生まれ持った立場というものがあった。
私のようなアメジスト色の瞳を持った者は、シトリン色の瞳を持った主に隷属することが定められていた。
何をされても逆らってはいけない。
そんな人権無視がまかり通る世界だった。
生まれ変わるのならマシな世界に生まれ変わりたい。
黙って手を握りしめる。
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嫌々連れてこられたお見合い現場。
うわべだけの会話が交わされる。
私は俯いて時間が経つのを待っていた。
「お庭を案内して差し上げなさい」と言われて、追い出された。
私の身代金はいくらぐらいになるのだろうか。
「おい。挨拶もまともにできないのか」と無理矢理、指先に触れる。
顔を上げた。
『終わりかけの国家の奔放』
歴史書には生まれたての国家も、滅亡してしまった国家も等しく書きこまれている。
滅びない国家はなく、必ず終焉を迎える。
そんな国家の終わりが遺言書のように並んでいる。
そして、今まさにそれを体験している。
終わりかけの国家の奔放はひどく、華やかだった。
『嘘つかれてあげる』
「勉強を教えて!」幼なじみが頼みこんできた。
「次のテストで赤点だったら、お小遣い減らされちゃうの!」
「赤点って。どうやって取るんだ」僕は思わず尋ねてしまった。
「普通に?」幼なじみは小首を傾げる。
「嘘つかれてあげるからお願い!」意味不明なことを言う。
『気になる人と気に入らない恋』
チタンフレームが似合う彼のことをずっと気になっていた。
笑ったところを見たことがないのも、クールで素敵だった。
遠くから見ているだけで満足していた。
その彼が目の前にいた。
姉が連れてきたのだ。
姉の恋人なのだろうか。
「二人揃って独り身なんでしょ」
「iotuは、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をつきました。
それはたぶん最低の嘘でした。
「全部忘れていいよ」、と。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。」
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僕は、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をついた。
それはたぶん最低の嘘だった。
「全部忘れていいよ」と、僕は言った。
「暇つぶしに付き合っていただけだから」と笑顔を浮かべる。
「忘れない!だって、好きな気持ちは変わらないもの」と君は言った。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。
突然、今の幸福が尊いものだと胸に過った。
この瞬間を共にいられることがどれほど素晴らしいものだと知らされた。
体を巡る液体が全て涙に変わってしまったのだろうか。
涙が溢れて止まらなくなった。
それに貴方はぎょっとする。
「どうしたの?」と尋ねる。
「幸せすぎて泣きたくなるの」と言う。
少しは大人っぽく見えるだろうか。
いつもよりほんの少しだけ赤いリップクリームを唇に乗せる。
まだルージュが似合う年頃ではない。
街を歩いていたら、兄妹と勘違いされるだろうか。
私の体の中の懐中時計はゆっくりと秒針が時を刻んでいく。
少しでも早く大人になりたいのにその進みは焦らせる。
「デートでも行くの?」と姉が訊いてきた。
めんどくさい相手につかまってしまったと思った。
頷いたら嘲笑されるだろうか。
姉は小瓶を一滴、私の頭上に零した。
甘い香りが広がった。
「香水は女の武器よ」と姉は言った。
それから私を抱きしめる。
「あなたにお似合いだから、この香水をあげる」
思い出がよみがえる。
幼馴染と初めて遊びに行った遊園地。
予約制だというのに、思ったよりも混雑していた。
「はぐれないように」と幼馴染が手を差し伸ばした。
私は仕方なく、指にしがみついた。
思えば子ども扱いされて恥ずかしかったのだろう。
今も幼馴染は手を差し伸ばす。
それを握り締める。
『ヒロインに勇気を』
電車の中で本を開く。
読書するようになったのは理由が欲しかっただけだ。
本好きな彼女から、お勧めの本を借りて、流し読みをする。
感想を付け加えて返す。
そのやりとりとしたくて読書するようになったのだが、意外に面白い。
『ヒロインに勇気を』今、読んでいる本だ。
『朝なんてこなければいい。それだけだよ。夜の希望は』
「希望?」意外なことを尋ねられて男は横にいた少女を見た。
「なんでも叶えてあげるよ」無邪気に少女は言う。
電子タバコをくわえながら男は遠くを見つめる。
「朝なんてこなければいい。それだけだよ。夜の希望は」泥まみれの希望だ。
『予想していたエンディング』
何やっているだろう、私。
真っ白なウェディングドレスを着た花嫁に「世界で一番綺麗だよ」と言って。
「大丈夫。これから先、仲良くやっていけるって」と言って。
何で親友だった花嫁に誉め言葉の花束を投げているんだろう。
予想していたエンディングだった。
「iotuは、愚かだなと自分を笑いながら最後の嘘をつきました。
それは現状打破のための嘘でした。
「欲しい物のは手に入れたから、もういいんだ」、と。
・・・うまく笑えたかな?」
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僕は、愚かだなと自分を笑いながら最後の嘘をついた。
それは現状打破のための嘘だった。
揺れる天秤の片一方には君。
残る片一方には空虚だった。
「欲しい物は手に入れたから、もういいんだ」と。
最後の嘘にしては上出来だろう。
これで君はためらなく僕から離れられる。
・・・うまく笑えたかな?
顔をいくらでも化粧という仮面で隠せた。
体形はちょっとした仕草で女らしく見せられた。
偽りの自分で、今日も過ごしていた。
「君が好きだ。恋人になってくれないか」と落ち着いたバーで囁かれた。
私がどんな女かも知らないで、男たちは群がってくる。
「束縛されるのは嫌いなの」と私は笑った。