ことばをかけあって、和みあった日々にハサミを入れる。
もう二度とこない時間と綺麗に『サヨウナラ』をする。
淋しくなんてないよ。
悲しくなんかないよ。
ハサミで切り取られた想い出は、胸の中のアルバムに収められるから。
だから『大丈夫だよ』とあなたとの想い出の輪郭をなぞる。
『一匙のいいわけ』
どんなことも許してきた。
どんないいわけも頷いてきた。
「仕方がないよ」「そんな時もあるよ」「運が悪かっただけだよ」と逆に慰めてきた。
それはコーヒーに一匙入れる砂糖のように。
それで心の整理ができるなら、かまわなかった。
一匙のいいわけは、君を甘やかした。
『君は酒べ』
唐突な恋の終わりに、友人が慰めてくれた。
ジョッキ片手に、乾杯をした。
「きみはさけべば良いと思うよ」と友人は言った。
「こんなところで?」
「んー、漢字変換が間違っているみたいだね」と友人はレシートの裏にボールペンで『君は酒べ』と書いた。
「思う存分、酔うといい」
『にわか恋は心を濡らすには強く』
まるでにわか雨みたい。
にわかにやってきた恋は心を濡らすには強く、全身をびしょ濡れにした。
心の中では涙が滴り落ちて、乾く間がない。
唐突にやってきた恋の行方はどちら方面だろう。
にわか雨のように突然、上がるのだろうか。
ずっと続けばいいのに。
「iotuは、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をつきました。
それは悪あがきのような嘘でした。
「幸せなんて、どこにもないんだ」、と。
こんなことしか言えないなんて。」
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僕は、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をついた。
それは悪あがきのような嘘だった。
「幸せなんて、どこにもないんだ」と。
幸せにしてもらうことばかり考えて、自分から行動しない、僕にはお似合いな嘘だった。
こんなことしか言えないなんて。
君に軽蔑されるだろうか。
それでもいい。
雨の日の約束は、大きな傘をひとつ持って、相合傘をすることだった。
いつもは遠いあなたがすぐ傍にいる。
だから、梅雨時期は大歓迎だ。
大手降って、あなたの傍にいられる。
地味な男物の傘を持って登校してくるあなたを見て、私は微笑む。
今日は雨が降るのだろう。
下校時間が楽しみだった。
あなたはいじわるだ。
いつだって私を困らせる。
あなたがいじわるする度に、心の中には不満が溜まっていく。
いっそ、それをぶちまけたい、と思ったのは何度あるだろうか。
私がどれだけ訴えても、あなたはいじわるをやめることはないだろう。
屈折した愛情表現だということを知ってしまったから。
星明りを頼りに、起きている午後三時。
未来へ希望を託して、深々とした夜をやり過ごす。
それなのに思い浮かべるのは君のことばかり。
ぐっすりと眠っているだろう君は未来そのもの。
朝陽のように明るい。
月のない夜に目覚めている僕には、少し重たすぎる。
僕は星空を見上げためいきをついた。
あなたが無理矢理、私が隠していた指先を指先でつつく。
バレてしまったら仕方がない。
指先をあなたに見せる。
「どうしたの? それ」とあなたが尋ねる。
「ちょっと怪我しちゃって」と私は言葉を濁す。
あなたに差し入れるために、お菓子作りに挑戦していたら、包丁で切ったとはいえなかった。
いつもは食べこぼすから、と袖を通さない白いブラウスを着る。
水芭蕉の花言葉の通り『美しい思い出』になるだろう。
花なんか咲きっこないビルの屋上で靴をそろえてフェンスの向こうを見る。
死にたがりの私の願いが叶うのだろうか。
あなたがいないこの世界には少しも未練はなかった。
『君が馬鹿にした恋の顛末』
実るはずのない片恋を君に話した。
それは愚かな選択だった、とすぐに気がついた。
面白い話を聞いたように、君が馬鹿にした。
そんな君がその恋の顛末を見届けることはなかった。
君が転校したのだ。
住所は聞いてある。
君の言うとおりになったけれども後悔はない。
『恋虫』
恋をしていることを光ることで表す恋虫になりたい。
そうすれば、この気持ちをあなたに分かってもらえるだろう。
静かに口を閉ざしていても、あなたに通じるだろう。
ほんの一夜でいいのだ。
この恋をあなたに届けられるというのなら、恋虫になりたい。
光ってあなたの視線を集めたい。
『3番線に優しい嘘が流れた』
最終電車をホームで見送った。
もう電車はやってこないし、発車することもない。
どれだけ独りぼっちで、ホームに立ち尽くしていたのだろうか。
ふいに流れるはずのないアナウンスが流れた。
『まもなく希望という光がやってきます』
3番線に優しい嘘が流れた。
「iotuは、少しだけ震える声で最後の嘘をつきました。
それは歩き出すための嘘でした。
「いなくなったりなんてしないよ」、と。
こんな酷い嘘は、もう二度と吐けない。」
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僕は、少しだけ震える声で最後の嘘をついた。
それは独りで歩き出すための嘘だった。
「いなくなったりしないよ」と。
君を置いて、違う道を歩き出そうとしているのは、君だって分かっているだろう。
だから君は寂しそうな笑顔を浮かべた。
こんな酷い嘘は、二度と吐けない。
痛む胸が教えてくれた。