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「 140文字の物語 」
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青年の傷跡を少女は指先でなぞった。
「ごめんなさい」少女は涙目で言った。
確かに少女を守るためにできた傷だったが、光栄だと思っていた。
青年はどう答えたらいいのか迷った。
秒針が一周するほど沈黙が漂った。
「君を守れて嬉しい」青年は微笑む。
少女は大きな目から大粒の涙を零した。
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僕は道行く女の子を見ていた。
景色を見ているのと同じだと思っていた。
それなのに君は恥ずかしそうに、指を折れんばかりに握る。
「どうしたの?」と僕は尋ねた。
君は答えなかった。
「もしかして目移りするかと思った?」と僕は重ねて尋ねた。
「デート中ぐらい見てほしいの」と君は呟いた。
「落とし穴にご注意を」シルクハットをかぶった紳士が言った。
そこで夢から覚めた。
どんな落とし穴が待っているのだろう。
できれば落ちたくない。
今日から高校生活が始まる。
新入生として学校に入る。
体育館に集められて入学式が行われた。
生徒会長の挨拶にやられた。
見事、落とし穴に落ちた
文化祭のミスコンに推薦された。
可愛く産んでくれた両親の遺伝子に感謝する。
人間関係は第一印象で決まる。
その点、可愛い外見を持って生まれた自分は得だと思う。
いつでも人の輪に入れて、ちやほやされる。
幼稚園の頃からずっと続いている。
学園生活は快適だった。
女の子は可愛くないと損だ
街は霞がかっていた。
1メートル先も見られない。
不安になった幼なじみが「手を繋いでいい?」と訊いてきた。
子どもの頃に戻ったようで僕は少し照れる。
「いいよ」と幼なじみに手を差し出した。
「ありがとう」幼なじみは俯いた。
勝負に買ったようで、心の中で嘲笑した。
気づかれてはいけない
「一緒にいなくなってあげるから、許してね」屋上で君は微笑んだ。
僕は無言で頷いた。
生きにくい学園生活だった。
家にも、学校にも、落ち着ける場所がなかった。
偶然、君と図書室で出逢わなければ、一人で飛び降りたことだろう。
最期の時でも、誰かがいるということは力強いことだった。
月光が差しこむ部屋でゴミ袋を片手に君の残骸を捨てていった。
君はもう僕の元には戻ってこない。
それが分かっているから、涙が浮かぶ。
新しい恋を始めた君は、今頃幸せだろうか。
僕は悲しいばかりだ。
写真立ての中で笑っている君にハッとする。
付き合いたての頃の写真だ。
これも捨てるのか。
かくれんぼで路地裏に二人して駆けこんだ。
鬼も見つけられないだろう。
小さくうずくまって並んで座る。
君が両手をあげる。
だから僕も両手をあげる。
君は嬉しそうに、両手のひらを触れ合わせる。
お互いに笑顔が浮かぶ。
「ここなら見つからないね」と君は小さく言う。
「そうだね」と僕も言う。
「宿題は終わったの?」
「明日の支度はできたの?」
「目覚まし時計はセットした?」
次々に訊かれて、げんなりとする。
心配をしてくれるのは嬉しい。
恥をかかないように気を使ってくれるのも分かる。
でも、めんどくさいひとたちだと思ってしまう。
もっと信頼してくれても良いと思ってしまう。
ここ数日の仕事量は半端でなかった。
残業をしても間に合わない。
削れていく睡眠に早く休日が来いと願う日々だった。
帰りの電車はガラガラで座れた。
最寄り駅まで眠ろうと目を閉じた。
居眠りしていると揺らされた。
起きたくなかったのに目覚めさせられた。
「降りる駅じゃないの?」と言われた
社会人になる前、コスメカウンターに飛びこんだ。
今まで化粧をしたことがなかった。
でも社会に出れば女が化粧をするのは当然なのだ。
学校で教えてくれればいいのに、と歯噛みする。
香水も扱っているのだろう。
良い香りがした。
コスメカウンターのお姉さんは親切で化粧品を紹介してくれた。
雲が覆う空。
月も星さえも見られない真夜中。
妙に生温い風が吹く。
出かけに見たDVDも良くなかったのだろう。
手が震える。
早く家の寝室に帰りたい。
それなのに同居人は「アイスが食べたいからコンビニに行こう」と言う。
恐る恐る、同居人の手のひらに触れる。
振り払わないで握り返してくれた。
愛犬の呼吸が荒々しいものになった。
家族中が見守る中、愛犬は目を閉じた。
徐々に冷たくなっていく体温に、涙が零れた。
私が生まれた時にやってきた犬だった。
散歩は面倒だったが、いつも一緒だった。
「幸せだった?」伏せた目に尋ねる。
姉が「きっと幸せだったんでしょう」と言ってくれた。
何でも言い合える幼なじみだった。
それがほんの少しの価値観の相違で口論になってしまった。
帰る方向は一緒だから学校から家まで無言を貫き通さなければならないのか。
そう思ったら謝罪の言葉が出た。
幼なじみも謝った。
これでいつも通り。
仲の良い幼なじみ同士だから、そうなると話が弾む。
生まれて初めて彼女というものができた。
どこがいいのか分からないけれども、告白したらOKがもらえた。
そんな彼女と初デートだ。
無難に映画を観て、カフェに入るというスケジュールだ。
自分のモノよりも小さな手を握りたい、と思ってしまう。
映画館の中で彼女がそっと、俺の指に触れる。
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