スマホの振動で目が覚めた。時刻は丑三つ時だった。
いったい誰からの連絡だろうとロックを解除して、ホーム画面に跳ぶ。
君からLINEが来ていた。
「もし起きているのならお酒でもどう?」と妖艶なお誘いだった。
どう返信したものだろうと短い文面に思う。
君はきっと心で泣く。その涙跡に惑う。
君は満面の笑みを浮かべながら、僕と腕を触れ合わせる。
「良い御身分だこと」と君の瞳は笑っていない。
「手伝うよ」と僕が提案すれば「猫と一緒で忙しいんでしょ」と君は言った。
どうやらコタツでくつろいでいる猫と僕に嫉妬しているように響く。
君の言葉を額面通りに受け取ってはいけない。
「iotuは、さりげなさを装って最後の嘘をつきました。
それは自分の幸せのための嘘でした。
「世界は希望で溢れている」、と。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。」
------
僕は、さりげなさを装って最後の嘘をついた。
それは自分の幸せのための嘘だった。君のためじゃない。
自分の心がそっと軽くなるための嘘だった。
「世界は希望で溢れている」と、僕は嘘をついた。
もう会うこともない君への最後の嘘だ。
「本当に?」君は問う。
決めたはずの覚悟が、揺れそうだな。
神剣・神楽を握る青年が、少女の手をそっとふれた。
壊れ物ふれるように、おっかなびっくりに。
「どうしたんですか?」少女が尋ねる。
「守るものがあるのは、ありがたいと思ったんだ」青年は答えた。
家族を失ってから、静かな暮らしだった。
少女が来てから、悩むことも考えることも増えた。
光年という途方もない尺度で、私たちに輝きを届ける銀河も、すでに散ってしまったという。
その痛みに、心で泣く。
永遠なんてないんだと知って、輝く届ける星々を思って、声も上げずに泣く。
私が年老いるまでに、いくつの星々が散っていくのだろう。
せめて心の底に焼きつけたいと宙を見上げる。
私は立派な酔っぱらいだ。
グラスが空く度に、君が注文するものだから、いつもよりも呑んでしまった。
二次会に行けないほど酔っぱらった。
君は「駅まで送るよ」と言ってくれた。
ありがたいと思って、好意を受け取ることにした。
君がそっと、私の指に触れる。
もしかして、このために呑ませたの。
「iotuは、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をつきました。
それはたぶん最低の嘘でした。
「世界は希望で溢れている」、と。
これが本音なら、楽だったのに。」
------
僕は、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をついた。
それはたぶん最低の嘘だった。
慰めにもならないような嘘だった。
「世界は希望で溢れている」と、虚ろな目をした君に言った。
励ましにもならない言葉だった。
これが本音なら、楽だったのに。
「本当に?」小さく呟くように君が言葉を紡ぐ。
「一緒にいなくなってあげるから、許してね」と君は言った。
それが君の最期の言葉だった。
白尽くめの部屋で、僕は君の手を必死に握った。
冷たくなっていく体温に、涙が零れた。
「まだ生きていてくれても、いいじゃないか」僕は言葉を紡ぐ。
「ずっと一緒にいようと誓ったじゃないか」僕は言う。
神剣・神楽が律動した。
新年早々、同胞はこちらを殺る気満々だった。
仕方ないと諦めて、コートを羽織る。
「お出かけですか?」台所で七草粥を炊いていた少女が尋ねる。
「冷めないうちに帰ってくる」と青年は微苦笑を浮かべた。
生き残る、それが先決だった。
無事に年越したのだから。決意した。
君は眼光鋭く、僕が着てきたシャツを睨む。
重たい口を上げ「TPOをわきまえろ」と言った。
どうやら派手な柄のシャツがお気に召さなかったようだ。
僕は心の中でため息をついた。
人生はそんなに長いものじゃないんだから、好きなものを着るのは悪くないと思う。
たとえ新年にふさわしくなくても。
君が優しく、僕の腕を指先でつつく。
「ねぇ、私のどこが好き?」君は甘えるような口調で尋ねる。
「選べないな。君の全部が好きだから」と僕は答える。
すると君は満面の笑みを浮かべて「大好き」と僕に抱きついてきた。
僕は小さな体を抱き止めて「ずっと愛しているよ」と僕は君の耳元に囁いた。
「iotuは、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をつきました。
それは前へ進むための嘘でした。
「これ以上関わらないでくれ」、と。
どうか嘘だと気づかないで。」
------
僕は、内緒話をするように声を潜めて最後の嘘をついた。
それは新しい輝きを持つ前へ進むための嘘だった。
嘘をつかなければ前へと進めない弱虫の僕。
「これ以上関わらないでくれ」と君に言う。
本当は君と一緒にどこまでも行きたかった。
けれども、それは許されない。
どうか嘘だと気づかないで。
『見守っていて』少女はそう言った。
どんな思いでそう言ったのか、青年の好奇心が疼く。
少女はこれから、魔法学校の組み分け帽子をかぶる。
青年とは性質が違うから、同じ寮に入ることはないだろう。
そう分かっていても知りたいと思ってしまった。
青年は少女に頼まれたように成り行きを見守る。
幼馴染は空色のブックカバーをした本を読書中だった。
私はというと冬休みの課題に取りかかっていた。
ドリンクバーがあるファミレスは、ほどよく混んでいて、家にいるよりもあたたかかった。
「課題は終わった?」と幼馴染が尋ねた。
手元を見るとぽつりぽつりと、穴埋めが終わっていなかった。