悲しいことがたくさんあった。
独りきりになりたくて、公園にたどり着いた。
夜遅くの公園は、子どもの声も、カップルの囁きあいもなかった。
ブランコに腰かけて、静けさを味わう。
泣き顔で、自分の手のひらをぎゅっと握る。
才能の欠片もない手のひらを。
痛いほど努力しても兄には敵わない。
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『その悲しさをとっておきましょう。』
涙がコロコロと転がり真珠になる。
人間たちはそれを身に飾って喜ぶというのは皮肉だった。
終わってしまった恋に人魚姫は真珠の涙を零す。
すでに失われた声なき声で。
「その悲しさをとっておきましょう。次があるかもしれませんから」と小箱にしまう。
『泣いてしまっておもしろいね』
「恋だけが人生じゃないだろう」と後宮の頂点にいる主は言った。
見返らなければ価値がない場所、だというのに。
どうすれば気に入られるか、そればかりを考えるところなのに。
私は離れていった温もりに涙していた。
後宮の主はそれすらおもしろいのか笑った。
『君は恋を中途半端にやめた』
僕はずっと君の傍にいたから、事の始まりから終わりを見送った。
君のために、いくつかの苦言も言った。
君の恋が長続きするように。
けれども、君は恋を中途半端にやめた。
まるで幼子が飽きて玩具を手放すように、大切だったはずの恋を宙に放った。
今回もだ。
ムードが良いバーで男性は「君が一番だよ」と囁いた。
カシスオレンジを飲んでいた女性は意味深に笑う。
「うすっぺらい愛の言葉なんていらないの」と恋を重ねてきた余裕の態度で言う。
男性はビロードの小箱を取り出して「これでも?」と言った。
リングケースの指輪には、永遠の光が輝いていた。
インターホンが鳴ったから玄関を開ける。
「誕生日おめでとう」と両手いっぱいの花束を抱えた青年は言った。
大好きなカスミソウが愛らしく嬉しかった。
それに今日という日を覚えていてくれたことが、何よりの喜びだ。
「僕の家族になってほしい」青年が静かに言った。
意味が分かって赤面した。
走りながら、薬指にはめていた指輪を抜く。
銀色の輝きを持ったそれに息を吹きかける。
ぬらりと濡れたような刀身を持った妖刀に変える。
柄をつかんで、一閃する。
突風をまとったそれは、敵の胴にクリーンヒットする。
まだまだだ。
妖刀伝説ができるほどの斬れ味の刀を振るう。
血すら花となる。
『君の傷でかき鳴らされた私の言葉』
どうして君と一緒にいるのだろうか。
マイナスとマイナスのような存在なのに。
いいことなんて一つもないのに。
影のように寄り添っている。
君はまた傷つけられて、言葉を零す。
それにかき鳴らされた私の言葉は、温かいものだっただろうか。
君に幸あれ。
『言いたくないのに言ってしまう言葉達の行列』
お酒というものは良くない。
気心知れた友達も良くない。
言いたくないのに言ってしまう言葉達が行列になって零れてしまう。
いつもだったら我慢してお酒と共に飲みこんでしまうのにできない。
いつでも明るい笑顔の私でいたいのできそうにない。
『影を蹴飛ばして』
それは長々しくついてくる存在だった。
いつもよりも苛々していた、というのは言い訳になるだろうか。
まとわりついてくる影から離れたかった、というのは本音だった。
太陽が作り出す芸術だというのに、俺は影を蹴飛ばして、心から笑った。
ずっとやってみたかったんだ。
「iotuは、祈るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは歩き出すための嘘でした。
「世界は希望で溢れている」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。」
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僕は祈るような気持ちで最後の嘘をついた。
それは未来へと歩き出すための嘘だった。
最初の一歩だった。
「世界は希望に溢れている」と、君に対して言った。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
君と共に過ごす日々があとどれぐらいあるのだろう。
絶望の淵にたたずみながら、僕は君に嘘をついた。
今が、幸せでないというわけではないのに、それ以上の幸福を求めてしまう。
美味しいご飯を食べられるだけでも、幸せなのは知っている。
地球の裏側では、食事をまともに取れずに死んでいく子供たちが溢れている。
季節ごとに新しい洋服を買うことができる。
その洋服の値段で売られる子供もいる。
塩を舐めたら、ほのかな甘味を覚えた。
時期外れの熱中症だろうか。
ここ数日天気が良かったから、あながちハズレではないような気がする。
残っていた塩分タブレットをかみ砕く。
そしてコップ一杯の水を飲む。
応急処置でできるのはこれぐらいだ。
体温計で熱を測る。
検温するまでの時間が長い。
黄金のロケットペンダントには、若かりし頃の祖父の写真が入っている。
それを祖母が大切にしているのは知っていた。
他界してしまった祖父のことを語る時は、ロケットペンダントを開ける。
私はそれを聴く時間が大好きだった。
そんなロケットペンダントを祖母は私に託す。
不安になってしまう。
修学旅行の自由時間に迷子になった。
乗るはずのバスと正反対に行くバスに乗ってしまったようだ。
少女は泣きそうになりながら、少年の指にしがみつく。
「大丈夫だよ。みんなと合流できるよ」と少年はなぐさめてくれる。
責任は少女の方にあるのに、決して責めたりはしない。
それが優しすぎる。