現在、時刻は古めかしく言えば丑三つ時。
昔と違うのは街の明かりは明るすぎて、隠れて呪うということができなさそうなことだ。
蛾のようにコンビニに惹かれる。
真昼よりも明るい店内で缶ビールを買う。
こんな時、独り身だということが辛い。
愚痴ろうにも友だちは故郷だ。
僕は静かに心で泣く。
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「どうしてついてきたの?」君は学校の屋上で尋ねた。
君の真っ直ぐな瞳が強くて、僕は言葉に詰まった。
僕は目を逸らしつつ、自分の手のひらを折れんばかり握る。
「もしかして、ここから飛び降りると思った?」君は微苦笑をする。
背よりも高いフェンスが鳴った。
「あまりにも現実的じゃないわ」
小さな頃のお友だち。
色なき風にふわりと現れた妖精と『こんにちは』と挨拶をする。
キラキラの粉を撒いて小さな翼を羽ばたかせて色づいた花に着地する。
妖精は微笑んで魔法の粉を私にかけてくれる。
一面の花畑が広がる。
私の背に翼が生えて一緒に空を飛んでいく。
大人になるまで。
『空ないよ』
君が初めて都会で迎える夜だった。
故郷では星が降るように輝いて眩しいぐらいの静寂が漂っているのだろう。
「空ないよ」と君は言った。
明るいネオンの看板に、夜遅くまで仕事をしているビル群に。
まるで昼よりも明るすぎる空は白んでいた。
君は途惑ったように都会の空を仰ぐ。
『ハッピーエンドの蛇足』
「どうして継母は焼けた靴で踊らなきゃいけなかったんでしょうか?」シンデレラの本を抱えた少女が言う。
「民衆というものは嗜虐性を持っているのさ」青年は少女の頭を撫でる。
「ハッピーエンドの蛇足のような気がします」少女は俯く。
「そうだな」青年は頷く。
『代理失恋』
『今夜、失恋するから、代わってくれないか?』という馬鹿らしい言葉をかけられた。
『失恋現場に立ち会いたくないんだ。もうとっくに終わってるって分かっているけどさ』依頼人は告げる。
そうして、私は代理人になった。
依頼人が指定した場所で、恋が終わった証を受け取る。
「iotuは、夢を見るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「これ以上関わらないでくれ」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。」
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僕は、夢を見るような気持ちで最後の嘘をついた。
これが夢なら、とっておきの悪夢だろう。
早く目覚めてしまいたい嘘だった。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
「これ以上関わらないでくれ」と。
君と距離をとるような言葉を放つ。
嘘だと言えたら、どんなにいいだろう。
悪酔いするような夢だ。
君は構って欲しいから、隠れ鬼を始めた。
君は隠れ鬼の天才だ。
突拍子もないところに隠れる。
皆が君を探し回って、見つからないから僕が呼び出された。
僕は直感を信じて君の影を探す。
程なく見つけた君はうずくまって、静かに泣いていた。
僕は君の隣に座って、しばらく君に付き合うことにした。
旅人は大地を踏みしめるように歩く。
所詮、流浪の民の一人だ。
目的地なんてない。
風が吹くように、気ままに歩き続けるだけだ。
進み続けたら十字路に出くわした。
どちらの道を選べればいいだろうか。
旅人は懐からコインを取り出した。
そして、慣れたコイントスをする。
きらりとコインが輝いた。
『散文的ガール』
「君の足音は散文的だ。バラバラで韻を踏んでいない」と課題を届けた教授に言われた。
足音で韻を踏むとは、と思ったけれども「そうですか」と私はうなずいた。
「散文的ガール、と言ったところだろうか」教授は言葉を紡ぐ。
「ガールという歳ではありませんよ」と私は笑う。
『殺意は小説より奇なりて』
今日は帰り道の足も軽かった。
冷蔵庫の中には、コンビニで買ったスイーツが待っていた。
仕事帰りに食べようと、今日はまでとっておいたのだ。
「ただいま」と部屋に入ると「おかえり」と同居人とスイーツが目に入った。
ふいに殺意が湧いた。
小説よりも奇なりて。
『これらが君らの本当だ』
「これらが君らの本当だ」と幼馴染の勝利が言った。
双子の姉の葵と目を合わせる。
袋からは写真が何枚も出てきた。
「同じでようで、全然違うだろう?」勝利は言った。
葵が一枚、手に取った。
それを覗く。
怪我をしているのに笑っている葵の隣で、私は泣いていた。
「iotuは、愛を囁くように優しく最後の嘘をつきました。
それは切望のような嘘でした。
「まだ一人で生きていける」、と。
・・・うまく笑えたかな?」
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僕は、愛を囁くように優しく最後の嘘をついた。
この嘘が君の慰めになるように祈りながら。
それは切望のような嘘だった。
「まだ一人で生きていける」と。
君に寄りかからずに、一人で立っていられる。
そんな嘘をついた。
君は微笑みに紛れた嘘に気づかなかっただろうか。
・・・うまく笑えたかな?
木が鬱蒼と茂る森の中、一人で飛びこむ。
石畳があるから、この先に神社があることは確かだ。
木々は天高く伸びていて、日差しを遮って、道は薄暗い。
バサバサッと音がして私はびっくりする。
引き返そうかと思ってしまう。
鳥の羽ばたく音すら、怖かった。
けれども、ここまで来たのだ歩を進める。
あなたを私を置いてきぼりにして、ずんずんと進んでいく。
旅行というよりもオリエンテーションだ。
私はもっとゆっくりと観光したいのに、あなたは旅行計画通りにスポットを立ち寄る方が重要のようだ。
私は小走りについていく。
そして、何件目かの神社で上目遣いで、あなたの両手を両手で包む。