『吹き荒ぶ風と共に行け』
背の低い少年は草原で風を待っていた。
少年の側には父親らしき人物が立っていた。
一面の大草原で、その瞬間が来るのを望んでいた。
そして、一陣の風がやって来た。
「吹き荒ぶ風と共に行け。祝福だ」男性が少年の背を叩き、うながした。
少年はうなずいて向かった。
PR
『帰り道にカランと悲しさを蹴飛ばして』
独りぼっちの帰り道。
昨日まで足音は仲良く二つだったのに。
私は帰り道にカランと悲しさを蹴飛ばして、明日への一歩を踏み出した。
悲しみは過去のこと。
これからは未来が待っている。
すっかり日は暮れて、星空になりつつある空を見上げて思った。
『バス停で君の恋を待っていた。』
いつも君は人待ち顔をしていた。
君は、バス停で君の恋を待っていた。
それを列に並んで見守る僕は、なんて臆病だったのだろう。
君の恋の行く先を見つめ続けていた。
小さなバス停で声をかけられるのを待っていた。
機会は一度だけあった。
それが記念だった。
「iotuは、祈るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは自分が楽になるための嘘でした。
「幸せなんて、どこにもないんだ」、と。
嘘だと見破ってくれたらいいのに。」
------
僕は祈るような気持ちで最後の嘘をついた。
それは自分が楽になるための嘘だった。
「幸せなんて、どこにもないんだ」と。
君と一緒にいる時の感情を無視する。
君がいなくなっても大丈夫なように、嘘をついた。
本当は嘘だと見破ってくれたらいいのに。
そうしたら二人は手を繋いで歩いていける。
気になる本の続きを読んでいたら、すっかりと夜更かしをしてしまった。
スマホのアラームで目を覚ましたら、遅刻ギリギリの時間だった。
朝食を食べている余裕はなかった。
制服に着替え、電車に飛び乗った。
これで、どうにか間に合うだろう。
安堵感から空腹だったのを思い出す。
お腹が空いた。
鏡のように静まり返った水面。
そこに音もたてずに花びらが落ちてきた。
小さく波が立つ。
それを見た巫女姫は微笑む。
占いができないが美しい光景だった。
このままにしておきたいが、そうは言ってられない。
巫女姫は花びらをつまみ上げようとする。
花びらはすいっと抵抗する。
これが占の答えか。
黄昏色に染まった空を見ながら、一緒に帰った帰り道。
落ちていく夕陽が眩しくて、目を細める。
秋の中で一番、美しい時間だった。
ふれあいそうでふれあわない手。
そんなもどかしい距離の二人。
君がそっと、指を指先でつつく。
この気持ちは君も同じだったようだ。
僕は壊れないように手を包む。
『同窓会だったはずの日』
今日は残業を引き受けた。
そうしなければ休みの日まで仕事が終わらなそうだったから。
ゆったりとした休日を手に入れるためだった。
そんな言い訳をしてモニターに向かう。
今日は同窓会だったはずの日。
綺麗になって、幸せになったあの人に会いたくなかっただけだ。
『見たことのない恋人』
私は遠い昔から知っているのです。
あなたと私が恋人同士になることは。
ずっと、今日という日を待っていました。
夢の中で、何度も出会っていました。
だから、一目で分かりました。
あなたがあなただということに。
見たことのない恋人、なんてロマンティックですよね。
『あの日まで他人だった貴方へ。』
少し気恥ずかしいけど、伝えたいことがあるので、手紙を書きました。
あの日まで他人だった貴方へ。
宛先はこれであっているでしょうか。
『私』が『私たち』になった日は、今でも色褪せません。
貴方は『私』の家族になってくれた日は、とても幸せでした。
少女はできるだけ憎たらしい口ぶりで、婚約者と初対面をした。
できることなら婚約破棄をしてもらいたい。
あるいは一歩譲って、婚姻の延期をしてもらいたかった。
結婚をするにはまだ少女は幼かった。
知りたいことはたくさんある。
「素直じゃないとこも可愛くてよろしい。よろしくな未来の妻よ」
あるところにいるお姫様は自分の美しさに苦悩していた。
誰も彼もがお姫様を美しいと称賛する。
お姫様の中身を評価してくれる人はいなかった。
花は散るもの。
今は美しくても、やがて醜くなっているだろう。
その時、周囲の人間たちは離れていくだろう。
ある日、お姫様の永遠を盗む人物が現れた。
政略結婚の二人の初夜は無理矢理なものだった。
花嫁は恐怖から両手のひらをぎゅっと握る。
怖い、の一言だった。
今、起きていることも。
これから始まるのも。
大事に育てられた花嫁には未知の領域で、絶望しかなかった。
花婿はそんな様子に加虐心が煽られた。
二度と逆らわぬように烙印を落とす。
『2回目のハグ』
朝の朝礼で目の前の女子が倒れた。
体育館の床に頭から落ちていく。
危ないと思って、とっさに抱きとめた。
何を食べているんだろう。
そう思うほど、軽かった。
先生の指示で保健室まで運んだ。
それがきっかけで付き合うことになった。
柊の下で抱きしめた。
「2回目のハグだね」
『帰り道すがらに』
日が沈むのが早くなり、その分寒さも増した。
何かあったわけではない。
むしろ、何もなかった。
寄り道したのは子どもの声に釣られたからだろう。
友だち同士で別れを言って家に帰っていく。
その姿を夕焼けの中で見送った。
帰り道すがらに、靴にぶつかったドングリを拾う。