『君曜日にはお出かけを。』
君が忙しい立場にいることは知っている。
もう大人なんだから理解しなければならない。
それでも、休日のデートを返上してまで仕事に打ちこむ姿は寂しい。
空いてしまった休日を怠惰に過ごす。
君からの電話が鳴った。
君が謝る。
それならば、君曜日にはお出かけを。
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『ベッドの岸へ思い出が打ち寄せては』
目覚めると傍らのぬくもりはなかった。
何時だろうか。
目に明るい陽光が差しこむ。
ベッドの端で枕を抱えて眠っていたようだ。
昨夜のことを思い出しては恥ずかしくなる。
ベッドの岸へ思い出が打ち寄せては、淋しい想いの眠りの海に抱えこまれるようだ。
僕の向かい側に座った君はアイスコーヒーを飲む。
ガムシロップを少しだけ入れたアイスコーヒーを飲みながら微笑む。
その様子を僕はいつものように眺めていた。
「世界中の幸せを二人じめしているみたい」君は夢見るようにうっとりと囁いた。
僕も幸せな気分になったから「そうだね」と頷いた。
とっくのとうに成人式をすましたのに、いつまでも子供扱いする幼馴染。
わずか数年、早く生まれてきただけだ。
平均寿命を考えたら、誤差の範囲だ。
ヒールのあるパンプスだって、赤いルージュだって似合うようになった。
けれども、幼馴染は会う度、染色した髪を撫でる。
まるで子供をあやす様に。
自分は欲望のまま彼女に温もりを求めた。
赤子が乳をねだるように自然に。
まっさらに求めた先は、何も言わずに受け入れてくれた。
だから勘違いをしてしまった。
彼女は自分だけのものになった、と。
彼女は誰にでも平等だった。
自分以外にも温もりを与える。
その現場に居合わせて、相手を刺す。
「iotuは、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をつきました。
それは自分の幸せのための嘘でした。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」、と。
どうか嘘だと気づかないで。」
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僕は、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をついた。
それは自分の幸せのための嘘だった。
こんな嘘で幸せになれるとは思わなかった。
ただ言わずにはいられなかった。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」と。
君と過ごした時間にくだらないものはなかった。
どうか嘘だと気づかないで。
いっそ笑い飛ばしてしまいたかったのに、零れるのは涙。
滑稽な道化師のように、頬には水滴がへばりついている。
どうしてこんな結果になったのだろうか。
後悔ばかりが胸に去来する。
もっと素直になれたのなら、違った結果になったのだろうか。
私から去っていったあなたに問いかけたかった。
成人を迎えたのだから、これからは一人でしっかりしなきゃいけない。
もう両親を頼ることはないだろう。
逆に、老いていく両親を支えられるような人物になりたいと思った。
漫画やゲームに夢中にならずに、地に足をつけて生きていく。
そんなことができるのだろうか。
まだ夢現の中にいる自分が。
カレンダーの大安吉日に花丸が描かれていた。
週間天気予報でも、晴れが続いている。
花丸が描かれた日に、姉が純白のドレスを着て、永遠を誓う。
苦労してばかりの姉だったから、優しい旦那さんと幸せになってほしいと思う。
ドレスの試着に付き合った時に見た姉は美しかった。
思い出して微笑む。
心臓がドキドキと高鳴って壊れそうだった。
粗相がないように、と母親から何度も言われた。
俯いて寝台の上のちょこんと座って、夫になる人物を待つ。
重々しく扉が開いた。
私は顔を上げぎこちなく笑って、夫になる男性を見た。
男性は私の手のひらを軽く握る。
「緊張しなくても大丈夫だ」と笑う。
『すぐになれるよ』
手を繋ぐのも、なんだかくすぐったかった。
恋人同士になったのだから、そんな些細なことで、いちいち煩わされるのも悪くて言い出せなかった。
隣を歩く恋人が「すぐなれるよ」と言った。
低いささやき声に、心臓がトクンッと跳ねる。
恋人らしくなれますか?
慣れますか?
『サヨウナラなら、
せめてカーテンコールを。』
どんな場面でも別れはあるものだ。
いくつもの『サヨウナラ』をくりかえしてきた。
辛い別れもあった、希望を持てる別れもあった。
私は舞台に立つ女優のようだった。
サヨウナラなら、せめてカーテンコールを。
輝く笑顔で別れてあげるから。
『また、鳴くの?』
こんな雨の日だった。
段ボールに入れられて捨てられた子猫を拾ったのは。
恋人と別れたばかりの私と重なって見えた。
だから子猫を抱いて、動物病院に駆けこむことに躊躇がなかった。
静かな子猫だった。
鳴くのは、決まって雨の日だけだった。
それはまるで涙のようだった。
「iotuは、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは現実逃避のための嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。」
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僕は、夢を見るような気持ちで最後の嘘をついた。
それは現実逃避のための嘘だった。
それぐらいの夢を見せてほしい。
これを最後の嘘にするから。
「まだ一人で生きていける」と。
君がいなくても大丈夫、と嘘をついた。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
せめて、強がりぐらい言わせてほしい。
どんな傷であっても完治する肉体を生まれ持った少年。
夢の中で見る夢は必ず実現する少女。
二人の出会いは少年が少女を助けたところから始まった。
最初はひそかな噂だった。
それが神殿の神託のように広まるほど、世界は滅びに向かっていた。
どんなことがあっても、世界は彼らを手放さない。