桜の花はあまり好きじゃなかった。
　「どうして？」と訊かれるといつも曖昧に言葉を濁していた。
　春の桜は出会いより別れのイメージが強いから、好きじゃない。
　蕾が柔らかくなっていきなりパッと咲く桜の花。
　舞い散る姿が離れていく後ろ姿とダブる。
　だから、桜の花は好きになれない。

　約束を守れず、裏切られたと感じながらも、やっぱり約束を交わしてしまう。
　今度こそ守りきりたいと願いながら、結局果たされずに終わった約束が積み重なっていく。
　裏切られたと泣きながら、新しい約束が守られるのを期待している。
　君を信じているから、裏切られても信じているから。

「泣かないで」とあなたの温かな手が私の頬をなでる。
　あなたの優しさは的外れ。
　恋情じゃない人情から始まる気持ちだってわかっているのに、私は頷く。
　あなたの瞳に映る私は可愛いコでいたいから。
　この想い、つないだ手から伝わればいいのに。