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ついったーでポストした創作文芸系のlog。 中の人の都合でUPされないlogもあります
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夕焼けの中で、君は微笑んだ。
僕はそれを聞きたくなくて両耳を手でふさいだ。
淡い桜色のリップクリームが塗られた唇が確かに動く。
それは最も知りたくないことだった。
何度言われても、慣れることはできない。
そんな言葉を君は律儀に言う。
夕焼けが終わろうとしている。
君が僕を置いていく。
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テレビは廃墟特集だった。
そんなものでも番組になるのだから、マスコミというものはスゴい。
かつて栄華を誇った屋敷が蔦に絡まれ、廃墟になっているのがテレビに映った。
どんな人物が住んでいたのだろうか。
興味が湧いた。
台所で夕食の準備をしていた君の視線を感じた。
まるで睨むようだった。
「行っちゃ嫌だ!」君は優しく、僕の両手にしがみつく。
「あなたがいない日なんて信じたくない」と君は駄々をこねる。
「大袈裟だな。ただの修学旅行だよ」と僕は微笑んだ。
「どうして一緒にいられないの?」君は一つ年下の幼馴染。
学校というシステムに乗っている間は、どうにもならないこと。
『焼け残りの恋』

太陽が燦々と輝く季節の写真が出てきた。
今は長袖でも寒いというのに、半袖の私は写真の中で笑っていた。
写真を集めて、焚火でもすれば忘れられるだろうか。
焼け残りの恋はほろ苦い。
誰も見ていないことを良いことに、涙を流した。
それでも恋心は鎮火することはなかった。
『踊る猫の栞』

「あれ?」本を取りだした君が声を上げた。
僕は無言で君の方を見やる。
「栞、知らない?」君は泣きそうな震える声で言った。
「見てないけど」と僕は尋ねた。
「踊る猫の栞。三毛猫が秋刀魚の前で踊っている絵柄の」大切なものだったのだろう。
君の目がみるみる潤んでいく。
『馬鹿を治す薬』

「どこかに売ってないかな?」と少女が言った。
「欲しいものでもあるの?」雑誌を読んでいた少年が顔を上げる。
少女はそっぽを向く。
「馬鹿を治す薬があったら、便利じゃない?」と少女は言った。
「そんな物があるのならノーベル賞ものじゃないかな?」と少年は微笑んだ。
「iotuは、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をつきました。
それは傷をいやすための嘘でした。
「君にもらったものは全部返す」、と。
どうか嘘だと気づかないで。」

------

僕は、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をついた。
それは自分自身と君の傷をいやすための嘘だった。
「君にもらったものは全部返す」と僕は努めて明るく言った。
これで別れなら、思い出してしまう物はいらない、と強がりを口にした。
どうか君よ、嘘だと気づかないで。
弱虫の僕を見ないで。
「見て見て」と君は距離を詰めてきた。
甘い香りがして、女の子なんだなと実感する。
シャンプーの香りだろうか、それとも柔軟剤の香りだろうか、それとも香水の香りだろうか。
「うちの子可愛い?」と君はペットのフォトを見せる。
俺はドキドキしてそれどころじゃない。
スマホよりも気になる。
携帯の振動音で目を覚ました。
無意識の行動で時刻を見る。
それから、ガバリッと起き上がった。
久しぶりのデートに寝坊する。
適当な服をひっつかみ、袖を通す。
最寄り駅までの道で『ごめん、遅刻する』とスタンプと共にLINEをする。
『疲れていたんだね、ゆっくりおいでよ』と返信が返ってくる。
神様というものは勝手で慈悲深い。
気になる女の子のポケットからハンカチが落ちた。
話のきっかけになる絶好のチャンスだった。
けれども、今までの接点といえばクラスメイトというだけだった。
急に話しかけられたら、気持ち悪いだろうか。
僕は拾ったハンカチの前で悩む。
チャンスは前しかない。
友だちから借りてきたDVDを二人そろって観ることになった。
お茶を淹れて、ソファの上にのんびりとくつろぐ。
俺は再生スイッチを押す。
それからは阿鼻叫喚だった。
どうやらDVDは本当にあった怖い話系だったらしい。
君は目をつぶって力強く、俺の指先にしがみつく。
そういえば怖がりだったな。
『蜂蜜から血の味がする』

窓際に置かれた蜂蜜は陽に透かされて、白いまな板に黄金色の影を作る。
ホットケーキにかけたら、美味しそうな蜂蜜を住人たちは手をつけなかった。
何故なら、その蜂蜜から血の味がするのだ。
まるで、搾り取ったような、煮詰めたような、体を巡るものよりも濃く。
『15時の汚れた食卓』

15時の汚れた食卓を綺麗にするのが役目だった。
子供が食べ散らかしたおやつの欠片を口にする。
甘くて美味しかった。
こんなものを残すなんて、もったいない。
下働きの少女は思った。
ここの坊ちゃんは少しでも気に入らないことがあると、出されたおやつを食べ散らかす。
『僕はまだ誰もが忘れた唄のなかに』

僕はまだ誰もが忘れた唄のなかに、存在している。
これから先、すり減るように聞かれるカセットテープのなかに、存在している。
そして誰もが忘れ去っていく唄をオルゴールのようにくりかえし奏でている。
始まりと終わりが同じように、ずっと奏でている。
「iotuは、幼子を慰めるかのように最後の嘘をつきました。
それは現状打破のための嘘でした。
「永遠を信じている」、と。
だってもう、仕方がないだろう?」

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僕は、幼子を慰めるかのように最後の嘘をついた。
それは現状打破のための嘘だった。
やがて来る終焉のために、それを気づかされないために、嘘をついた。
自分自身が信じていたかったのかもしれない。
「永遠を信じている」と僕は微笑んだ。
だってもう、仕方がないだろう?
他に言葉はなかった。
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プロフィール
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iotu(そら)
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自己紹介:
iotuは五百箇という意味の古語から。
オリジナル小説サイト「紅の空」では、「並木空」というHNで活動中。
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