『ルーズリーフのラブレター』
靴箱に入っていたものを取り出す。
ルーズリーフに書かれたラブレターだった。
器用に折りたたまれたものを差し出された。
破らないように開くと、少し癖のある文字で抱えている想いと付き合ってほしい旨が書かれていた。
「あわてんぼうさん」
名前がなかった。
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『おつとめ品。思い出缶詰。』
自称・魔女が窓をノックする。
今日も空飛ぶ箒でお得意先を訪問しているのだろう。
私は窓を開ける。
「今日は何があるの?」と尋ねると、魔女はにやりと笑った。
「おつとめ品。思い出缶詰。こんなのはどうだろう?」と箒の先にぶら下げた鞄から缶詰を取り出す。
『春よ、行け。』
桜が散る、と話題はそればかりだ。
強い風が吹く日にも、桜がもたないかもしれない。
雨が降る日にも、これで桜は最後かもしれない。
春に咲く花は、桜だけではない。
それなのに人々の口に上るのは桜ばかり。
春よ、行け。
桜を通り越して。
きっと燃え上がるような花が待つ。
「iotuは、祈るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは相手の幸福を祈る嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。」
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僕は、祈るような気持ちで最後の嘘をついた。
それは相手の幸福を祈る嘘だった。
幸せでも、幸いでもなく、全き幸福を祈った。
「まだ一人で生きていける」と。
君なしでは、夜を越えるのも危うい僕にとって、最大級の嘘だった。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。
最後だから言えた嘘だった。
君の涙の味は夢見るように甘かった。
僕のために零された涙だったから、よりいっそう甘美なものだった。
ぺろりと君の濡れた頬を舐める。
君はびっくりしたかのように、僕から距離を取った。
それでいい。
君の涙の味を知っているのは、僕だけでいい。
他の誰かが知る必要はないのだから。
僕は笑う。
少女は、自由課題で作ったミニチュアの家に悦が入る。
これなら、白金色の頭髪の少年に勝てるのではないか、と思った。
眠さを我慢して、ひとつひとつ丁寧に作った。
クラスメイト達から賞賛の言葉がもれる。
けれども、それは少年がやってくるまでだった。
同じミニチュアだったが、軍隊だった。
怖いものが見たいと君が言った。
だから僕はできるだけ怖いものを探した。
そしてその念願、叶って君を誘う日がきた。
雷鳴が轟く日だった。
それだけでも迫力満点だったが、廃墟へと案内する。
幽霊が出るといういわくつきな建物だ。
それを君にも伝える。
「どう?」と僕は照れる。
君は無言だった。
「これで何度目の遅刻?」待ち合わせの時刻に間に合わなかった僕に、君が怒る。
当然だろう。
「今日という今日は許さないんだから」君は言葉を区切った。
「罰ゲームとして、一日手を繋いでいてもらいます」と目を逸らしつつ、君は言った。
僕は柔らかな君の指を軽く握る。
嬉しい罰ゲームだった。
『苦笑い計画』
これは笑顔の計画ではない。
苦笑い計画だ。
いつでも満面の笑みを浮かべている君から、苦笑いを引き出す。
そんな非情な計画だ。
僕は心を鬼にする。
君の表情はどれも素敵だから苦笑いも素敵だろう、と思った。
まず穏やかな君を困らせるところからスタートしなければならない。
『嘘で会えたら』
貴方と別れて、どれほどの歳月がたったでしょうか。
薄情な貴方は気にしていないかもしれません。
私ばかり気にかけています。
エイプリルフールも過ぎました。
嘘で会えたら、それでもいいと思っていました。
願いは叶いませんでした。
私は通り過ぎる季節に貴方を思います。
『サヨナラは繰り返し』
これで何度目のサヨナラだろうか。
そんな詮もなきことを考えてしまった。
見送った背中に未練はない。
また再び、出会えることを願うだけだ。
サヨナラは繰り返し続けている。
それだけ出会って、別れるのなら、また次もありそうだ。
ひとり夕闇の中、信じてしまった。
「iotuは、祈るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは相手を楽にするための嘘でした。
「幸せなんて、どこにもないんだ」、と。
もう、覚悟は決めたんだ。」
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僕は、祈るような気持ちで最後の嘘をついた。
それは相手を楽にするための嘘だった。
「幸せなんて、どこにもないんだ」と。
いつまでも幸せを探している君の肩を抱いた。
君は静かに涙を零した。
それが綺麗で、心にしまっておきたい、と思った。
僕はもう、覚悟を決めたんだ。
君と不幸せになる。
薄紅色の桜の下、別れを告げた恋人の背を見送った。
迷いもなく真っ直ぐ進む姿を見て、国のためとはどんなものだろうか。
そんなことを思った。
振り返ることもないだろうから、声を殺して涙を流した。
にじむ背中を追いかけていきたい、と思った。
国のためではなく、私のために生きてほしかった。
『忘れられないままでいよう』
春は出会いの季節であるのと同時に、別れの季節でもある。
私はまぶたが腫れるのもかまわず、大泣きしてしまった。
そんな私を哀れに思ったのか、彼は優しく言った。
「忘れられないままでいよう」小指を差し出した。
よく日に焼けた小指に私の小指を絡めた。
『さらば、青春でなかった日々』
学び舎に背を向ける。
「さらば、青春でなかった日々」と僕が呟く。
「単に彼女ができなかっただけでしょ」と隣を歩いていた幼馴染が言った。
「お前だって、変わらないだろう?」男っ気のない幼馴染に言い返すと「第二ボタンを貰ってあげるから」と笑った。