長い夜の始まりだ。
神剣・神楽の癒しの力を持っても隠せない怪我を負った。
自分の血と返り血で、血みどろだった。
正直、こんな姿を少女に見せたくはなかった。
結界が溶けるように消える。
少女は小走りで近寄ってくる。
満面の笑みを浮かべながら、青年の指に触れる。
「大丈夫ですよね」と少女は尋ねるように言う。