順番がきて緊張してきた。
ゴミ袋か何かに捨てられればいいのに。
心臓の音がうるさいぐらい鳴る。
みんなどう我慢しているのだろうか。
慣れれば大丈夫というけれど、そんなことはない。
とうとう自分の番がやってきた。
震える指先に我慢をする。
迎えてくれる拍手の音が背中を押してくれる。
君はそっと、僕の手のひらにしがみついた。
僕は傷つけないように、君の指先をほどかしていった。
一緒にいられるのは、これで最後だ。
いつまでも一緒にいてあげたかったけれども、そんなことは不可能だ。
君との別れは最初から決まっていたのだから。
離れ離れになるのも分かっていたんだ。
彼女のことを大切にしたいと傷付けたいをいったきりする。
生まれて初めて好意を感じた彼女だ。
宝物のように大切にしたいと思う。
同時にこれ以上ないぐらいに傷付けて自分の物だという証をつけたいと思う。
複雑な心境に僕は振り回される。
そんなことを知らないで、今日も笑顔で挨拶をしてくる。
日に日に膨らんでいく月を見ながら、独り酒を呑む。
一緒に呑んだ友は今頃どうしているだろう。
彼のことだ。
真面目に仕事をこなしているだろう。
盃に月を移す。
人生は別離に足りるとはよく言ったものだ。
別ればかりが増えていく。
盃をあおる。
喉を焼けつくように酒が通過していく。
寂しかった
黒い服をまとって立っていた。
涙があふれだして止まらない。
やってくる人たちも黒い服をまとっていた。
優しい言葉をかけてくれるがそれだけだ。
悲しみを代わってはくれない。
ひときわ美しい女性がやってきた。
今までの人達と同じうような仕草をしたけれど引っかかる。
彼女が去って気がついた
悪友は課題に飽きたらしい。
「こんな時は肝試ししようぜ」と言い出した。
「目も覚めるもんだよな」もう一人が言った。
「課題が優先だ」と僕が言うと「怖いんだ」声を合わせて言った。
いつの間にか幼馴染を巻き込んで肝試しすることになった。
遠慮がちに、怖がりがな幼馴染は腕を触れ合わせる。
悲しみだけがほとほととやってくる夜だった。
信じられるものなどなかった。
孤独だけが寄り添ってくるような夜更けだった。
それでも、まだ他人の善行を信じているのだろうか。
窓からもれる明かりに、そっと近づいた。
家の主だろうか。
無言で扉を開き、手招きをする。
それを拒むように走った。
どうすれば君は幸せになるんだろう。
それを考えるのは楽しい。
僕自身が君にしてあげられる最大級のプレゼントだからだ。
君は幸せになるべき人物で、僕はそれのお手伝いをするだけだ。
今までの君は過去の記憶ボックスに鍵をかけて、未来を見よう。
見えるかい?
可能性という光が輝いている。
僕が君に与えてあげられるものなんてない。
君は僕に無限の愛を注いでくれるのに。
それのお返しができない。
だからストレートに「欲しいものはある?」と尋ねた。
君は笑いながら「もう貰っているから大丈夫」と答える。
僕の悩みは加速するばかりだ。
僕にできることならばどんなことでもしたい
君との別れの時間が刻々と迫っていた。
それなのに僕は君と上手に別れられるかどうかを気にしていた。
君と一緒にいられる時間は徐々に削られていくというのに。
貴重な一瞬一瞬が奪われていくというのに。
どうしようもない暴力で引き離されていくというのに。
僕は君との別れだけを考えていた。
どんな私がお好みで?
一夜限りの恋だから、どんな関係性にもなりましょう。
長いこと想いを伝えられない幼なじみ。
同じ学校に通うクラスメイト。
一つ年上の部活の先輩。
どんな「恋」の相手になりましょう。
それが私の姿ですから。
遠慮なさらずにおしゃってください。
ここはそういう所です。
空の蒼さが際立つ日だった。
どこまでも広い空に深呼吸した。
今は遠くにいる幼なじみの元まで続いている。
夢を叶えるために旅立った幼なじみのことを思うと「次は自分の番だ」と思えるから不思議だった。
残されたというのに恨みがましいと感じたことはない。
またいつか会えるだろうと思った。
最後まで外を気にしていた愛猫だった。
完全な室内育ちの愛猫は、外に出るのは病院とペットホテルぐらいだった。
もう録画した動画にしかいない。
一度ぐらい自由に外へ出してあげればよかったのだろうか。
元気な姿で家の中を走る在りし日の動画を見て忍ぶ。
キラキラと駆けていった人生だった。
この電車が向かう終着地が僕と君の別れる場所だ。
人もまばらな車内で二人は揺られていく。
サヨナラをうまく告げるだろうか。
君の隣に座りながら僕はそんなことを思っていた。
君は泣きそうになりながら、僕の指先をぎゅっと握る。
離れがたいのは僕もだというのに先に泣くのは卑怯だと思った。