少女が楽観視していたのが手に取るように分かる。
「絶対に覚えているから」と幼い頃の約束を覚えていた自分が間抜けに思えた。
少女が忘却してしまった以上約束は果たされない。
それでいいのだろう。
その方がいいのだろうと思ってしまうほど歳を重ねた。
想い出の中の二人は輝いている
少女は偶然、見てしまった。
白金色の頭髪の少年が下級生から手紙を受け取るところを。
テストの成績がよければ顔までよいのだから、モテるのも無理はない。
他人の告白を覗き見するほど趣味は悪くない。
少女は足早に立ち去った。
胸の内に眠るもやもやをどうすればいいのか分からない。
少女のアメジスト色の瞳は罪作りだった。
見る者すべてを虜にした。
少女に見つめられた者は、みな恋に落ちた。
少女のためなら命すら投げ捨てる者も少なくなかった。
屍が積みあがっていくのを少女は微笑みながら愉しんだ。
今日もまた葬式が行われた。
黒いヴェールの下の瞳は静かだった
一輪の薔薇よりも。
甘いケーキよりも。
お洒落なハイヒールよりも。
欲しいものがある。
それは「愛している」の言葉。
どんな高価なプレゼントよりも素晴らしいプレゼント。
強く抱きしめて、耳元で囁いて欲しい。
それが何より嬉しい。
だから、小声でお願いしてみた。
彼は下を向いた。
いつも通りの朝だった。
よく晴れた日のことだったを記憶している。
それが非日常の始まりだった。
学生鞄を持った姉が消えた。
「行ってきます」が最後の言葉だった。
日付が変わっても帰ってこない姉に両親は捜索願を出した。
申し分のない憧れの姉だった。
いったい何が起こったのだろう
生まれてきてくれてありがとう。
出会ってくれてありがとう。
君が進む未来に光あれ。
痛みも苦しみもない世界などないけれど、君に幸いあれ。
どんなに言葉を尽くしても足りないぐらいの感謝を。
今、祝いの言葉を束にして君に贈る。
今日という日を迎えたことに幸あらんことを。
日差しが強くなってきて、外出にはサングラスが必需品だった。
掛け時計に目をやる。
約束の時間にはまだ余裕があった。
たまには早めに出るか、と考えスニーカーを履く。
待ち合わせの場所は人だかり。
腕時計を見つめる。
待つことも楽しいと思った。
群衆の中から彼女を見つけ出す。
こんなところで朽ち果ててはいけない。
青年は神剣・神楽を構えなおした。
必ず帰ると少女と約束したのだ。
結界の外、少女は待っているだろう。
だから、勝って帰らなければならない。
妖艶に笑う女性が振りかぶってくる。
それを妖刀の背で受け止める。
ギリギリの攻防に焦る心を静める。
生命は生まれた瞬間から声を上げる。
生きている限り、鼓動を刻む。
それはとても当たり前のことだけれども尊いことだと思う。
死の瞬間まで続く歌声はとても貴重だ。
一人一人が違う音色を奏でてハーモニーになる。
生命の連鎖は続いていく。
今日も声が生まれる。
少女は上履きに履き替えながら溜息をひとつ。
今日は定期テストの結果発表の日だ。
廊下に張り出された紙に祈るように見上げる。
今回は自信がなかった。
せめて上位に名前が載っていますように、と思う。
白金色の頭髪の少年の名前の次に少女の名前はあった。
次回こそ逆転したいと思った
いつもの帰り道。
他愛のない話を語り合った。
離れ離れになると知っていたら、想いを伝えたかった。
今になっては過去の話。
それでも何度でも考えてしまう。
あの時、あの場所で、違う台詞を言えたのなら、二人の関係は変わっていたのだろうか。
それとも今と変わらなかったのだろうか。
メロディが流れる。
反射的に掛け時計を見る。
長針が0時のところで止まっていた。
唇を噛む。
冷めていくばかりの料理に視線を戻す。
鳴らない携帯電話を開く。
メールも着信もない。
あと一時間もすれば明日がやってきてしまう。
今日でなければ意味がないのに。
思わず泣き出しそうになる
夜の廊下はいかにも何か出そうな気がしていた。
音がなく、足音だけしか聞こえないのが、より恐怖をあおった。
だから少女がトイレに行く時は必ず付き合わされたものだった。
目を逸らしつつ、指先にしがみつく少女の先導に立った。
懐かしい記憶だった。
幼いながら頼られて嬉しかった。
夕方、花屋で一輪のカーネーションを買った。
駅前のケーキ屋さんでショートケーキを買った。
直接渡すのが恥ずかしかったから、ダイニングテーブルに置いた。
日付が変わる前に帰ってくるとテーブルの上には手紙があった。
プレゼントを喜んでもらえたようだ。
疲れが吹き飛んだ。