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「 140文字の物語 」
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夏だというのにこの部屋は寒いぐらいだった。
ぴったりと閉じたカーテンは日差しを遮断していた。
蝉の声を聞こえないほど静かな空間だった。
その中、君は白い顔をしてベッドに横たわっていた。
「お見舞いありがとう」君は顔に微かに笑みを浮かべる。
僕はできるだけ優しく、両手を握り締める。
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この約束は普通の約束ではない。
最果ての約束だ。
最初で最後の人生最大の式典だった。
純白のドレスを歩いてくる君を待つ。
ベールで表情が見えないけれども緊張しているのが伝わる。
君は父の手を離れて僕の隣を並ぶ。
まるで映画の一場面のようだった。
これから永遠を誓い合う。
最後の約束だ。
学校からの帰り道。
雑貨屋に寄り道をする。
季節柄クリスマスを連想させるものが多かった。
君は一つ一つ手に取って確かめるように見つめる。
クリスマスカードの種類も豊富で決めかねているようだった。
僕は時間を潰すように店内を見て回る。
会計を済ませた君が来た。
外には街灯が灯っていた。
君の愛は深い。
惜しみなく注がれるのは、ずっと前から欲しかったものだ。
君は当たり前のように僕をしてくれる。
こんなちっぽけな存在なのに。
そのことに驚愕する。
僕は君にしてあげられることなんて少ないのに。
君は笑顔で「愛しているよ」と言うから僕は照れる。
俯いて「僕も」小さく言う。
生まれる前からのお付き合いのお隣さんは、朝からテンションが高い。
自分といえば低血圧で朝はぼんやりとしている。
「迎えに来たよー!」玄関先で幼馴染は言った。
のろのろとカバンを持って玄関先に向かう。
「おはよう」と挨拶をする。
幼馴染は堂々と、手のひらを触れ合わせる。
「冷たいね」
彼は嘘に嘘を重ねた。
初めは軽い気持ちだったのだろう。
それが重なりすぎた嘘は重い。
二人の関係はガラガラと崩れた。
別れの時だというのに彼は微笑んでいた。
「いつから嘘だってわかってた?」と尋ねられた。
「初めから」と答えた。
傍にいられるのなら嘘でも良かったのだ。
でも終わりがきた
長く伸ばした髪が気に食わなかったのだろうか。
ショートカットの女の子たちに、噛んだガムをつけられた。
女の子たちが口に入れた物が自分の髪をついている。
それが嫌だった。
ガムは伸びて髪から離れない。
切るしかないだろうか。
泣きながら帰ってきたら「油で落ちるよ」とお隣さんが言った。
秒針は人生を示す枝だ。
君は先ほどから竜頭をいじって、時計の針を戻している。
そうすれば時間が巻き戻ると言わんばかりに。
無駄なことをし続ける君を横目に見ながら、僕は本を読む。
過去という時間を見つめるのは君と大差ないのかもしれない。
微笑みを浮かべながら君は時計の針を巻き戻す。
本当はこんな路地裏じゃなくて、表通りで手をつないで歩きたい。
世間を気にしながら、こっそりとお付き合いするのは嬉しくなかった。
嫌々ながら、恋人の両手を指先でなぞる。
そう、恋人なのだ。
誰にも認められなくていい。
自分たちだけで認めあえているだけで充分。
いつそれに気づくのだろう
明日、君は生まれ育った土地から離れる。
それは僕らにとっての世界の終わりだ。
粛々とやってくる別れに覚悟ができない。
街へと旅立つ君を笑顔で見送りたいけれども無理そうだった。
僕と君の間にできた世界はちっぽけだったけれども温かかった。
それももうすぐ終わりがやってくる。
涙が零れた
黄昏時にしか開かれないバザールは活気があった。
水晶片を売っている店に唐突に立ち止まった。
「これは記憶さ。いっとう大切な想い出を閉じこめておく道具だよ」にこやかに老婆は言った。
ふいに君と別れた日を思い出し、心が痛む。
水晶片に閉じこめておけば追憶する度に幸せになれるだろうか。
部活が終わって昇降口に辿りついた。
今日は一緒に帰れると思うと、心が弾む。
背筋をピンと伸ばし、君は立っていた。
「ずっと、ここで待っていたんですか?」
「早く会いたくなっちゃって」
「もう冬なんですから暖かい図書室とかで待っていてくれても良かったのに」
そっと、両手を両手で包む。
深夜、部屋から抜け出して星空を君と眺める。
月はとっくのとうに沈んでいる。
天体観測日和だった。
レジャーシートを敷いて寝転がる。
一雨ごとに深まる秋の気配を空が教えてくれる。
願わくばこのまま、二人で朝日を迎えたい。
ずっと一緒にいられないことは分かっているから。
今だけは傍らに。
夕方、窓辺に座っていた君は遠い目をしていた。
僕という存在に気がついていないようだった。
声をかけるか迷う。
想い出に浸っているのなら、無言で立ち去った方がいいだろう。
時期に日が暮れる。
それまでの僅かな時間を邪魔してはいけないような気がして視線を床に落とす。
綺麗な夕焼けなのに
ガタンゴトンと電車はレールの上を走る。
それに合わせて吊革も揺れる。
そして僕の心も揺れる。
隣に座った君はうつらうつらと舟をこいでいた。
無造作に座席に置かれた白い手。
今なら気づかれずに、ふれることができるだろう。
でも、それは君に失礼だ。
僕はそっと、両手を握る。
ふれないために
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