君は黙ったまま上目遣いで、僕の腕を痛いぐらいに握り締める。
どちらともなく『ごめんなさい』の言葉が出た。
ほんど同時だったから、僕は笑ってしまった。
それに君は怒る。
せっかく仲直りしたのに、すぐさま喧嘩になるところだった。
「だって、君が可愛くてしかたがないんだ」と僕は伝えた。
君の隣は心地いい。
いつまでも一緒にいたいと願ってしまう。
僕の隣で君は花冠を作っている。
君と野原でぼんやりと日差しを浴びていると『永遠』とはこんな感じなのだろうか、と思ってしまう。
過ぎ去った時間よりも、訪れる時間の方が長いのに。
君は出来上がった花冠を僕の頭に載せる。
「野原の王様ね」
『天使だと思ってた』
「君は可愛いから、天使だと思ってた」恋人がカフェで微笑みながら言った。
「地上に落っこちってくるような、ドジな天使だって?」
カフェオレをストローでかき混ぜながら言った。
「僕のために落ちてきてくれたんだね」とガムシロップのように甘い言葉をささやく。
『秋風と風鈴』
駅までの道を歩いていると硝子がぶつかる音がした。
仕舞い忘れた風鈴だろうか。
ほどなく秋風に揺れる風鈴を見つけることができた。
手書きの金魚が大切にされてきたのだと証明していた。
胸にあたたかい気持ちがこみあげてきた。
季節外れの風鈴は秋風に甲高い音を奏でている。
『せめて泣いてしまった理由を』
涙が次から次へと湧いてくる。
本当は笑顔でいたいのに。
そんな私にあなたはとっても困っている。
言葉を尽くして、泣き止まそうとする。
慌てている様子を見ると、さらに涙が出てきた。
せめて泣いてしまった理由を伝えたいと思うのだけれども、涙が零れる。
『君の言葉で凪いだ。』
これが最後の別れになることは知っていた。
それを止めることができない自分の無力さが悔しかった。
いくらでも言い訳を並べられるだろう。
君が覚えていられるように最後の言葉をかけようとした。
けれども、君の言葉で凪いだ。
いつも通りの表情でサヨナラと言った。
『見つけたら伝えておいて』
「指輪、洗面台に落ちてたって。見つけたら伝えておいて」と姉が言った。
「お義兄さんに直接、伝えればいいじゃん」私が言うと「喧嘩になっちゃうでしょ」と姉は笑った。
そんなものだろうか。
私は既婚者の余裕を見せつけられたようで、お腹いっぱいになった。
『君にはじめての、おはよう。』
気が抜けているのか、君はよく眠っている。
僕の前でそんな姿を見せてくれることが嬉しくて、君の寝顔を見つめてしまう。
恋人同士になったのだ、と柔らかな感情がこみあげてくる。
君にはじめての、おはようを告げたい。
定番通りに、コーヒーを飲みながら。
「iotuは、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をつきました。
それは自分が傷つくだけの嘘でした。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」、と。
本当に、ごめんね。」
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僕はどうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をついた。
それは自分が傷つくだけの嘘だった。
「寂しくなんてないよ。大丈夫」と嘘をついた。
本当に、ごめんね。
これが最後の嘘にするから、ごまかされてくれないか。
君の優しさにもたれかかってしまう。
僕は君のお荷物にはなりたくないんだ。
新型のウィルスのせいで予定は真っ白。
手帳を見て、ためいきをつく。
この調子なら、クリスマスも独りで過ごすことになりそうだった。
例年ならクリスマスケーキをホールで予約するのだけれど、その必要もなさそうだ。
クリスマスは仕事の後、コンビニでスイーツを買って終わりになりそうだった。
ダンジョンの奥底には大きな水晶が眠っていた。
一欠片もらおうと近づくと、拳が腹にあてられた。
パーティの戦士が殴ってきたのだ。
力加減があったものじゃない。
「水晶の色を見て御覧なさ。私たちを拒絶する色で輝いている」と魔法使いがのんびりと話す。
順番が逆だったら良かったのにと思う。
夕方がとても綺麗で、僕は立ち止まった。
君の髪は切りたてで、僕の傍で立ち尽くしていた。
「ほら、まるで君みたいだよ」僕は紅色に染め始めた葉を指す。
君は泣き顔で、僕の指に爪を立てる。
ほんの少し痛かったけれども、ちょっと安心した。
僕に対して怒れるぐらいには気分が浮上しているのだ。
君が好きなままでは、どうしていけないんだろうか。
いつか君が星になって、地上にいる僕を照らすようになっても、この気持ちは変わらない。
だから、永遠を誓い合おう。
僕は準備ができているよ。
あとは君の気持ち次第だ。
簡単に決めたことじゃない。
ちゃんと、永遠という時間の重さを考えた。
『君が庭に植えて逝った言葉。』
君は庭仕事が好きだった。
綺麗な顔を泥で汚して、毎日世話をしていた。
そんな君を僕は眺めながら、刺繍や編み物を趣味にすればいいのにと思った。
君と一緒にいる時間は長くはなかった。
ああ、君が植えていった赤い薔薇が今日も咲いている。
確か花言葉は――。