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「 140文字の物語 」
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姫は初めて見たのだろう。
大きな瞳をさらに大きくする。
「さあ。お礼を」と父王が促す。
姫は勇気を奮って「ありがとうございます」と言った。
それだけで報われた気分になる。
姫はぎこちなく、義手である腕を指先でなぞる。
感覚はなかったが温かな気持ちになった。
「この腕に助けられたのね」
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僕にできることは本当にささやかだ。
泣き虫の君が泣くときに傍にいて、背を優しく撫でる。
どうして君は泣いているのだろう。
君には一生分の幸せをあげたいと思うのに。
ちっぽけな存在には、それすら大それた願いなのだろうか。
君の嗚咽が静かになった。
健やかな寝息に変わったようだった。
「リストアップしておいたから、このタイトルの本を持ってきてくれないかい?」
青年は少女に紙を渡した。
少女は書庫へと真っ直ぐ向かった。
退屈そうにしていたから任せることにした。
青年が本一冊読みおわえる前に本を抱えて少女は戻ってきた。
見覚えのないタイトルがあった。
いたずらだろう
距離をとられたようで悲しかった。
少女は無理矢理、少年の腕に指を絡める。
少年は、ぎこちない笑顔を浮かべる。
それが無性に悲しくて、少女は泣きだしてしまった。
少年は困惑気味に、空いている手で少女の頭を撫でる。
それは子供時代のこと、と笑えなかった。
今でも離れた場所にいると悲しい
https://twitter.com/miwa_r784
昼下がり。
妖精の羽根のような色のカーテンがそよと揺れる。
穏やかな毎日に感謝の心が湧き上がってくる。
陽に焼けた畳はそれだけの年月を君と過ごした証拠。
ああ幸福というのはこんな刹那の瞬間をいうのだろうか。
共に過ごした時間があるから言葉はいらない。
並んで微かに見える庭を眺めるので充分だ。
しっとりとした重厚なパウンドケーキが焼き上がるはずだった。
オーブンレンジを開けると消し炭のようなものが鎮座していた。
何が悪かったのだろう。
レシピ通り、きちんと計量した。
失敗の少ないお菓子のはずだった。
それなのに黒焦げになってしまった。
ゴミ箱に捨てるのも忍びない気分だった
「姫を託すことができるのは貴殿しかいない」近衛の騎士が言った。
「王族の警護は第一団の仕事では?」ことがことだから、疑問を投げかけてしまった。
「貴殿はもともと第一団にいたのだから適任だろう」となおも言う。
月光の下、密談めいていた。
「分かりました」と守ることを誓いに立てる。
穏やかな昼下がり。
部屋にいるのがもったいないぐらいの青空。
少女は窓辺で日光浴をしていた。
洗い物を片付けた青年が隣に座る。
少女はぎこちなく、青年の腕をぎゅっと握る。
存在を確かめるような仕草だった。
少女の言葉はなかった。
それだけ不安にさせているかと思うと申し訳なさがたった。
携帯していた神剣・神楽が律動した。
敵に回ってしまった同胞が近いのだろう。
血まみれの剣は、同族の血をことさら好む。
忌むべき剣だった。
後ろをついてきた少女に向き直る。
「待っていてくれ」と帰る言葉を青年は口にした。
「分かりました」泣きそうな顔をして少女は言った。
青年は歩き出す
挨拶をすると、笑顔で返してくれた君。
僕は勇気を奮って、今日も挨拶をした。
それなのに君は怒り顔で、腕を触れ合わせるのみ。
僕は君を怒らせるようなことをしただろう。
そんなふうに気をもんでいると、君は「すみません」と謝った。
「夢見が悪かったんです」と続ける。
「そうなんですか」
幼なじみと駅前で待ち合わせをしていた。
家が隣なのだから、わざわざ待ち合わせなんてしなくてもいいのに。
慌ただしく用意をしていると、遅刻ギリギリの時間になってしまった。
待ち合わせ場所に行くと、幼なじみは絡まれていた。
そこへ割って入る。
「いい度胸してるね?」低い声音で言った。
海を写した写真集だった。
写真に添えてある一言が優しさ包まれるようで好きだった。
写真集をパラパラとめくり、その一言を読む。
心があたたかくなるのが分かる。
写真家は本当に海が好きなのだろう。
荒々しい高波も、寂しくなるような波打ち際も、写真集に納まっている。
見るのが楽しくなる。
「お別れしなさい。今日で最後なんだから」母が言った。
生まれた時からずっと一緒の家族だった。
引っ越し先はペット不可だから、連れていけない。
それは理解しているから、より離れがたい。
仕方なく、ペットの腕を両手で包む。
想い出がフラッシュバックして涙が零れた。
もっと一緒にいたい。
同胞同士の殺し合いなんて血なまぐさいだけだ。
それに結界が張られて、自分か同胞が死ぬか、撤退するまで、少女は戦いに入ってこれない。
それでもついていきたいと言う少女の言葉に折れた。
仕方ない。
少女がいれば、必ず生きて帰るという考えが浮かんでくるだろう。
青年は神剣・神楽を握る。
首から下げたロケットペンダントは宝物だった。
ペンダントの中には、小さな肖像画が描かれている。
あの日、屋敷に火を放たれて多くの絵画が喪われた。
少年が常に身につけていたペンダントだけが唯一の残った絵だ。
両親が微笑んで描かれている。
眠れない夜は小さな肖像画を見て目を潤ませる。
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