『忘れかけた本棚の隅で待ち合わせ』
今日の待ち合わせ場所は、飛び切りの場所。
昔むかし、懐かしくなるぐらいに、時間が経過した昔。
待ち合わせ場所にしていた場所。
忘れかけれた本棚の隅で待ち合わせ。
君は昔のように袴姿で現れるだろうか。
秘密の待ち合わせ場所に、君は来るのだろうか。
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『恋癖はなおらないまま』
君の恋癖はなおらないまま、成人を迎えた。
誰彼問わずに君は恋に落ちる。
恋をしていない時間の方が短いぐらいだろう。
まるで癖のように、君は誰かを好きになる。
僕じゃない、誰かに。
僕は呆れながら、君の横でその様子を眺める。
そんな僕を臆病だと笑うだろうか。
『矛盾の美談』
「あなたは私のことが嫌いだけど、私はあなたのことが好き」君は唐突に言った。
「別に僕は君のことが嫌いじゃないよ。好きじゃないだけ」僕は正直に告げた。
グラスを抱えるように握った君は微笑む。
「そんなあなたが大好きよ」と言う。
まるで矛盾の美談だ、と脳裏を過った。
「iotuは、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をつきました。
それは相手の笑顔のための嘘でした。
「欲しい物のは手に入れたから、もういいんだ」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。」
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僕は、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をついた。
それほどまでに、この日がくることに怯えていた。
それは相手の笑顔のための嘘だった。
自分のためではない。
「欲しい物は手に入れたから、もういいんだ」と手に入れる事のできなかった君に対して告げる。
嘘だと言えたら、どんなに。
向日葵のように、ただ一心に見つめ続けていた。
言葉を交わすことはなかった。
時折、視線が交わりあうだけだった。
私にとって特別だから、あなたの特別になりたいと思うようになってしまった。
そんなことを口の端に乗せて言った。
他愛のない世間話をつもりだった。
あなたはそれを、恋といった。
大雨強風だろうと電車が動いている限り、出社の義務があった。
雨戸がガタガタと鳴るほどの嵐の中、あなたは出ていくという。
せめて、と骨が頑丈な傘を玄関口で渡す。
こんなものでは濡れてしまうかもしれないけれど、ないよりはマシだろう。
「行ってらっしゃい」と私は言うと、額にキスされた。
大切にしなければいけない人がいるのに、好きな人ができた罰だろうか。
想いを告げるつもりはなかった。
だたあなたを想って綴った詩を書いていただけだ。
それを君に見つかってDeleteさせられた。
すでに過去のことなのに、時折、思い出したように心の傷が疼く。
きっと寝苦しい夜が悪いのだ。
久しぶりに会った君は、少しだけ大人に近づいていた。
僕の心音はでたらめの行進を始める。
デートコースは愛が好きの二人にとって当たり前の映画からのカフェだった。
君は満面の笑みを浮かべながら、僕の両手のひらに指を絡める。
「これじゃあ、何にもできないよ」と僕は降参しながら言った。
『私の恋も君にとっては一夏の玩具』
私は暑い夏に君と熱い恋をした。
その恋も涼しい風に吹かれて終わっていこうとしていた。
そのことが切なくて、苦しくて、私は俯いてしまった。
私の恋も君にとっては一夏の玩具にしか過ぎないことを知っているから。
季節は秋に足を延ばしかかっていた。
『ありものねだり』
君が『恋が欲しい』と夜風に吹かれながら呟いた。
どうでもいいように、その実どうしようもなく。
僕はとっくに君に恋をしていたから『ここにあるよ』と言った。
君は『知っているよ』と僕の目を見て微笑んだ。
ないものねだりではなく、ありものねだりなんだと気がついた。
『ローン感情』
まるでローンのように借りてきた感情が僕を支配する。
自分自身のものではなない借り物の感情が、まるで元より自分のものだったように錯覚する。
そんなことはないのに。
このローン感情を抱えて、僕はどこに行くの?
フェンス越しに君が笑ったから、それでいいのかもしれない。
「iotuは、冷静であるよう心がけつつ最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「世界で一番、大嫌い」、と。
頼むよ、ごまかされてください。」
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僕は、冷静であるように心がけつつ最後の嘘をついた。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
向かい側のソファ席でメニューを見ている君に「世界で一番、大嫌い」と言った。
「エイプリルフールはとっくに終わったよ」と君は僕を見つめた。
頼むよ、どうかごまかされてください、僕の心にある嘘を。
天邪鬼な君が口を開いた。
「嫌い、って言ってよ」と呟くように告げた。
「なんで?僕はこれ以上ないぐらい君のことが好きなのに」と微笑んだ。
「どうして、そんな風に甘やかすの?私は自分が嫌いなのに」と君はうつむく。
「君がどれだけ君自身が嫌いでも、僕は君を好きでい続けるよ」と言う。
テレビから台風情報が流れる。
朝ご飯と弁当の準備をしていた私は手を止める。
アナウンサーが淡々と天気図を出しながら解説をする。
「今日は朝練なさそうね」と私は台所に戻る。
たまにはゆっくりと寝るのも悪くないだろう。
強い雨の中、家を出ていく息子を思って、ほんの少しだけ心配をした。
似たり寄ったりの集合住宅の郵便受けに新聞を入れていく。
朝というよりも夜に近時間帯に、来る日も来る日も新聞を届ける。
晴れの日も、曇りの日も、強風の日も、雨の日も、台風が接近している日も。
規則正しく、新聞を郵便受けに入れていく。
その単純作業に、気が狂う。
いつまで続ければいい。