好きという気持ちを込めて手紙をこっそりと書いた。
この気持ちは届くのだろうか。
手渡しする勇気もないから、彼の机にそっと忍ばせた。
斜め向かいの彼は気づいてくれるだろうか。
考えるだけでドキドキしてきた。
同じクラスでも喋った回数は数えられるほど。
気持ちよ伝われ、と祈る。
PR
静かに眠る青年の枕元に座る。
恐る恐る、指を指先でつつく。
起きてくれないかなぁという期待を込めて。
青年は健やかに眠っている。
これで最後にするからと、もう一度つつく。
眠たそうに青年の目が開いた。
少女は嬉しくなって満面の笑みを浮かべる。
青年は手を伸ばし少女の頭を撫でる
中途半端に伸びた髪をヘアゴムで結ぶ。
神剣・神楽を手にする。
微かに律動している妖刀に慣れることができない。
神剣・神楽は同胞殺しを愉しんでいる。
斬れば斬るほど増す斬れ味が恐ろしいと思う。
だんだん人としての神経が麻痺していく。
それでも自分で決めたことだ。
鞘を握りしめた
今日は一日、お休みの日。
久しぶりにのんびりできて朝から気分が良かった。
溜まった洗濯物を洗濯機に放り込み、布団を干す。
朝食も気合を入れて作る。
サラダにスクランブルエッグ、トーストしたパンにはとろけるチーズ。
オニオンスープも作った。
香り高い紅茶を淹れて出来上がり。
窓辺で少女が佇んでいた。
消え入りそうな雰囲気にドキリっとした。
いつもの少女とは違う。
元気が有り余っているような印象が払拭される。
歳相応の表情もできるのだと青年は初めて知った。
声をかけるのも躊躇うような空気に青年は固まる。
視線に気がついたのか、少女が振り返った。
清潔感が溢れているだけの部屋だった。
彩りというものがなかった。
やけに明るい天井はちっぽけな存在だと突きつけてくるようだった。
見舞客もなく、点滴が落ちていくのを見つめていた。
カーテンが開けられた。
目に飛び込んだのは桜の枝。
もう名残りの時期だろう。
見舞客に微笑んだ。
勉強はした。
睡眠時間を削ってまでノートに向かった。
けれどもテストの点数は平均点ギリギリのものだった。
お母さんに見せると思うと気が重い。
またお母さんを悲しませると思うと家までの道のりが遠く感じる。
努力はした。
これ以上ないぐらいに頑張った。
けれどテストの点数は無情だ
何をするのでも少女は喜んだ。
閉じ込められて育ったから、外は全て新鮮だろう。
晴れの日も勿論、雨の日も楽しんでいた。
それを見るのが楽しみにしている自分に気がついた。
少女がいるだけで思い出が増える。
桜並木を歩いているだけで、とても楽しいのだ。
独りきりには戻れそうにない
「姫さま、起きてください」乱暴に揺すり起こされた。
目をこすりながら従者の顔を睨む。
「さあ、早く」従者は少女の手を取る。
寝着に一枚、上着をひっかけただけの姿で部屋を出る。
従者に急かされて回廊を走って行く。
外には夜空が広がっていた。
それと炎に巻かれた城の姿が見えた。
4月に入ったというのに雪がちらつく。
季節外れの寒波到来に冬物コートが手放せない。
手編みのマフラーを首に巻くと、待ち合わせ場所に急ぐ。
5分前だというのに彼女は改札口の前で待っていた。
視線に気がついたのか、パッと笑顔になって走り寄ってきた。
遠慮がちに、指に指を絡める
目覚まし時計の音で目を覚ました。
いつもは少女が規則正しく起こしに来てくれるのだが、どうしたのだろうか。
手ぐしで寝癖を直すと、少女の部屋の扉をノックした。
返事がない。
不審に想いながら扉を開けた。
部屋の主はいなかった。
少女とは家族みたいなものだから不在が気になった。
次の休みまで桜は持つだろうと楽観視していた。
ところが陽気が続いて、あっという間に満開になってしまった。
休日はシフト式だから今更修正できない。
桜が風で散っていく。
帰り道の桜吹雪は美しいけれども、花見の日が楽しみだっただけにこの事態を悲しむ。
風が吹きやみますように。
結界の前で少女は佇む。
中に入れてもらえなかった。
結界の中では戦いが繰り広げられているだろう。
中を見ることはできない。
ただ待つことしかできない。
あの人は無事だろうか。
神剣・神楽は生命を守ってくれるだけだ。
怪我まで守ってくれない。
やっと結界が溶けた。
少女は走った。
メールを出した。
返事はまだ返ってこない。
仕事が忙しいのだろうか。
それとも何かトラブルに巻き込まれてしまったのだろうか。
たった一通のメールにやきもきする。
いつもだったらもっと早く返事が返ってくるのに。
携帯電話を握り締め、返事が来るのを待っている。
早く返事が来い。
部活も終わって、夕方、部活仲間と駅までの道を歩く。
何気ない時間だが僕にとっては貴重な時間だった。
陰で天使と呼ばれる部活仲間と帰れるのだ。
運が良ければ雑談に混じることもできる。
天使と呼ばれるだけあって彼女は内面もしっかりしている。
そんなところに惹かれている。