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「 140文字の物語 」
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新しい季節の始まりに、革靴が贈られた。
瑞々しい椿の葉と共に。
その葉を見て、僕は微笑む。
送り主の名は書いていなかったけれども、椿の葉が添えられていただけで分かった。
君の優しさに、革靴を大切に履こうと思った。
そして、君の誕生日プレゼントは何がいいのだろうか、と思考を巡らす。
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君との約束を破ってしまった日の夕方。
許されるはずもなく、謝罪の言葉すら宙に浮いていた。
君との約束はなるたけ守るようにしていた。
けれども破ってしまった。
君の顔が赤いのは夕方だからではないよね。
君は怒り顔で、僕の両手にしがみつく。
二度と離れ離れにならないように約束するように。
「iotuは、何もかも悟ったような顔で最後の嘘をつきました。
それは悪あがきのような嘘でした。
「絶対にあきらめたりしないよ」、と。
本音は仕舞い込んだまま。」

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僕は、何もかも悟ったような顔で最後の嘘をついた。
悟りの境地には遠いのに、まるで何でも知っているかのような顔をした。
それは悪あがきのような嘘だった。
「絶対にあきらめたりしないよ」と僕は君に宣言した。
その実、君が僕から立ち去っていくことが怖かったのに。
本音は仕舞い込んだまま。
目には映らない愛情というものを探していた。
あまり愛情を持って生まれた方ではなかった。
だから、そんなものがあるのなら、手に入れたいと願っていた。
足を棒に探して世界の果てまで探した。
ほとほと疲れて、故郷に帰ってくると幼馴染が「お帰りなさい」と言う。
なんだ、答えはここにあった。
長月の候。
仲秋の名月が見られる時期だった。
月が出ている時期に産まれたから『美月』と名付けられた。
両親は愛情をもって育ててくれた。
けれども『美月』の名前は重かった。
『顔面クレーターじゃないか』と近所の少年がからかう。
『だから、美月なのか』と吹き出物だらけの少女の顔を言う。
人情なんて信じられない。
そんなものがあるのなら、どうして黒猫を飼っているということだけで魔女扱いされるのだ。
飼い主の手が黒猫を撫でて、力なく床に伏せたのだ。
黒猫の飼い主の恋人の元へと黒猫は走る。
最後に愛情という結晶を信じさせてくれた、その恩に報いるために黒猫は走り続けた。
「もう大丈夫だよ」と青年は少女と目線を合わせるためにひざを折った。
青年は少女の頭を撫でるために手をかざした。すると、少女は目をつぶって、口を閉じた。
日常茶飯事に殴られていた証拠だった。
「手を繋ごうか」と青年は溜息を噛み殺して言った。
少女は恐る恐る、両手のひらに指を絡める。
「iotuは、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をつきました。
それはきっと必要じゃない嘘でした。
「ずっと君と一緒だよ」、と。
・・・まだ、泣いちゃだめだ。」

------

僕は、馬鹿みたいだと自分に呆れながら最後の嘘をついた。
それはきっと必要じゃない嘘だった。
君は最初から嘘だと気がついていたのだろう。
「ずっと君と一緒だよ」と僕が言うと「そうだね」と儚げに笑った。
僕の嘘に、優しく包みこんで真実にしようとしてくれた。
・・・まだ、泣いちゃだめだ。
君が笑うなら、僕が泣くよ。
君が苦しいと知っている。
泣くことすら許されないことを知っている。
だから君が強がりで笑顔を浮かべるなら、僕は声を上げて泣くだろう。
それが僕たちの愛の形だ。
なんて歪な形をしているだろう。
なんて美しい形をしているだろう。
君は僕のために、僕は君のために。
二人は出会い、恋人同士の時間を過ごし、やがて永遠を誓った夫婦になった。
君と過ごした時間は、どれもこれも幸せだった。
けれども、一つだけ未練があった。
君と僕との間に子供をもうけることができなかった。
こればかりは神様の領域だから、仕方がなかったのかもしれない。
可愛い子供だろう。
自分たちが選んだ未来だったとはいえ、無惨な最期を遂げようとしている。
気がつくことが遅すぎた、そんな後悔は意味がない。
生きることにしがみついた夜に、牢屋から抜け出せないかと考えていた。
けれども、誰の知識を拝借しても、決まりきった未来を覆すことはできなかった。
断頭台に立つ。
これが君と出会える最後だとは思っていなかった。
だから、目を逸らしつつ、両手を触れ合わせるだけで満足していた。
もし、あの時に最後だと知っていたら、力いっぱい君を抱きしめたのに。
消えない痕をつけるように、ぎゅっと抱きしめて離さなかった。
僕は君と会える最後だと知らなかったんだ。
君は雨の中、涙を流しながら目を見すえていた。
どこにでもある情景かもしれない。
それでも僕には、未来を見つめる挑戦者に見えた。
だから僕は君に精一杯のエールを送った。
いつしか君の夢が叶いますようにと願って。
届けばいいなと思いながら。
雨に打たれた君の夢が叶いますように。
空にもルールがあるから、ある程度の予測はできる。
けれども、あくまでも『ある程度』だ。
青空を覆うように広がった鰯雲を見て、先輩は肩を落とした。
今日の予測は快晴だったはずだ。
「空って自由ですね」と僕は慰めにならない慰めを口にした。
先輩は「君は優しいね」と微苦笑した。
「iotuは、無意識に緊張しながら最後の嘘をつきました。
それは切望のような嘘でした。
「もう、迷わないよ」、と。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。」

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僕は、無意識に緊張しながら最後の嘘をついた。
それは切望のような嘘だった。
「もう、迷わないよ」と声に出してから、僕は緊張しているのだと気がついた。
声が震えていた。
それを君に気づかれていないといいのだけれども。
君は泣きそうな顔をして僕を仰ぐ。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。
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