夕焼けの中で、君は微笑んだ。
僕はそれを聞きたくなくて両耳を手でふさいだ。
淡い桜色のリップクリームが塗られた唇が確かに動く。
それは最も知りたくないことだった。
何度言われても、慣れることはできない。
そんな言葉を君は律儀に言う。
夕焼けが終わろうとしている。
君が僕を置いていく。
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テレビは廃墟特集だった。
そんなものでも番組になるのだから、マスコミというものはスゴい。
かつて栄華を誇った屋敷が蔦に絡まれ、廃墟になっているのがテレビに映った。
どんな人物が住んでいたのだろうか。
興味が湧いた。
台所で夕食の準備をしていた君の視線を感じた。
まるで睨むようだった。
「行っちゃ嫌だ!」君は優しく、僕の両手にしがみつく。
「あなたがいない日なんて信じたくない」と君は駄々をこねる。
「大袈裟だな。ただの修学旅行だよ」と僕は微笑んだ。
「どうして一緒にいられないの?」君は一つ年下の幼馴染。
学校というシステムに乗っている間は、どうにもならないこと。
「iotuは、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をつきました。
それは傷をいやすための嘘でした。
「君にもらったものは全部返す」、と。
どうか嘘だと気づかないで。」
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僕は、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をついた。
それは自分自身と君の傷をいやすための嘘だった。
「君にもらったものは全部返す」と僕は努めて明るく言った。
これで別れなら、思い出してしまう物はいらない、と強がりを口にした。
どうか君よ、嘘だと気づかないで。
弱虫の僕を見ないで。
「見て見て」と君は距離を詰めてきた。
甘い香りがして、女の子なんだなと実感する。
シャンプーの香りだろうか、それとも柔軟剤の香りだろうか、それとも香水の香りだろうか。
「うちの子可愛い?」と君はペットのフォトを見せる。
俺はドキドキしてそれどころじゃない。
スマホよりも気になる。
携帯の振動音で目を覚ました。
無意識の行動で時刻を見る。
それから、ガバリッと起き上がった。
久しぶりのデートに寝坊する。
適当な服をひっつかみ、袖を通す。
最寄り駅までの道で『ごめん、遅刻する』とスタンプと共にLINEをする。
『疲れていたんだね、ゆっくりおいでよ』と返信が返ってくる。
神様というものは勝手で慈悲深い。
気になる女の子のポケットからハンカチが落ちた。
話のきっかけになる絶好のチャンスだった。
けれども、今までの接点といえばクラスメイトというだけだった。
急に話しかけられたら、気持ち悪いだろうか。
僕は拾ったハンカチの前で悩む。
チャンスは前しかない。
友だちから借りてきたDVDを二人そろって観ることになった。
お茶を淹れて、ソファの上にのんびりとくつろぐ。
俺は再生スイッチを押す。
それからは阿鼻叫喚だった。
どうやらDVDは本当にあった怖い話系だったらしい。
君は目をつぶって力強く、俺の指先にしがみつく。
そういえば怖がりだったな。
「iotuは、幼子を慰めるかのように最後の嘘をつきました。
それは現状打破のための嘘でした。
「永遠を信じている」、と。
だってもう、仕方がないだろう?」
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僕は、幼子を慰めるかのように最後の嘘をついた。
それは現状打破のための嘘だった。
やがて来る終焉のために、それを気づかされないために、嘘をついた。
自分自身が信じていたかったのかもしれない。
「永遠を信じている」と僕は微笑んだ。
だってもう、仕方がないだろう?
他に言葉はなかった。
東の空が鮮やかな天体ショーを見せたのに、君はどこか遠い目をしていた。
「綺麗だろう?」と俺が言うと、君は鼻で笑う。
それに俺は納得できなかった。
「毎日、見られるものでしょ?」と君は言った。
そう言っている間に、月は白くなっていった。空も青を増していく。
ひねくれものだな、と思う。
君は映画に夢中だった。
ずっと二人で見てみたいと言っていた恋愛映画だから当たり前だろうか。
ハンカチを手に、君はスクリーンを注視する。
僕はさりげなく、君の指先を軽く握る。
左手の薬指に違和感を覚えた君は驚いた。
一つの記念日が増えたことに、僕は満足を覚えた。
プラチナの指輪は輝く。
君はいつもよりも饒舌に語る。
お酒の席だということもあるのだろう。
カシスソーダを持て余しながら、ぽつぽつと僕に話しかける。
誰かに聞いてほしかったのだろう。
たとえ、ここにいるのが僕でなくても君は同じ話をしたのだろう。
心の中に溜めておくには苦しい話だった。
ロンググラスをなぞる。
虹色は地域によって数が違うのだと知ったのは、国が隷属してからだった。
帝国との戦に負けたのだ。
小さな国だったが、ひとつだけ誇れるものがあった。
虹色の歌を唄う美しい第一王女。
皇太子の婚約者として、和平条約が結ばれた。
姉を慕っていた第二王女はそれを聞いて傷つく。
代わりたかった。
公園はにぎわっていた。
二人でベンチに座って日光浴をしていた。
「あの子、どうしたのかしら?」と君は言った。
泣いている女の子がいた。
「ちょっと行ってくる」と僕は立ち上がった。
女の子と目線を合わせて「こんにちは」と僕は言った。
泣き顔で、手のひらを指先でなぞる。『こんにちは』と。
「iotuは、震えないよう祈りながら最後の嘘をつきました。
それは現状打破のための嘘でした。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」、と。
胸の痛みは消えやしないな。」
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僕は、震えないように祈りながら最後の嘘をついた。
それは現状打破のための嘘だった。
僕と君の関係は曖昧すぎた。
それに決着をつけたかった。
「くだらない毎日なんて、消えてしまえ」と僕は心にもないことを言った。
君は「そうだね」と笑った。
それが決定打だった。
胸の痛みは消えやしないな。