国王陛下に挨拶するのは悲願だった。
荒らされた領地に慈悲を願うものだった。
少しでも税金を軽くしてほしかったのだ。
領民たちは食べる物すら困って、瘦せ細っていた。
領地に蓄えていた種もみすら食べつくした。
もしも、困窮を助けてくれるのなら末代まで国王一家に誓う。
それほど困っていた。
PR
僕たちの出会いは普通ではなかった。
聾唖学校で二人は出会った。
二人そろって耳が不自由だった。
だから初めましての挨拶は優しく、手のひらを指先でなぞるものだった。
手話すらできない僕たちが、名前を知ったのはずっと後のことだった。
分厚い辞書を引き、筆記で名前を知らせあったのだった。
玄関で見送るあなたに寂しさを感じてしまう。
独りで待つ時間は長すぎる。
いつまでもドアノブを見つめてしまう。
専業主婦はそんなに気楽なものではないと、実感した。
ドアが開いて、あなたが帰ってきた。
「忘れ物?」と私が尋ねると、あなたは頬にキスをした。
「忘れ物」と笑った。
「大丈夫だよ」と青年は微笑んだ。
少女の不安を拭うように。
ほらまたそうやって笑うから、何も言えなくなる。
本当は言いたいことがたくさんあった。
神剣・神楽を押しつけてしまったことに、少女は何度も後悔をしている。
押し黙ってしまった少女に、青年は困ったように寝癖のついた頭をかく。
あなたがいたずらな表情で小箱を取り出した。
その中には誕生石が嵌めこまれた指輪が入っていた。
指輪を貰うような関係ではなかったはずだ。
それでも心がときめいた。
天国の鐘が鳴る音がした。
そこで夢から覚めた。
目覚まし時計を止めて起きる。
もう少し夢を見たかったな、と思い二度寝する。
「iotuは、震えないよう祈りながら最後の嘘をつきました。
それは自分が楽になるための嘘でした。
「君の全部を忘れたいんだ」、と。
本当の願いは、どうせ叶わないから。」
------
僕は、震えないように祈りながら最後の嘘をついた。
きっとどこかに存在している神様に向かって。
それは自分が楽になるための嘘だった。
「君の全部を忘れたいんだ」と僕は告げた。
本当の願いは、どうせ叶わないから。
「そう」君は思ったよりも明るく言った。
それに僕は落胆した。心がつかえた。
始まりはベッドの上。
愛欲にまみれた野獣のように求めあった。
一夜限りと、決めていたから、なおいっそう燃え上がる体。
それは恋なんてものじゃなかった。
お互いがお互いを傷つけあう。
心に残った痕と背中に残った痕が証明だった。
あれだけ燃え上がった一夜も、朝が来たら霧のように散った。
まだ背丈が伸びきっていない少年が花屋に来た。
小銭ばかりのお金をトレイに出した。
「これでできる花束を作ってください」と少年は言った。
「誰に贈るの?どんなイメージの人?」店員は尋ねた。
「いつも明るい子」と少年は言った。
きっと幼いカップルだろう。
「こういう時は恋人へと言うんだ」
ある日、いたずらな天使が銀河の色を染める。
黒い空を虹色に変えてしまった。
地上からそれを見ていた人々は、天国の門が開くのだろうかと思った。
これまで自分がしてきた行いの振り返る。
神様は驚いて天使を叱った。
そして、空は元通りの色に戻った。
いったい何だったのだろうかと人々は思う。
海を見たことのない少女は、海を見飽きた青年を誘う。
どこに違いがあるのか、青年にはさっぱりと分からない。
それでも少女は海に来たがった。
わがままを言わない少女の願いだ、叶えるのはやぶさかではない。
波から帰ってきた少女が優しく、青年の指先を触れ合わせる。
すっかり冷え切っていた。
「iotuは、何もかも悟ったような顔で最後の嘘をつきました。
それはどうしようもない嘘でした。
「君の記憶から消し去ってくれていいよ」、と。
だってもう、仕方がないだろう?」
------
僕は、何もかも悟ったような顔で最後の嘘をついた。
それはどうしようもない嘘だった。
すましてつくような嘘ではなかった。
「君の記憶から消し去ってくれていいよ」と僕は最後の命令をした。
だってもう、仕方がないだろう?
君は「了解しました」と言って手順通りに初期化していこうとしていた。
帰り道にコンビニに寄る。
お目当ては肉まんだ。
一口に肉まんといっても、昨今は種類があった。
あなたはどれを食べようか、真剣に悩んでいた。
その表情が可愛くて「私の前だけにしておいてね」と言った。
「何が?」あなたはきょとんとした顔をする。
「どれにするか決まった?」と私は誤魔化す。
仄かに吹く風が酔い覚ましに気持ちがいい。
呑むのは嫌いではなかったけれども、ざるというわけではなかった。
火照った頬に冷たい風がリラックスさせてくれる。
「風邪引くぞ」と背後から声が駆けられた。
振り向く間もなく、コートをかけられた。
男物のコートは私にはぶかぶかで彼の匂いがした。
クッキーが上手に焼けたから、お隣さんにもお裾分け。
甘党の幼馴染みに手渡すと、クッキーを握りしめる。
クッキーは袋の中で粉砕した。
「武士は食わねど高楊枝」と幼馴染は言った。
小母さんがお茶を出しながら「ダイエットすることになったから、ごめんなさいね」と幼馴染の代わりに謝った。
司会進行役が紙箱からくじを引く。
「4番が」読み上げられた番号は自分のものだった。
「8番に爪を立てる」と言った。
キョロキョロすると、気になるあなたが手を上げた。
「ごめんね」と謝ると「罰ゲームだから」とあなたは笑った。
私は仕方なく、両手のひらに爪を立てる。
手を繋ぎたかったな。