路地裏に隠れるように二人の姿があった。
「やるなら、とっとやってくれ」と青年は言った。
それでもなお躊躇するような少女にためいきをつく。
「時間がないんだろう?」と青年は急かす。
少女は恐る恐る、青年の手のひらを折れんばかりに握る。
青年の手の甲に血のように紅い文様が浮かび上がる。
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『月は誰を照らすと思うの?』
「今宵、月は誰を照らすと思うの?」夕暮れが終わる頃、君が言った。
「それが僕たちだったらいいね」と僕は意味深に言った。
「そうね。約束をしましょう」君が笑った。
そんなことはできないのに、果たせない約束を増やしてしまう僕ら。
月は僕らを照らさない。
『どうせなんて言って、未だに残る、どうにもできない想い。』
どうせ私なんて、路傍の石。
誰にも見られることなく、誰にも気に留めてもらえない。
そんな存在なんだ、と想っていると涙があふれてきた。
どうせなんて言って、未だに残る、どうにもできない想い。
貴方の一番になりたかった私。
『季節は君の思い出にふれ』
どんな季節であっても、季節は君の思い出にふれる。
悲しかった記憶も、嬉しかった記憶も、季節と共に思い出になった。
だから巡りくる季節に、君は思い出す。
僕と一緒にいた思い出も、思い出してくれると嬉しいと思うだけれど。
そんなことは、高望みだろうか。
「iotuは、無意識に緊張しながら最後の嘘をつきました。
それは本音とは真逆の嘘でした。
「怖いものなんてないよ」、と。
君は何も知らないままでいて。」
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僕は、無意識に緊張しながら最後の嘘をついた。
それは本音とは真逆の嘘だった。
「怖いものなんてないよ」と、言った声が震えていた。
君に告げるのを、緊張しているのが分かった。
君とは、これで離れ離れになる。
君に忘れられるかもしれない。
それが怖かったのだ。
君は何も知らないままでいて。
夕暮れの中、とぼとぼと歩いていた。
練習試合の帰り道だった。
練習試合はコーチ役の先生も慰めがないほどのボロ負けだった。
私は『絶対、強くなる』と夕焼けの中で誓った。
このまま、負けたままでいるのは悔しい。
みんなにも、そう思ってほしかったが、無理のようだ。
すすり泣き声が聞こえる。
会釈をされて、ついついその相手を見つめる。
見つめられた相手は途惑ったような表情を浮かべた。
それも、そのはずだ。
慌てて私も会釈をする。
対等に見てくれたのだと思ったら、心が弾んだ。
家族の中では、いつでも一番下扱いをされていたから。
社会に出るって良いこともあるんだな、と思った。
渡り廊下の先は生徒指導室だ。
別に私が何かをしたわけではない。
むしろ、これから私のために先生が時間を割いてくれるのだ。
受験の面接の練習だ。
「大丈夫だって。それに本番じゃないんだからさ」と親友は元気づけてくれる。
私はそんな親友に遠慮がちに、両手のひらに触れる。
ありがとう、と。
『時を超え君に逢えたら』
時を超え君に逢えたら、二度と手放さないように抱きしめる。
別離は一度で充分だ。
二度もいらない。
抱きしめた君の耳元で、あの日言えなかった言葉をささやく。
運命が変わろうともかまわない。
君さえいれば、それだけで充分だ。
生命を懸けて時を超える価値がある。
『権力者達よ、若き火を見たか。』
デモの行進の先頭にいた青年が松明をかかげる。
目の前には城のバルコニーに立つ国王夫妻。
「権力者達よ、若き火を見たか。ここから出ていってもらうことも、考えている!」青年は声を荒げる。
それを見て王妃は震えて、国王にしがみつく。
王子は泣きだす。
『シティガールと
ジャングル向きの彼。』
「よく、付き合っているわね」と親友が言った。
カランとグラスの中の氷が鳴った。
その音は、親友の笑顔のようでカランと。
「彼ってジャングル向き。って感じでワイルドでしょ。そういうあなたは、街が似合うシティガール」親友に突っこまれた。
僕たちは生まれ育った小さな町を出ることにした。
もう限界だったのだ。
逃げるように、最低限の荷物を持って最終列車に乗った。
「本当に良かったの?」と君は不安げに尋ねる。
君の小さな手を握り締める。
「君と一緒なら何だっていい」僕は君を慰めるように微笑んだ。
君の強張っていた顔が緩む。
神剣・神楽を持って大通りを歩くのは心配だった。
それは、いつ戦闘になってもおかしくない、ということを意味をしていたからだ。
敵に回った同胞は、街中でも襲ってくる。
いくら結界が張られているとはいえ、戦闘後の傷跡は瞬時には治らない。
中立の病院も胡散臭くなってきた。
先が読めない。
あなたと対等になりたくって、私は背伸びをしていた。
ただでさえ年齢差があるのだから、それを埋めたくて仕方なかった。
そんな私の頭をあなたは撫でる。
「急ぎ足で大人になる必要はないんだよ」とあなたは優しく微笑んだ。
その言葉に胸を撃たれる。
やっぱりあなたから見たら子どもなんだ、と。
「本当に鈍間ね。次に行くわよ」と君は無理矢理、腕を触れ合わせる。
その頬が赤かったのを僕は見逃さなかったよ。
君はほんのちょっぴり素直になれない女の子。
そんな君が可愛いと思ってしまう僕は重傷かな。
「何ニヤけてるの?」君は目を三角にする。
そんな表情も僕は愛しいと思ってしまう。