不安で震えていた夜。
あなたは優しく、手のひらを両手で包んでくれたね。
それだけで安心した。
寂しさも苦しみも、全部解けていった。
でも、それも過去のこと。
クリスマスの明かりに照らされながら、独り街を歩く。
あなたがいない。
それだけでこんなに辛くなるなんて知らなかった。
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本に挟まっていた栞が風で吹き飛ばされた。
まるで空を舞うようにひらひらと流されていった。
慌てて追いかける。
着地地点には人影が一つ。
細い指が栞を拾った。「ありがとう」と礼をいうと「難しい本を読むんですね」と返ってきた。
「そうでもないよ」と褒められたことに照れる。
出会いは別れへのカウントダウンだ。
ずっと一緒にいられることはない。
いつか離れ離れになる。
それが今だっただけだ。
ホームで電車を何本も見送った。
目を逸らしつつ、指を握る。
冷たくなった指先を暖めることは、もうできない。
さよならを言う勇気すらなく、ただ手を握っていた。
街がクリスマスに彩られる季節。
吐く息も白く凝る。
マフラーに顔をうずくめながら、帰り道を急ぐ。
携帯電話で時間を見る。
着信履歴も、メールもなかった。
今日も彼は終電間際まで仕事だろうか。
体を壊さないか不安になる。
忙しいのはわかるから、声をかけづらい。
携帯電話をしまう。
深海に潜って、誰からも見られたくない。
どこまでも沈んでいって、海底で永遠の眠りにつきたい。
けれども現実的ではないから、我慢する。
深い眠りのまま、目覚めなければ良いのにと思う。
今日も目覚ましで起きながら、やってきた朝に落胆する。
毎日の中、磨耗していく精神を抱えて。
初めて会った時から他人とは思えなかった。
まるで昔から知っているような気がした。
遠い過去に出会っているような感じがした。
そんなはずないのに、そんなことを思わせた。
巡り会いという言葉がしっくりくる。
そっと、指先を両手で包む。
ぬくもりが懐かしいと感じた。
語りつくせない
目が覚めた。
傍らの温もりに安堵した。
心臓はうるさいぐらい早鐘を打っていた。
まだ起きるには早い時間だ。
健やかな寝息を立てる彼女に問いかける。
いつまで一緒にいてくれるのか。
目を静かに閉じる。
もう悪夢を見ないように祈るような気持ちで布団にもぐりこむ。
失われることが怖い
そこはどんなところですか?
ここよりも居心地の良い場所ですか?
そこに行きたいと言ったら、呆れますか?
今、生きている世界はとても窮屈なんです。
ちっぽけな自分を抱えて生きていくのが、とても辛いのです。
だから、そこが素敵な場所なら行きたいと思ってしまうのです。
悲しいことがありました。
とても悲しくて、街のイルミネーションも目に入らないぐらいでした。
うつむきながら、家に帰ってきました。
誰もいない部屋でようやく息がつけました。
我慢していた涙がハラハラと頬を伝いました。
悲しいこと悲しいといえないのが辛かったのです。
毎日、新しい朝が生まれる。
不思議なことは一つもないけれども、君と過ごすと違って見える。
昨日の続きの朝でさえ、煌いて見える。
一瞬一瞬が愛しく思えるんだ。
この世界で僕は今日も君と生きていく。
繋いだ手を離さない。
これからもずっと温もりを携えていく。
少女は勝手に変化した。
蛹が蝶になるように、女性へと変わってしまった。
二人並んで撮った写真を切り裂く。
もう少女はどこにもいない。
置き去りにされた。
一緒に遊ぶことはないのだと思うと感傷的にもなる。
いつだってそうだ。
仲良くなった少女たちはこちらの思惑通りにはならない。
どんなに頑張っても白金色の頭髪の少年に敵わない。
手元に返却された答案用紙を見て少女は震える。
見本として張り出された答案用紙は完璧だった。
迷うことのない筆跡でつづられたそれに、少女は沈黙した。
次こそは自分の番だと心を奮い立たせる。
そうでもしなければやってられない。
口唇にルージュを乗せてみた。
鏡の中、ぎこちなく微笑む自分を見る。
全然、似合ってなかった。
青白い肌に、真っ赤なルージュが浮いて見えた。
ベタベタ感触がして、より苦手意識を冗長する。
まだルージュを塗るには早いようだ。
ティッシュで拭った。
ルージュは引き出しにしまった。
少女の言葉ひとつで心が揺れる。
先程まであった自信が揺らぐ。
他人にどう思われていても気にならないのに。
少女だけは違う。
振り回されているのに、意外と嫌じゃない。
この気持ちに名をつけるとしたら、恋心だろうか。
すんなりと受け入れられた。
それだけ少女の影響力は強かった。
カーテンを開け、窓ガラスを撫でる。
寒さで体が震えた。
思い切って窓を開ければ冷たい夜風が通り抜ける。
とろんとした眠気は吹き飛んだ。
吐く息も白い気温は肌を刺す。
空気は澄んでいて星々が綺麗だった。
いつまでも見飽きない光景だった。
どうして冬の空は綺麗なのだろうかと考える