白くて小さい手が額にふれる。
どこか懐かしいような感覚に囚われる。
冷たい手が気持ち良かった。
「まだ少し熱がありますね」と少女は呟くように言った。
額に濡れタオルが載せられた。
小さな手が遠ざかったのが残念に思えた。
少女と視線が絡む。
「眠ってください」
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風になびく髪を見ながら、伸びたなと思った。
伸びた分だけ一緒にいた。
その証だった。
これからも少女は髪を伸ばし続けるのだろう。
目に見える形で寄り添ってきた時間を見られるのは喜ばしいことだった。
少年は目を細めた。
これからもずっと傍にいられると思うと心が歓喜する。
デパートで子供が泣いていた。
どうやら壁にぶつかったらしい。
大きな声を挙げながら、母親らしき人物の元に駆け寄る。
母親は面倒だと言わんばかりに「走ると危ないと言ったでしょ」と叱る。
子供は泣き続けている。
それは不自然で不安になった。
歪んだ教育を受ける子供が心配だった。
液晶画面から見たご飯はぬくもりがないはずなのに、美味しそうに見えた。
どうやらお腹が空いているらしい。
口にたまった唾を嚥下する。
コンビニに買いに行くのも面倒だから、台所に立つ。
炊飯器からご飯を盛ると、冷蔵庫を開ける。
卵を一つだし、割り入れる。
卵かけごはんの完成だ。
半袖ではちょっと肌寒い微妙な気温。
上着を持って来ればよかったと少し後悔していた。
待ち合わせの時間までドタバタしていたから、すっかり頭の中から消去されていた。
駅の改札口前に彼女がいた。
「寒くない?」と彼女は言う。
恥ずかしそうに目を逸らしつつ、手のひらを両手で包む。
雪のように花びらが散る瞬間だった。
少女の頭上にも、青年の手のひらにもそれは舞うように治まった。
目を奪われた。
それほどまでに完璧で美しい瞬間だった。
少女の涙が止まった。
「花まみれですね」とわずかに残った雫を手の甲で拭いながら少女は笑った。
青年は花のような笑みに頷く
両手から零れていく幸せの欠片。
両手いっぱいすくってもすくっても、零れていってしまう。
いつもそうだ。
両手のひらに残るのはわずかな幸せ。
それを大切に小箱に仕舞う。
いつでも思い出せるように、丁寧に幸せを入れる。
小箱の中にはいろんな形の幸せが詰まっている。
微笑んで閉じる
PCでWebに接続する。
この時間は決まって重い。
無意識にキャンディを奥歯で噛み砕いてしまった。
どうにも最後まで舐めきれないでいる。
袋からキャンディを取り出して、口に放り込む。
甘みが舌の上に広がる。
それにしても、今日は重い。
イライラがキャンディを削っていく。
忘れられた土地を目指して歩き出す。
古い地図だけが頼りだ。
かつては栄えた湖も人々の記憶から消えた。
それは仕方がないことなのかもしれない。
砂漠を歩き続けていると、小さな影が一つ。
「やぁ」と人懐っこい笑顔で声をかけてきた。
「湖にようこそ」
満ち満ちた湖に向かって走る。
毎回、面倒事を押しつけてくる幼なじみに溜息をつく。
捨て猫を拾ってくるぐらいなら可愛いものだ。
友達の代わりに掃除当番を代わるのは日常だ。
その度幼なじみは情けない声を上げて頼ってくる。
正直、辟易していた。
それがパタリと止んだ。
彼氏が出来たからだ。
もうあの声は聞けない
それは決まって羽根音から始まる。
毎回、違う世界に降り立つ。
共通しているのは、それが悪夢だということだ。
今も両手が血まみれになっている。
内臓をぶちまけた死体が足元に転がっている。
手にしていたナイフを思わず投げ捨ててしまう。
どうすればいいのだろうか。
ただ狼狽する。
目を開けて飛びこんできたのは泣き顔の少女だった。
周囲を見渡せば白い天井に、いくつもの管に繋がれた体。
倒れて病院に運びこまれたのだろう。
こういう場面にも慣れてきた。
「治るのか?」と青年が問う。
少女は目を逸らしつつ、指にしがみつく。
雄弁な答えだった。
「そうか」頷いた
最近、幸福なことが続いて心配になる。
幸福の後には不幸が待っているから。
いつまでも続く幸せに暗い気持ちがほのかに宿る。
「ケーキ、買ってきたぞ」と玄関先で青年が言った。
「ありがとう」と少女は唇を微笑みの形に作る。
本当に幸福だ。
「いつまでも続けばいいのに」と少女は呟く
空には瞬く星が輝いていた。
その一つ一つに生命がいたら、素敵だなと思った。
宇宙の中、意思の疎通ができる生命がいたのなら、46億年の孤独を感じないですむ。
心を弾ませながら、今日も空を見上げる。
長い歴史を通り抜けて、届いた光に感動しながら。
ちっぽけな存在なんだと感じる
少女と出会うまで孤独というものを知らなかった。
いつでも独りきりなのが当然だった。
それが少女と出会ってから、世界に色がついた。
こんなにも世界が広く、鮮やかなものだったとは知らなかった。
少女に手を引かれて次々に新しい扉を開いていく。
元の独りきりの世界に戻れそうにない