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「 140文字の物語 」
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唇を掠め取られた。
あまりに唐突な出来事だったから、苛立った。
こういうことは心の準備が必要だ。
案の定、顔が熱くなるのを感じた。
今ごろ、トマトよりも真っ赤な間抜け面をさらしているだろう。
だから、嫌だったのだ。
できるだけスマートに。
涼しげな顔をして受け止めたいと思う。
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書斎の扉をノックする。
返事はなかった。
いつものことなので、お盆を片手にドアノブを回す。
部屋の主は本の山に囲まれていた。
没頭すると、食事すら忘れてしまう主のためにサンドイッチと珈琲を用意してきた。
小さな卓の上にマグカップと皿を置く。
それから主から本を取り上げた。
テスト結果が掲示された廊下で少女の顔面は蒼白になった。
2位ですらなかった。
ケアレスミスをしたのだろう。
想像した順位ではなかったから、震える。
白金色の頭髪の少年と視線が会う。
少年はいつも通り1位だった。
「惜しかったね」感情のこもらない労いに少女は睨んだ。
刹那の快楽を選んだ責任を取らなければならない。
分かっていたことなのに後悔をした。
夏休みも終わろうとしていた。
それなのに宿題の山が片付いていない。
課題図書なんて本すら借りてきてはいない。
このままでは貫徹をしても間に合いそうにない。
潔く登校したほうがいいのだろうか。
青年が傷だらけで帰ってくる度に、胸が痛む。
無事を祈ることしかできない自分の無力さに嫌になる。
神剣・神楽があれば生命を落とすことはないと知っていても、辛い。
大きな怪我を負うことはないとはいえ、無傷というわけにはいかない。
待っているだけしかできないのが苦しい。
メールをしても電話をしても繋がらない。
不安になって家に押しかけた。
家の主はベッドの上で健やかな眠りについていた。
怒り顔で、手のひらを握る。
顔面の代わりに枕を殴る。
振動で家の主は目を覚ましたようだ。
目をこすりながら上体を起こす。
「もしかして遅刻?」暢気なことを言う
蒼穹色の瞳に見つめられると、鼓動が早くなる。
今まではそんなことなかったのに。
ある日、突然それはやってきた。
本当に唐突だったから、とても途惑った。
ドキドキする胸を抱えて、今日も何でもない振りをする。
他の人から見つめられても平気なのに。
蒼穹色の瞳は特別なのだ。
いつもと違う自分を見て欲しくて、浴衣を着た。
夏祭りは思ったよりも盛況だった。
人混みではぐれそうになり、慣れない草履が脱げそうになる。
楽しいはずのお祭りが、ちっとも嬉しくない。
前をずんずん進んでいく大きな背中を追いかけながら、涙目になる。
こんなはずじゃなかったのに
ゆっくりと隣を歩いてくれる彼。
手が触れそうで触れない距離。
好きから始まった恋は、まだまだ熟成していない。
彼の大きな手のひらに包まれたら、どんなに胸が弾むだろう。
彼の影を見つめながら、帰る道。
帰る方向が同じということしか知らない。
彼の心を覗いてみたいと思ってしまう
青年は神剣・神楽を持つ前に、必ず髪を結ぶ。
中途半端に伸びた髪を纏めるのは、くせなのだろうか。
儀式めいたそれを少女は目に映す。
これから戦いに同行する。
少女ができることは結界の外で待つことだけだけれども。
それでも一緒に行く。
青年の戦いを見守るのは役目だと思っている。
-
「どうか、その手で殺してください」と少女は言った。
片手でおさまるほど細い首に手を置く。
温もりと脈拍が指先に微かに伝わってくる。
「死にたいのです」真っ直ぐとした視線がこちらを見つめる。
瞳には何もかも諦めてしまった影が漂っていた。
力をこめれば、たやすく折れるだろう。
明日のことを考えると眠れない。
何度目かの寝返りを打つ。
すでに破滅への助走は始まっている。
もし過去を変えることができるのなら、今すぐに時計の針を逆回しする。
耐え難い未来が待っている。
刻々と過ぎていく時間に何度も後悔をする。
目をつぶっていても、そのことに囚われる。
深く追求せずに引き受けてくれた青年にかける言葉が見つからない。
満身創痍の姿を見ると心が痛む。
戦いが終わることを祈るしかできない。
せめて一緒に戦えればいいのに、と思う。
結界の外で少女は拳を握る。
何もできない無力な自分が嫌だった。
青年は今日も神剣・神楽と共に戦う。
今日も彼女は美しい。
それを正直に伝えたけれども鈍感な彼女には響かなかったようだ。
「みんなに言ってるんでしょ。ホント口が上手いんだから」と笑う。
その仕草も綺麗だったから、見蕩れる。
ずっと彼女だけを見ていることを伝える決心ができない。
さらりとかわされそうで不安になる
「ねえ、キスして」少女が青年に言った。
青年は少女の額にくちづけを落とす。
眠れない子が寝るようなおまじないみたいなキスだった。
少女は子供扱いされたことに怒る。
恋人同士のように唇を重ねたいのに。
いつだって額に唇を寄せる。
いつになったら本当の恋人になれるのだろうか。
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