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ついったーでポストした創作文芸系のlog。 中の人の都合でUPされないlogもあります
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『検閲済みの手紙』

検閲済みの手紙は、ほとんど黒で塗りつぶされている。
読めるところはわずかだった。
それでもこの手紙が届くことが何より楽しみだった。
生きがい、と言ってもいいほどだった。
直筆で書かれた文字を目でなぞる。
どの文字も愛おしかった。
返事を書くために紙を取り出す。
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『鯉に恋する子に故意す』

彼女は僕の庭の鯉に恋していた。
目をキラキラさせて、どれほど美しいか僕に語る。
その輝きが眩しくて、僕のはらわたは煮えくり返っていた。
今日もまた庭の鯉の話をするから、僕は料理人に晩ご飯は鯉にしようと告げた。
机の上に出てきた鯉に彼女は蒼白になった。
「iotuは、祈るような気持ちで最後の嘘をつきました。
それは相手の笑顔のための嘘でした。
「いなくなったりなんてしないよ」、と。
嘘だと言えたら、どんなに。」

------

僕は、祈るような気持ちで最後の嘘をついた。
どうか、この嘘が貫けますように、そう神様に祈った。
それは相手の笑顔のための嘘だった。
二度と曇らせたくなかったから、嘘をついた。
「いなくなったりしないよ」と微笑みすら浮かべて言った。
君に嘘だと言えたら、どんなに楽になれるだろうか。
ぼくたちが恋する理由は何だろう。
好きになってしまったから?
みんながお付き合いしているから?
独りぼっちは寂しいから?
どんな理由があるだろう。
どれもが正解で、どれもが不正解だった。
ぼくはきみだから恋に落ちたんだ。
シンプルな理由だけれども、それが事実だった。
そういうきみは?
僕と君とは、ありふれた出会いだった。
同じ学校の同じクラスの隣の席。
初めて言葉を交わしたクラスメイト。
僕は君に惹かれて、文化祭の後に告白した。
君は笑顔でOKしてくれた。
そして、今またありふれた哀しい別れを告げる。
進路が別れたのだ。
僕は上京して大学に通う。
君は専門学校だった。
「椿を数字にしたら、どの数字になると思う?」と僕は君に問いかける。
縁側で日向ぼっこをしていた君は「1番でしょ」と言った。
「どうして、そう思うんだ」僕は振り返って尋ねる。
「あなたが1番好きな花だから、1番」と笑顔で言った。
僕は椿の葉を放して「そうか」と頷いた。
よく見ている。
君は緊張しているのだろうか。
小動物のような目で僕を見た。
それからぎこちなく、自分の両手のひらを触れ合わせる。
それから手を差し出してきた。
僕は壊れ物を扱うようにその手を握り返した。
「これからはよろしく」と笑顔で挨拶をつけくわえた。
君は小さな声で「お願いします」と言った。
『おみくじ依存症』

私は大吉が出るまでおみくじを引いてしまう。
一つの神社で一回しか引けないのに。
それを知っている近所の神社の巫女さんは苦笑い。
私は立派なおみくじ依存症だ。
凶を引いても、最後に大吉を引ければチャラになる。
大吉が出るまで引けばそれまでの運勢は悪くないと思う。
『深夜鈍行』

結局終電間近まで残業をしてしまった。
家の最寄り駅まで、深夜の鈍行電車に揺られる。
自然とあくびが出る。
今週ももう終わりかと思うと眠気がやってきた。
地上の星たちが明るい。
それだけの人が残業をしていると思うと、自分は幸運な方だと考える。
家に帰ってご飯が食べたい。
『無声恋愛』

彼女の言葉は饒舌だ。
たまに早口で置いていかれそうになる。
それでも僕は勉強し続ける。
彼女と会話ができるように。
それを彼女が嬉しそうに笑うように。
この無声恋愛は長く続けばいい。
たとえ彼女の耳が聞こえなくても、手話がある。
だから大丈夫と僕も確かめるように笑った。
君は明るく、当たり前のようにいる少女だった。
そんな君と一緒にいると僕も当たり前の青年になっているような気がした。
今日も君は失敗談を朗らかに笑いながら言った。
それが微笑ましくて、目を細めた。
君は驚きながら僕を見た。
「うまく笑えてないのは自覚してる」と僕は言う。
君は首を振る。
空気が澄んできて天体観測にはもってこいの季節になった。
僕は流れ星を捕まえるように、毎夜君と夜空を見上げる。
望遠鏡を眺めていると、一筋の星が流れた。
「あ、流れ星」と君は残念そうに言った。
願い事を三回言うことができなかったのだろうか。
その声には未練があった。
僕は君の顔を見た。
『歌えないセイレーンの笛』

私はセイレーンとして生まれ落ちたのに音痴だった。
姉妹たちが耳を塞ぐほど酷いものだった。
そんな私に母は笛を渡した。
歌えないセイレーンには宝物になった。
試しに月のない夜に吹いてみた。
船は行路から惑い、やがて沈んでいった。
もう私は役立たずではない。
『復讐代行サービス』

両親に人生をめちゃくちゃにされた。
成熟していない大人が子どもを持ってはいけない、という見本だった。
高校を卒業すると飛び出すように家を出た。
それからの青春時代は同世代のそれとは違っていた。
へとへとになって家に帰りつくと郵便受けに一枚のチラシがあった。
『悲鳴が聞こえる』

隣の家から、毎晩悲鳴が聞こえる。
それから怒声。
遅れて泣き声と乱暴にドアを閉める音。
あまりに続くから警察に連絡した。
すると電話に出た警官は驚いた。
隣の家は空き家だというのだ。
勝手に空き家に人が入っているかもしれないとパトロールすることを承ってくれた。
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プロフィール
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iotu(そら)
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非公開
自己紹介:
iotuは五百箇という意味の古語から。
オリジナル小説サイト「紅の空」では、「並木空」というHNで活動中。
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