「iotuは、少しだけ震える声で最後の嘘をつきました。
それは自分が楽になるための嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
本音は仕舞い込んだまま。」
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僕は、少しだけ震える声で最後の嘘をついた。
それは自分が楽になるための嘘だった。
これ以上、君の面倒を見ていられない。
僕と君は二人で一つのような感覚がした。
だから離れ離れになるべきだ。
それが二人のためだ。
「まだ一人で生きていける」と。
本音は仕舞い込んだまま。
僕は君に告げた。
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「私たちの関係って中途半端よね」と君が言った。
「友達って言ったら、深すぎるし。恋人じゃないし」君は曖昧な笑みを浮かべた。
「好きだ、って言ったら逃げるくせに」と僕はぼやいてしまった。
「だって、あなたの好きは軽すぎるんだもの」と君は困惑するような顔をした。
「本気ならいいの?」
いつか君を喪う日が来ることが怖かった。
時は僕たちを置いて流れていく。
僕よりも一秒でも長く生きて欲しかった。
君を看取る日が来ることが怖かった。
それなら自分が先に死んでしまった方がマシだった。
お願いだよ。
僕を置き去りにして息を止めないでよ。
優しく微笑んでこの世を去らないでよ。
一生に一度の誓いの日。
親友にカメラを任せる。
腕前のほどは知っている。
きっと花嫁を綺麗に撮ってくれるだろう。
花婿は添え物でいい。
今日という日は、何度も思えかえす日になるだろう。
純白なドレスをまとった君に惚れなおす。
君は本当に美しい。
そんな君の隣に立てることが誇らしかった。
『君が見たら好きっていうかな』
雑貨屋の窓際にそれはひっそりと飾られていた。
手のひらに乗るほど小さなオルゴールだった。
君が見たら好きっていうかな。
そんなことを思った。
僕は店のドアを開けた。
カランカランといい音色を立てた。
「すみません」と声をかけた。
君の喜ぶ顔が楽しみだ。
『今日は君の写真みたいな日』
君はスマホを片手に、写真をよく撮っていた。
誰に見せるわけでもなく、どこかに投稿するわけではなく。
自分のためだけに撮っていた。
小さな宝箱のように写真はスマホに溜められていく。
一度だけ見せてもらった写真は青空だった。
今日は君の写真みたいな日だ。
『物言わぬ影は夜祭りに集う』
声すら発せられない静かな集まりだった。
夕焼けの眩しさに紛れて抜け出した影たちは寡黙に集合する。
それは本体から抜け出した影たちの祝いの夜だった。
物言わぬ影は夜祭りに集う。
それは人間たちは知らない。
夜の漆黒の闇に同化して影たちは夜祭りを楽しむ。
「iotuは、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をつきました。
それは相手を守るための嘘でした。
「もう希望に捨てられるのはいやなんだ」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。」
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僕は、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をついた。
それは相手を守るための嘘だった。
「もう希望に捨てられるのはいやなんだ」と。
何度も裏切られていく世界で、君は生きていかなきゃいけない。
だから、冷たい言葉を放った。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
君にも知ってほしかった。
君は僕の精神安定剤。
どんな恐怖も、どんな苦しみも、どんな辛さも、君がいれば大丈夫だった。
僕の揺れ惑う心を落ち着かせてくれる。
だから、いつまでも一緒にいてほしい。
あたたかな手で僕の手を握っていてほしい。
そうすれば僕は強くいられる。
暗くてみじめな今日から、明日に希望を持てる。
君はカレイドスコープを覗く。
色とりどりのビーズや紙切れの入ったそれは美しいだろう。
君は器用な手つきで、くるくると回し楽しむ。
「あなたも見てみる?」と君は気軽に言った。
僕は生まれつき色弱で赤と緑の差がわからない。
色とりどりの世界は灰色に見える。
君と同じような目が欲しかった。
古めかしいロケットペンダントをつけたいと花嫁は言った。
純白のドレスには、それはあまりにも不釣り合いだった。
花嫁の母親代わりだった叔母は「みっともないからおやめなさい」と言った。
僕は「サムシングフォーと言いますし」と君をかばう。
ロケットペンダントには母親の写真が入っている。
君は意地っ張りだから、謝ることはしない。
たとえ、君の方が悪くても。
僕はそんな君に慣れてしまって、謝るのは僕のほうになっていた。
けれども、その日は僕の機嫌は悪かった。
君は堂々と、僕の腕を指先でつつく。
それを無視していると、君はうつむいて小さな声で「ごめんなさい」と謝った。
『フライングバイバイ』
君は手を挙げて大きく振る。
遠くにいる僕にも見えるように。
「バイバイ」とはっきりと言う。
君がこの小さな町から離れていくのは、まだ先だった。
これは帰宅するためのバイバイだ。
けれども、僕にはフライングで別れを告げているように見えた。
悲しくなんかないよ。
『ヒロイン失格』
「このドラマのヒロインって失格だよね」と君は勝手に、録画していたドラマを見る。
「ネタバレ禁止」と僕が言うと、君はケラケラと笑う。
「このヒロインのどこがいいの?」と君は尋ねる。
「純粋に恋を追いかけるところ」と僕は正直に言うと「古い価値観だね」と君は言う。
『この失恋はみょうに私にぴったりで』
君は缶チューハイ片手に僕のアパートにやってきた。
深夜だというのに陽気に笑っていた。
『ああ、また泣けないんだな』と僕は察した。
だから玄関を閉めて、君を家に上がらせた。
君は缶チューハイを開ける。
「この失恋はみょうに私にぴったりで笑える」