廊下で白金色の頭髪の少年とすれ違った。
たったそれだけなのに、胸の中にもやもやが生まれた。
少女はつい睨んでしまった。
少年は作り物じみた笑顔を見せた。
その余裕さに少女の対抗心はいっぱいになる。
今度こそ、少年を悔しがらせてやる。
少女は苛立ちながら思った。
次に一位になるのは自分。
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僕は鈍感だから、繊細な君の気持ちが分からない。
君は外に出て、草花の手入れに没頭する。
普段なら日焼けするのが嫌だから、と陽が落ちる頃にやるのに真昼間からしている。
どうやら僕は君の機嫌を損ねてしまったようだ。
分かるのはそれだけ。
君にどんな言葉をかければいいのかすら分からない。
秋は夕暮れ、というように秋の夕暮れには何かが詰まっている。
切なくなるような、寂しくなるような、もうどこにも行けないような。
沈んでいく夕陽には宝石のように詰まっている。
それが胸を支配する。
墜ちていく鳥のような夕暮れに喉を詰まらせた。
ポロポロ零れる泣き顔で、指先を軽く握る。
お祝い事には赤飯が欠かせない。
少し上等なお茶を用意しながら準備していた。
すると「オムライスが食べたい」と今日の主役が言う。
玉ねぎを刻みながら、これは玉ねぎのせいなんだって、言い訳しながら涙を流す。
好きなものが食べられる方が幸せに決まっている。
赤飯はお昼ごはんだ。
『にわか涙は何をぬらす』
ほろほろと涙が頬を伝う。
唐突に泣きだした私に、あなたは困ったような表情を浮かべる。
こんなにわか涙でも、優しいあなたは付き合ってくれる。
途惑うように抱き寄せてくれた。
あなたのシャツがぬれていくのが悪くって離れようとするけれど、抱きしめられている。
『少し冷めた恋をあたためて』
電子レンジの中に、恋心を入れる。
くるくる回るテーブルをながめながら、胸が熱くなっていくのを感じる。
まるで眠れぬ夜に飲むホットミルクのように。
少し冷めた恋をあたためて、また始めましょう。
砂糖がひとさじ入ったホットミルクのように。
大好きから。
『こんな出逢い、桜のせいです。』
帰り道の公園に大きな桜の木が植わっている。
季節柄、ソメイヨシノだろうか、淡い色の花びらをはらりほろりと零している。
小さなベンチに座って、ながめていたら、男性がやってきた。
「綺麗ですね」と言うから「そうですね」と返した。
「いえ、あなたが」
「iotuは、幼子を慰めるかのように最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「いなくなったりなんてしないよ」、と。
嘘だと見破ってくれたらいいのに。」
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僕は、幼子を慰めるように最後の嘘をついた。
それは前へ進むための嘘だった。
いつまでも小さな手を繋いでいられれば良かったのに、そうはいかない。
「いなくなったりしないよ」と。残酷な嘘をついた。
僕が前へ進むためには、君は重たすぎた。
嘘だと見破ってくれたらいいのに、そう願った。
「私ね」目も合わせずに彼女が切り出した。
カフェは活気にあふれていて、危うく聞き落とすところだった。
「あなたの一番心臓に悪い存在になりたいの」と目を半ば伏せて彼女は言った。
そこには危うい色香が漂う。
「もう、なってるよ」僕は言った。彼女は顔を上げて、僕の目を見て微笑んだ。
『鏡に消えて』
私達は一卵性双生児。
両親以外の人は、区別がつかないほどそっくりだ。
それを利用して、たまに入れ替わりをしていた。
もちろん、後でバレて怒られていたけれども。
いつでも、いつまでも、私達だった。
そんな私達は恋をした。
「鏡に消えて」ともう一人に酷い言葉を言った。
『とりあえずお好きに』
「私はあなたに買われた身」ルージュが塗られた赤い唇が淡々とささやく。
悲しみも、苦しみもなく、まるで人形のように。
「とりあえずお好きに」麗しい佳人は言った。
ただ佳人と話をしたいだけだった。
いざとなってみると、何を話したらいいのか分からなくなった。
『ロマンチックひとつ』
どうか、私にくださいな。
あなたからじゃないと意味がないのです。
あなただから良いのです。
今宵、それを私にくださいな。
二人で満ちた月を見上げながら、語りあいませんか?
ロマンチックひとつ、私のために用意をしてくださいね。
私は楽しみにしておりますから。
「iotuは、祈るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは本音とは真逆の嘘でした。
「絶対にあきらめたりしないよ」、と。
もう、覚悟は決めたんだ。」
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僕は、祈るような気持ちで最後の嘘をついた。
君には伝わらないことを神に願った。
それは本音とは真逆の嘘だった。
「絶対にあきらめたりしないよ」と。
夢を追いかげ続けるのに疲れてしまった。
もう、覚悟は決めたんだ。
夢を見て旅立つ君と一緒にいられなくても、かまわない。
ため息を噛み殺す。
誕生日に年に数だけ、黄色いチューリップを貰った。
「誕生日おめでとう」と貴方は笑顔で言った。
黄色いチューリップは薫り高く、ハッとするほど鮮やかだった。
けれども私は純粋に喜べなかった。
花言葉なんて、あなたは知らないんでしょうね。
知っていたら選ばなかったはずだ。
礼の言葉を言う。
誰も彼も夢中になってしまうお年頃。
恋愛というのを味わう背格好になった。
背丈だけが伸びて、大人と変わらない。
けれども、その心はまだ柔らかで、繊細だった。
想うだけでは物足りない。手を繋ぎたい。さらに先のステップを踏みたい。
そんな年頃に二人はなった。
大人の見ていないところで。