起きてカーテンを開く。
窓ガラスが濡れていた。
外は快晴が広がっているというのに、不思議だった。
夜中に雨が降ったのだろうか。
それなら片頭痛が起きても不思議ではなかったけれども、スッキリとした目覚めだった。
窓についた水滴を窓ガラス越しになぞる。
ひんやりとした感覚が伝わってきた。
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陽光が眩い季節になった。
幼馴染がサングラスをかける季節になったということだった。
度の入ったサングラスをかけた幼馴染は私から遠ざかるようだった。
そういうつもりでかけているわけではないことは知っているけれど。
だから室内でサングラスを外した時に見られるアメジスト色の瞳が愛しい。
嫌々ながらも、嫁いできてくれた花嫁に感謝しなければならない。
二人は宴会会場から追い出されて、吉祥図案が刺繍された部屋に通された。
花嫁にかかっていたベールを花婿は取る。
美しい娘だった。
花婿は見惚れた。
娘は花婿の指先を折れんばかりに握る。
初夜の緊張が伝わってくるようだった。
菫色の瞳が印象的なドール。
唇は紅くチェリーを思い起こさせた。
ずっと僕を待っていたかのように、菫色の瞳が僕を見つめる。
お人形さん遊びをするような歳でもないのに、心惹かれた。
気がつけばショーウィンドウにふれていた。
ドールの手を取るかのように。
運命だと思って店に入る。
『それは花のように』
君はいつでも俯いていた。
他人の視線を気にして、真っ直ぐと誰を見ることはなかった。
そんな君が心を許すのは、学校の花壇だけだった。
押しつけられた係だというのに、花壇に水をあげていた。
僕は偶然、君の笑顔を見てしまった。
それは花のように素敵なものだった。
『魔法使いの落とし物』
最初、星が落ちてきたのかと思った。
夜空からキラキラと輝く金剛石のような欠片が降ってきた。
思わず僕は手を伸ばした。
あたたかいそれは手のひらに収まった。
「ごめんなさーい」と空から声が聞こえてきた。
見上げればクラシックな箒に乗った魔法使いが飛んでいた。
『君よ恋。』
君に名付けられた想いの名前は『恋』。
ひらひら舞う蝶のように自由に飛んでいけるようにつけられた。
かたくなな心を開いて、どうか僕と恋をしませんか?
君を縛りつけるつもりも、枷をはめるつもりもありません。
この季節に舞う蝶のように自由なままでいてくれて結構。
君よ恋。
君があまりにも優しく笑うから
泣けてきたじゃないか
傷ついたのは君の方だというのに
僕の目から涙が零れる
僕には君の心についた痕を消し去ることはできない
君の代わりに泣くぐらいしかできない
どうして君は笑ったんだい?
「iotuは、ひどくためらいながら最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「世界は希望で溢れている」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。」
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僕は、ひどくためらいながら最後の嘘をついた。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
最後にするには陳腐で、滑稽な嘘。
それを君に告げるのは、枷をはめるようなものだった。
「世界は希望で溢れている」と。
絶望した色の瞳が僕を見据える。
嘘だと言えたら、どんなに。
僕と君は救われるだろう。
海に沈めたあの日の思いは、真珠になっただろうか。
サヨウナラと言ったけれども、涙を見せることはなかった。
そんな可愛げのない女だった。
あの日、飲みこんだ涙は海の底で真珠になったのだろうか。
それは誰にも分からない。
貴方にも、私にも。
真珠になって、いつか誰かの飾りになってほしい。
出会いもあれば、別れもある。
それが春という季節を象徴していて、なかなか慣れることができなかった。
カーテンからもれる日差しに頭痛を覚えた。
胃もなんだか重く、気持ち悪い。
理由は簡単だ。
送別会で呑みすぎたのだ。
一番親しくしてくれた先輩の移動だったから、栄転とはいえ辛かったのだ。
少女は波打ち際を裸足で歩く。
青年はそれを眺めながら、海水は冷たくないのだろうか、と思っていた。
枝を拾った少女は砂浜に文字を書く。
波に消えるだろう儚い遊戯だ。
小走りで少女は走ってきて、青年の腕をつかむ。
砂浜には文字が残っていた。『好き』と。
心を盗むには充分な言葉だった。
いたずら心が湧きだした。
暗い映画館の中、少し退屈な映画を並んで見ていた。
肘置きに置かれた大きな手。
そっと、指を握り締める。
ぬくもりが伝わってきて、ほんのりと安堵してしまった。
映画を観ていたはずの瞳と出会う。
指がほどかれて、残念だと思っていたら、大きな手が握り締めてきた。
『夕焼けがまた、
まだサヨウナラは悲しいよ
だなんて言うからさみしくて。』
空は真っ赤に染まっていた。
いつもの別れ道で君が立ち止まる。
「夕焼けがまた、まだサヨウナラは悲しいよだなんて言うからさみしくて。泣けそう」と君は言う。
サヨウナラが悲しいのは夕焼けではなく君だ。
『死の終わりに』
祖母の死の終わりに、祖母が好きだった赤い花を添えた。
まるで眠るように健やかな旅立ちだった。
四十九日も過ぎ、天国で祖父と出会っているだろうか。
映画になるような綺麗な死にざまだった。
こんな風に穏やかに死を迎えられる人はどれだけいるのだろうか。
羨ましかった。