花街は今日も恋愛の駆け引きで賑わっていた。
暇をつぶした貴族や私財を蓄えた商人たちが行きかう。
それを檻の向こうから女は眺めていた。
一人二人と指名されて、部屋へと向かっていく。
女は退屈そうに扇で遊んでいたところだった。
まだ若い青年が女を指名した。
「私は高いわよ?」と女は笑う。
PR
敵になった同胞につけられた傷が疼く。
なかなか治らない傷はガーネット色をしていた。
全く情けない。
少女が不安げに青年を見つめる。
「代われることができればいいのに」と少女は零す。
神剣・神楽の癒しの力で痛みは薄っすらとしたものだ。
少女にこんな顔を二度とさせまい、と青年は決心した。
「iotuは、情けなく笑って最後の嘘をつきました。
それは現状打破のための嘘でした。
「君にもらったものは全部返す」、と。
・・・どうしようもないな。」
------
僕は、情けなく笑って最後の嘘をついた。
それは現状打破のための嘘だった。
「君にもらったものは全部返す」と僕が言うと、君の表情が揺れる。
少しは動揺したのだろうか。
そのまま信じこんでくれればいいな、と僕はへらへらした笑顔のまま思った。
僕ってヤツは本当に・・・どうしようもないな。
気晴らしに青年と少女は水族館にきていた。
泳ぐ魚を見ながら「食べたくなるな」と青年は呟いた。
「観賞用のお魚だから、味の保証はありませんよ」と少女はクスクスと笑う。
その笑顔を見られただけでも、水族館まで足を運んだ価値があった、と青年は思った。
この笑顔を守り続ける、と決意した。
気難しい先生が眼鏡をかけ直して、魔法でできた結晶を手に取る。
それから、長く息を吐き出して「うむ」とうなずいた。
「君は、これをどう思う」と尋ねる。
「よくできた方だと思います」と僕は答えた。
先生は結晶を宙に投げると、結晶は霧散した。
キラキラと音を立てて、結晶は消え失せた。
「iotuは、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をつきました。
それは現実逃避のための嘘でした。
「全部忘れていいよ」、と。
こんなことしか言えないなんて。」
------
僕は、大丈夫と自分に言い聞かせながら最後の嘘をついた。
今になって思えば、それは現実逃避のための嘘だった。
これ以上、君を好きになって別れの時の傷を増やしたくなかった。
「全部忘れていいよ」と僕は明るい口調で言った。
これで君は騙されてくれるだろう。
こんなことしか言えないなんて。
愛する人と、僕と君と過ごす時間は黄金色に染まったようだった。
僕も君も、同じ人を愛しているのは、偶然だった。
愛する人を悲しませたくなかった、という理由で奪いあいの喧嘩にはならなかった。
愛する人は穏やかな微笑みを浮かべて、僕と君に焼き菓子をくれる。
お腹が満たされて幸せだった。
少女に神剣・神楽を押しつけられるまで、青年の生活は単調なものだった。
毎日、同じ時間に起きて、食事をとり、テレビを見て、風呂に入る。
両親を失ってからは、彩りのない生活だった。
それが少女という異質物が入ってからというもの生活が変わった。
誰かと過ごす時間は幸いなのだと納得する。
瞳は作り物のサファイヤ。四肢はレアメタル。人に造られたオートマタだった。
僕を守るようにプログラミングされている。
父が残した最高傑作だった。
会話を交わしているうちに人情というものが宿るのではないか、と僕は何度も言葉をかけた。
けれども所詮はオートマタだ。
最期まで決まっていた。
一世一代の告白のつもりだった。
「僕は君が好きなんだ」と告げた。
君は「うん、知ってる」と答えた。
そんなにバレバレだっただろうか。
恥ずかしくなって、僕は耳まで赤くなった。
「きっとクラスのみんなも知っていると思うよ」と君が追い打ちをかける。
僕は返事も聞かずこの場から逃げだした。
いつもの帰り道。
君は「コンビニに寄っていかない?」と言った。
理由は分かっていたから、僕は頷いた。
ほかほかの肉まんを半分に割る。
「はい、どうぞ」君は半分を僕に手渡す。
「ありがとう」と僕は受け取った。
冷たい風に吹かれて、君と食べる肉まんは格別だった。
「次は僕が奢るね」と言う。
要塞の寝ずの番に当たり、ロウソク片手に歩く。
いつもは静かな夜なのに、今夜に限って派手だった。
空が光ったと思うと、雷鳴が轟く。
青年は窓から、その光景を見やる。
雷は綺麗な一筋を空に描いて、雷鳴を轟かせる。
青年は立ち止まり、美しい曲線を眺める。
寝ずの番に当たって良かったと思う。
会社の同僚はどうやら泣き上戸だったらしい。
ずいぶん酒が回ってきたのだろう。
ロンググラスを片手に泣き顔で、僕の腕を指先でつつく。
「私の話、ちゃんと聞いている?」と同僚が尋ねる。
厄介ごとになったなと思いながら「ちゃんと聞いていますよ」と答えた。
「ありがとう」と涙ながら言う。
「私はずっと願っていることがあるの」と君が言った。
その表情が少し寂しそうだったから「どんな願い?」と尋ねてしまった。
君は僕の左胸を軽く叩く。
「一番心臓に悪い存在になりたいって、思っていたの」君は諦めたように言った。
「でも貴方の一番は私じゃないでしょ?」君の言葉通りだった。
後悔するのを分かっていて、つい大袈裟なことを言った。
恋人がいると、意地を張ってしまった。
生まれた年だけ、恋人がいない歴を更新中だというのに。
「今度、その恋人さんに出会わせて」と君は言った。
ここまで来たら嘘だとは言えない。
「都合が合えばね」と嘘に嘘を重ねた。
君は微笑んだ。