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「 140文字の物語 」
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扇風機が回る音だけが部屋に響いていた。
青年は神剣・神楽を向き合っていた。
同胞殺しの妖刀は鞘の中で、大人しくしていた。
夜更けには神剣。神楽を持って、街に出なくてはならない。
お誘いの手紙が届いたのだ。
零れ落ちそうになるためいきを喉で殺し、青年はヘアゴムで髪を結んだ。
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ショッピングモールは冷房が効きすぎて寒いぐらいだった。
休日にランチを食べながら、ウィンドウショッピングを楽しもうというデートだった。
夏休みに入ったせいか家族連れが多い。
先に進んでいく彼とはぐれそうになる。
小走りで近づいてそっと、腕を握る。
「ごめん」と彼が謝った。
少年は暁を閉じ込めた水晶の輪郭を優しくなぞる。
これならあの子も気に入ってくれるだろうか。
そんな期待をしながら、小袋に入れる。
半透明の小袋の中で水晶は煌いていた。
少年は大切にカバンにしまうと、玄関のドアを開く。
鍵をかけて少女の家に急ぐ。
少女はどんな顔をするのだろう
泣いてしまえるのいっそ、この腕の中で泣いてほしい。
泣くのをこらえて唇を噛む姿を見て思った。
「泣いても良いよ」と僕が言っても、君は僕の前では泣かないんだろうな。
だから細い腕を引っ張って抱きしめた。
少しでも君の悲しみが癒えれば良いのにと思いながら。
柔らかな髪を撫でた
神剣・神楽を手にした時から、自由というものがなくなった。
常に気を張っている。
同胞殺しの妖刀は、青年を戦場へと駆り立てる。
気ままな独り暮らしだったのが、少女と出会い一変した。
けれども後悔はしていない。
少女ごと世界の平穏を守ると決めたから。
青年は今日も髪を結ぶ。
涙を零したことも、夜眠れないほど不安になったこともなかった。
楽しかった記憶しかなかった。
それを語ると「きっと幸せだったんでしょう」と言われた。
確かに、それは幸福だった。
過ぎてから気がつく。
キラキラと輝く想い出を携えて、今日も生きる。
また幸せな日々がくるときまで。
長い髪の方が好きだと聞いて髪を伸ばした。
ショートカットだったのがロングになるまで。
料理上手な女の子が好きだと聞いて台所に立つようになった。
でも、ある日貴方にお似合いの彼女ができた。
言う前に失恋してしまった。
髪は切れないでいる。
もしかしたら振り返ってくれるかもと。
アナログなコミュニケーションしか持ち合わせていない僕ら。
便利なデジタルなコミュニケーションよりも、密度が高いような気がする。
メールもラインもないから、飛び飛びになる手紙が二人を繋いでいる。
逢えば言葉なんていらず、無言で寄り添うあう。
一緒にいられる時間がすべてだ。
二人の関係が許されないというのなら、このままま世界の果てに行こう。
誰も知らない場所で、盛大に睦みあおう。
心に宿った恋情は、反対されるほど、燃え上がる。
どんな風が吹こうとも、どんな雨が降ろうとも。
胸に灯った恋心を消すことなんて不可能だ。
二人だけの世界に行こう。
あまりにも君が大切だから告げることができなかった。
移ろいゆく季節の中、ずっと一緒にいたけれども。
気持ちを伝えることができなかった。
どこまでも自由にいて欲しかったから。
縛りつけるような言葉を口にはできなかった。
君が離れていって、いまさらそれをちょっと後悔している。
カランコロンと音を立てて、グラスの中の氷がじっくりと溶けていく。
ガラス製のグラスから水滴がテーブルの上に落ちていく。
これで最後だと思うと、終わりの言葉が思いつかなかった。
カランコロンとグラスをもてあそびながら、流れていく時間に耳を澄ませる。
中途半端に伸びた髪をヘアゴムで結ぶ。
戦う前の儀式のようになっている。
神剣・神楽を手にすれば律動で、気分が高揚する。
不安げに見上げてくる双眸に、大きく頷く。
「必ず帰ってきてくださいね」と結界前で少女は言った。
残される方が辛いだろうに。
巫女は気丈にも見つめ返してくる
運命は残酷だ。
幾度めかの邂逅の末、幼馴染は冷酷な帝国軍人になっていた。
小さな村で一緒に生まれ育ったのに、運命は別たれた。
どちらに正義があるのか、分からなくなる。
ただ民を救いたいという気持ちで、解放軍に参加したけれども。
それが正しかったかどうか、判断がつかない。
口論の末、沈黙がやってきた。
同じ部屋にいるのに背を向けて知らん振り。
すると彼女が遠慮がちに、僕の手のひらを指先でつつく。
口下手な彼女なりのサイン。
「さっきは言い過ぎた。ゴメン」と素直に謝る言葉が出てきた。
「こっちこそ、ゴメンナサイ」瞳にいっぱいの涙を浮かべていた
「雪が見たいなぁ」と君が呟いた。
一面の銀世界を見るのが稀な地域に住んでいれば、当然だった。
「今年はスキーでも行く?」
と僕が言ったのは自然な成り行きだった。
寒さを言い訳にして、くっついていられると思った。
君は首を緩く横に振った。
「そんなにたくさんじゃなくていいの」
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