『夢葬』
いつか見た夢幻を弔おう。
二度と見られない幻想にお葬式をしよう。
鍵盤のように白と黒の幕の中、喪主は僕だ。
葬る夢はずっと僕の傍にいてくれたのに、僕は真っ直ぐと見つめることはなかった。
墓を立てて、そこには何て書けばいいのだろうか。
いつか見た夢の名はもう覚えていない。
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「iotuは、少しだけ震える声で最後の嘘をつきました。
それは傷をいやすための嘘でした。
「もう希望に捨てられるのはいやなんだ」、と。
嘘だと見破ってくれたらいいのに。」
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僕は、少しだけ震える声で最後の嘘をついた。
それは傷をいやすための嘘だった。
誰の傷だろうか?
僕の傷だろうか、君の傷だろうか。
もう区別がつかないほど満身創痍だ。
「もう希望に捨てられるのはいやなんだ」と。嘘をついた。
君が嘘だと見破ってくれたらいいのに。
そんなことはないけれど。
君は一つも悪くない。
その手が血に塗れていても、君は無垢だ。
だから僕は君を落ち着かせるように言った。
「全部ぼくのせいにしていいよ。君は何も知らない。偶然、立ち会っただけだ」
僕の言葉に、君は機械づくりのように顔を向ける。
「さあ、手を洗って、早く逃げるんだ」と僕は微笑んだ。
僕は君の唇を啄むように口づけをした。
僕の愛をありったけ注ぎこんだ。
性急な口づけに君は驚いているようだったけれど、解って欲しい。
僕にとって君は唯一の愛している人だった。
君以外の人間はいらない。
それほど君という存在は大きかった。
人を愛するということを教えてくれたのは君だった。
君があげる悲鳴を聞き続けていた。
秒針の囁く声とハーモニーする。
僕を馬鹿にし続けていた君にも意外な欠点があったのだ、と感じいった。
君のお願いは安っぽくて、哀れだった。
君は叫び続ける。
どれほど泣き続けるのだろう。
囁き声を奏でる秒針を眺めながら、僕は見物した。
楽しい気分だった。
『行かないで』と言えなくて優しく、腕に触れる。
離れていこうとしたあなたは、立ち止まる。
私の手を撫でて、一本ずつ指を腕から離す。
そして、すっかりとつかんでいた手をほどくと、無言で背を向けた。
ああ、これで別れなんだと思うと、私はいつまでも小さくなっていくあなたの背を見続けた。
『指でも、切りにこう。』
お願いがあるの、と彼女が言った。
どんな願い事?、と僕は尋ねた。
約束が欲しいの、となおも彼女は言う。
それなら指でも、切にこう。と僕は気軽に言った。
彼女の大きな目が瞬いた。
小指を差し出すと、彼女はそれに絡めた。
約束を守るのは指切りで充分だ、と思う。
『サヨウナラをくれよ』
これでお別れだというのなら、飛び切りのサヨウナラをくれよ。
忘れられない、一生に残る痕をつけてくれよ。
それが別れを言い出す礼儀というものだろう。
こっちには何の得もない。
それでも別れてやるって言うんだから。
サヨウナラぐらい我が儘を言ってもいいだろう。
『生業は、月の満ち欠け』
生業は、月の満ち欠けを見張って、書物に記すこと。
独り天文台にいて、黙々と記す。
今日も月は綺麗だった。
それを分かちあう人がいないのが寂しい。
月の満ち欠けは規則正しく、それにあわせる僕の生活も規則正しい。
そろそろ月が昇ってくる時間だ。
身を乗り出す。
「iotuは、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をつきました。
それは切望のような嘘でした。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」、と。
君は何も知らないままでいて。」
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僕は、どうしようもなく泣きたい気分で最後の嘘をついた。
それは切望のような嘘だった。
涙をこらえて、震える声で、君に嘘をつく。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」と。
君と過ごす毎日に、くだらないことなどないというのに。
どうか君は何も知らないままでいて。
嘘つきの僕は願った。
奥手のあなた。
寒さを言い訳にして手を繋いでもいいのに、それすらできない。
これではいつまでたっても恋人同士らしくなれない。
だから、私の方から歩み寄る。
「寒いけど、手を繋いでいればあたたかいね」とあなたの手を握る。
「そうですね」緊張で震える声であなたは言った。
私は笑顔になる。
青春といえば甘酸っぱい恋愛だろう。
誰かが誰かを好きになる。
それは素敵なことだった。
同じ学校に入ってきた少年少女たちもそれを味わっていた。
それなのに、私は片恋すらできていなかった。
何が悪いのだろうか。
見当がつかなかった。
私は独り取り残されたようで、不満が胸から噴き出す。
布の上、ひとひらの舞う胡蝶を生み出す機械が止まった。
同じところを何度も、針は刺し続ける。
どうやら糸と糸が絡まってしまったようだ。
機械を一度、止める。
引っかかるそれを切ってしまう。
そして新しい糸を針に通す。
機械を再起動すると、細い糸は再び胡蝶の文様を刺繍しだした。
安心する。
『星さえも堕ちる時には身を焦がす。』
星さえも堕ちる時には身を焦がす。
小さな蛍でさえ恋に堕ちる時には光り輝いて身を焦がす。
だから、恋をした僕が身を焦がすのも不思議ではない。
通りというものだ。
小さくささやかな光を発しながら、君への想いで胸を焼き尽くす。
たとえ届かなくても。
『バレンタインだから
友達、やめませんか?』
いつも仲良くしている女子生徒に呼び出された。
どんな用があるのだろうか。]
一緒に帰る時に話してくれればいいのに、面倒な。
女子生徒は可愛らしくラッピングした小箱を差し出した。
「バレンタインだから友達、やめませんか?」と言った。