向かい合ったまま言葉を交わすことがなかった。
頼んだアイスカフェオレの氷がカランと音が妙に軽く響いた。
今日、呼び出された理由がまだ知らされていない。
カフェに入ってオーダーしてから沈黙が続いている。
ブレンドのコーヒーもぬるくなっているだろう。
嫌な予感がするからこのままでいい
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ふらふらと帰り道を歩く。
呑みすぎた。
自覚はあったが先に体の方がまいってしまったようだ。
夜更けで人通りも少ない道をとぼとぼと歩く。
月が綺麗だったが、それをささやくような相手もいない。
重たい胃と吐き気に悩まされながら、歩くだけだ。
早く胃薬を飲みたい、後悔しながら歩を進める。
「僕と結婚してもらえませんか?」婚約者から言われた。
生まれた時から決まっている結婚相手に、改めてプロポーズされたのだ。
他に好きな男性がいるわけでもない。
婚約を覆すまで嫌いな相手ではない。
「あくまで僕が、あなたを愛していたいんです。どうかYESと言ってください」と懇願された。
呪いの言葉のようだった。
「あなたは綺麗なままでいて」お母さんが丁寧に髪をすいてくれる。
鏡の前で「うん。分かった」と答える。
「お姉ちゃんみたいにはならないで」お母さんが髪を三つ編みにしてくれる。
一目一目、願いをこめるように。
わたしはお姉ちゃんのようにお母さんを困らせない。
みんなと同じ丈のスカート。
みんなと同じ髪の色。
みんなと同じ色のカバン。
校則違反しても、結局みんなと同じ。
私らしさはどこにもない。
そんなことをしたら同じグループにいられない。
みんなで一緒なのはいつまでなんだろう。
吐き気がするほど先の話だろう。
まるで鏡を見ているようで辛い。
「欲しいものがあるんだ」と幼なじみが言った。
普段から欲の少ない少年には珍しいことだった。
「何が欲しいの?」地元の大学に進学を決めた少女とは違い、少年は上京する。
餞別代りに欲しいものがあるなら、何でもあげたい気持ちだった。
少年は少女にキスをした。
「忘れて、なんて残酷だね」
食後に青年が新聞を読んでいると、少女がお茶を淹れてくれた。
湯気が立つ湯呑を手に取ると思わず微笑みが浮かぶ。
誰かがいるということは、こんなにも素晴らしい。
奇妙な共同生活も悪くない。
青年は中途半端に伸びた髪をかきながら、そんなことを思った。
向かい側に座った少女も微笑む。
彼は晴れ男だ。
彼が参加するイベントで雨になることはない。
天気予報すら覆すほどの晴れ男だ。
その反対に、私は雨女だ。
前日まで曇り予報が出ていれば必ず雨が降る。
気のせいだと友達は慰めてくれるけれども的中率が高すぎる。
そんな私は彼に告白されてお付き合いを始めることになりました。
赤い糸が小指と小指の先に結ばれていると信じていた。
運命なんて陳腐な言葉が似合うと思っていた。
でも、それは昼間に見る夢のようだった。
複雑に絡み合っていた赤い糸。
興味本位で解いた。
残されたのは切れた糸。
絡んだ糸は解けてしまった。
赤い糸は絡んでいただけで、結ばれていなかった。
少女はずっと泣いていた。
体中の水分を全て使っても、そんなに泣くことはできないだろうと思うほど。
家に帰って、少女を無理やり布団に押しこめた。
秒針が音を刻む静かな部屋で、ようやく安心したのか、少女は眠りに落ちた。
神剣・神楽の所有者としてもっと強くならなくては、青年は思った。
ずっと君に言いたいことがあったんだ。
でもそれを言ってしまったら、二人の関係が終わると知っていたから言えなかったんだ。
わがままで最低な人間だと思ってくれていい。
君にはその権利がある。
離してあげられなくてごめんね。
君を長いこと独占してしまった。
君には君の人生があったのに。
いつも傷だらけの君。
見えない場所が包帯まみれだった。
心が優しい分、傷つきやすいのだろう。
そのことを隠して微笑んでいる。
努力をしている姿に、胸を打たれた。
そんな君に寄り添いたいと思った。
それを伝えると、君は「優しいね。大丈夫だよ」と儚げに笑った。
大切にもさせてくれないの?
忙しい。
その一言ですれ違ってしまった二人。
諦めることを知ってしまった今、恋心も冷めてしまった。
「もう一度、チャンスが欲しい」と彼は言う。
嘘がつけない真っ直ぐな人だから、偽りの言葉ではないだろう。
でも彼から放置されていた時間の謝罪がなかった。
繰り返されるのが目に見えていた
言葉はいつも想いに足りない。
どんなに華やかに整えても、どんなに綺麗に削っても。
想ったほど伝わらない。
それでも言葉にすることをやめられない。
諦めが悪いのだろうか。
どうしても伝えたいのは「好き」って気持ち。
もし、明日が来なくても、今日の自分が遺しておけることはこれぐらいだ。
友達に片思いをしている女の子を好きになってしまった。
その一途な姿に恋してしまった。
自分にできるのは恋のキューピットになることだった。
女の子が友達の彼女になれるように協力する。
それだけが愛の形だった。
報われないのはわかってたけど、いざ友達から彼女を紹介された時、胸が痛んだ