君は最後に微笑んだ。
MMORPGの中の出会いは運次第だ。
それも野良パーティで組んだ相手とは、フレンドにならない限り二度目はない。
一期一会が楽しくて固定パーティ以外に飛びこむことがある。
珍しく当たりのパーティに当たった。
フレンドの申し込みをしたが「また次の世界で」君は言った。
昨日は夜更かしをしてしまった。
なかなか寝付けなくて本を手に取ったのが失敗だった。
最後まで読んでしまった。
「おはようございます」ダイニングで少女が言った。
テーブルの上には新聞があった。
寝ぼけ眼で開く。
美味しい匂いが鼻をくすぐる。
青年が新聞を読んでいる間に美しい朝食が揃った
白金色の頭髪の少年がのんびりと歩いてきた。
少女は少年を睨んだ。
少女に気がつき、微笑みを浮かべる。
あちらとしては友好な関係を築きあげたいのかもしれない。
けれども少女には譲れないもんがあった。
どうしても少年に打ち勝ちたい。
二人は言葉を交わすことなくすれ違った。
空気が凍る。
1月生まれの君の誕生石はガーネットだ。
ちょっと失礼な話だが学生でも手が届く宝石だった。
短期バイトをして宝石店に向かった。
白い肌に映えるような赤い石だった。
睨むようにショーケースを覗く。
花を模したデザインのネックレスを選んだ。
包んでもらう間、鼓動は高鳴りっぱなしだった。
人気のない渡り廊下ですれ違った。
移動教室だろうか。
誰の目もなくて大胆になる。
上目遣いで、指を触れ合わせる。
どちらともなく笑顔の花が開く。
混じりあう体温に別々の人間なのだと教えられる。
ちょっと切なかった。
予鈴が鳴る。
手を離し、笑顔でお別れをした。
心が弾む音が恥ずかしかった
贈り物は何がいいだろう。
一抱えもするぬいぐるみ?
蕩けるほど甘いチョコレート?
どこにでも持っていける鞄?
足を綺麗に見せてくれるハイヒール?
爪を鮮やかに彩るマニキュア?
白い肌を輝かせるペンダント?
君に似合うものはたくさんあるけど、花がいい。
色とりどりの花束ではなく一輪だけ。
待ち合わせ場所で困り気味の君を見つけた。
どうやらナンパされているようだった。
真面目な君は軽薄な野郎に断りの文句をぶつけることができないようだった。
僕は急ぎ足で君の元へ向かう。
ナンパ野郎の前で君の肩を抱く。
君はホッとした顔をした。
「恋人ですけど、なにか?」僕は言い放った。
手を繋ぐだけでは満足できなくなっていた。
何も知らない君をヒイラギの下に立たせた。
不思議そうに見上げる瞳を無視をした。
掠めとるように君にキスをした。
出来心だと言い訳はできない。
でも無防備な君も悪いんだよ。
君は可愛くって、ついキスをしたくなったんだ。
君は頬を真っ赤にする。
寒空に薄着で飛び出したような君だから。
暖かい上着を華奢な肩にかけるように。
僕が、君を幸せにしたい。
誰よりも傍にいて、目には見えない涙を拭ってあげたい。
誰にも譲れない願いだった。
それぐらい君のことが好きなんだ。
君は不思議そうに僕を見る。
優しくされることに不慣れな顔をする。
遠く離れた実家から電話が着た。
『できるだけ早く帰ってきてほしい。スーツも持ってきてほしい』と留守電話に用件が残っていた。
上京してから実家とは疎遠になった。
仕事が忙しくて、盆暮れ正月も顔を出していない。
新幹線に乗りながら、嫌な予感がして胸がもやもやとする。
考えすぎだといい
外に出たことのない少女は神の化身だという。
少なくとも同胞は疑ってはいない。
細々と世話をする。
少女は苦労のない生活を送っている。
ただ一つ、外に出られないこと以外。
監禁している少女は神の化身なのか、そう思っていたいのか、分からなくなる。
ただ平伏し、神の化身の少女の声を聞く。
母が作ってくれた卵焼きは太陽のようだった。
同じ手順で作ってみたけれども舌は正直だ。
どれだけなぞっても、あの日出された卵焼きには敵わない。
夕ご飯に出る卵焼きは、それだけ特別だったのだ。
もう食べられないと思うと切なくなる。
いつの日か、母が作ってくれたような卵焼きを食べたい。
出会ったばかりだというのに、懐かしさがこみあげてきた。
一目惚れとはこういう感情なのだろうか。
ずっと前から知っているような気がした。
生命の鼓動が鳴る前に、すでに出会っていたような気がする。
君は泣きそうになりながら、僕の指を指先でつつく。
言葉を惜しむ仕草まで初めてではない。
「一度、水族館に行ってみたいです」わがままを言わない少女が言った。
「じゃあ、これから行くか」青年は言った。
「いいんですか?こんな突然なのに」少女は俯いた。
「家事をしてくれるお礼だ」青年は言う。
たくさん魚を泳ぐ姿を見て少女は目をキラキラさせる。
「おいしそう、と思ったか?」