君の優しさに思わず涙が零れた夜。
君は何も言わずに僕の背を撫でてくれたね。
溢れかえった想いは、とても綺麗なものじゃなかったけれども、君は黙っていてくれた。
それが僕にとって、どれだけの救いになったのか。
君は知らないだろうし、これから先、教えるつもりもない。
たった一夜のこと。
見えなかった優しさ。
届かなかったぬくもり。
そんなものを抱えながら僕は今日も君のいない世界を生きている。
後悔しない夜はない。
どうしてあの時、君の手をつかめなかったのだろう。
今と違う未来が待っていたはずだ。
僕は今日も君と出会った場所に立つ。
もう一度、初めからやり直したくて。
「好きだよ」僕は思っていることを言った。
「うすっぺらい愛の言葉なんていらないの」と君は言った。
大きな瞳は凪いでいた。
信用していない目だった。
「僕の愛は真実だよ」僕は伝える。
「誰にでも同じ言葉を言うのでしょ?」君は冷たく言った。
ため息混じりの言葉は切なかった。
「本気だよ」
たった一瞬、腕がふれあった。
それだけだ。
それなのに心臓は早鐘を打つ。
君が好きだと告げる。
僕は君を見つめる。
君は不思議そうに「どうしたの?」と尋ねる。
恋をしているのは僕だけのようだ。
それがとてつもりなく寂しく、胸に穴が開いたようだった。
どうすれば君にこの想いが伝わるだろう
煙草が恋しかった。
健康のために禁煙を決めたものの口さみしい。
お菓子を口に運ぶ回数が増えた。
体重は右肩上がりだ。
これでは本末転倒だ。
煙草の代わりに、袋菓子を食べているところを君に見られた。
「食べるか?」俺は取りつくろうように尋ねた。
「ダイエット中なんだ」君は微かに笑った。
電車は座る座席がないほどには混雑していた。
乗っている人たちは、どこへ行くのだろうか。
ほんの数駅乗るだけだから、僕は吊革につかまった。
空いている手を君に差し出した。
吊革をつかむには少し小柄な君は照れる。
恥ずかしそうに、僕の指に握る。
ほんのり温かい体温に僕はどきりとした。
ほんの少しの、嫉妬は愛を深めるという。
では大きすぎる嫉妬は何になるのだろう。
彼が女の子と談笑しているだけで、苦しい気持ちになる。
もっと私を見て、もっと私に笑いかけて。
そんなつまらないことを思ってしまう。
そういう場面が重なっていくと、つい彼に辛く当たってしまう。
嫉妬に狂う。
家に帰ると夕ご飯の支度が済んでいた。
添えられた置手紙には『温めて食べてください』と書いてあった。
忙しい両親と最後に夕食を食べたのはいつだったろうか。
それでも夕ご飯を用意してくれたことに感謝しなければならない。
煮物を一つ食べて「冷たい」と独り言を言った。
心の中が冷めそうだ
「I love youを訳しなさい」唐突に君は言った。
「私はあなたを愛しています」と僕は答えた。
「月が綺麗ですね」と君は言った。
それで僕は苦笑した。
「夏目漱石か」有名な問答だった。
真偽のほどは分からないが、夏目漱石はそう言ったらしい。
「あなたの隣は心地よい」と僕は自分なりに言う。
君は輝く一等星。
全天の中でも、ひときわ明るい。
いつか輝きを失ってしまうのだろうか。
すでに寿命を終えて、地球に届いているのだろうか。
星の尺度は、ちっぽけな人間には計り知れない。
そんな風に君の考えることは、よく分からない。
それでも隣にいてくれることに感謝しなければいけない。
腐れ縁というのはあるんだろうな。
生まれる前からお隣さんとは今年も同じクラス。
修学旅行まで同じ班になってしまった。
くじで決めたのに、偶然過ぎる。
「違う班が良かったな」と呟けば、手が差し出された。
「迷子になるだろ」と幼馴染は言う。
嫌々ながらも、手のひらを折れんばかりに握る。
「愛している」女性は言った。
男性の心は浮き立った。
「そう言って欲しいんでしょ?」冷たい目で女性は言った。
やはり想いは一方通行のようだった。
想うほど想い返してくれない。
これ以上ないぐらいに愛しているのに。
「一生、あなたのことを愛することはないわ」女性はキッパリと宣言した。
やっぱり木陰はちょうど良い気温だった。
木陰で休むことにした少年は、持ってきた本を読む。
すぐさま本の世界の住人になった。
少女がやってきたことも気づかずに本に没頭とする。
当然、少女にとって面白くない展開だった。
少女は少年から本を取り上げた。
そこで初めて少女が来たことを知る。
付き合って三年。
そろそろ結婚を意識する年齢だった。
彼女の誕生日にはダイヤモンドの指輪を用意した。
何度もプロポーズの言葉を練習した。
とうとう決戦の日が来た。
夜景を見ながら指輪の入った箱を見せた。
すると彼女は拒絶する。
自分みたいのが幸せになって言い訳がない。
そんなこと言う。