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「 140文字の物語 」
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オーブンレンジの中には焼き菓子が回る。
バターの良い香りが部屋を充満する。
ガステーブルの上のケトルが鳴る。
火を止め、手早くティーポットに熱湯を注ぐ。
充分、茶葉が開いたのを確認して、マグカップに注ぐ。
彼が帰ってくるのに合わせて、お茶の準備をする。
鍵が開く音がした。
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深夜零時きっかりに携帯電話が振動した。
寝るところだったから、ちょっと不機嫌になった。
Eメールに添付画像があった。
件名には「誕生日、おめでとう」の文字があった。
そこで初めて今日が誕生日だということを思い出した。
添付画像を開くと満月の写真。
最高に幸福な気分になった。
少女は何でも一番になるのが好きだった。
そのための努力は苦ではなかった。
だから手を抜くことはしなかった。
それがこの学校に入ってから、一番になれなくなった。
白金色の頭髪の少年がいたからだ。
成績優秀で整った顔立ち、先生受けも悪くはなかった。
少年に勝てたら快感だろう。
穏やかな日差しが室内に入り込んでいた。
長い冬が終わり、花たちがほころび始めていた。
カーテンを揺らす、風が心地よかった。
ふいに肩に重さを感じた。
首をめぐらすと彼女の健やかな寝顔が見えた。
陽気に誘われて眠ってしまったのだろう。
恐る恐る、指をぎゅっと握る。
幸福を感じた
優しいキスに涙が零れた。
心の中にあるスイッチが入ったように。
離れていった感触に鼓動が早くなる。
そんな私を彼は黙って抱きしめてくれた。
世界で一番安全な場所にいるはずなのに、心が揺れる。
落ち着いた心音に耳を傾けながら、ぎゅっと抱きついた。
離れ離れにならないように。
桜の花弁が手のひらに落ちてきた。
薄紅色の小さな欠片は儚くも美しいものだった。
「ラッキーだね」隣にいた彼女が楽しげに笑う。
そこで目が覚めた。
カーテン越しの弱々しい光に目を細める。
今は梅雨明けが迫る夏だ。
ベッドから起きると同時にアラームが鳴った。
彼女はもう隣にいない
それは水面に文字を書くように頼りない約束だった。
果たせることなどないと分かっていながら、交わした約束だった。
そんなものに縋りつくほど不安定な関係だった。
確たる約束ができないことに胸が痛む。
作り笑いを浮かべながら、小指を絡める。
不安で揺れる瞳が針千本よりも痛かった
無惨の一言に尽きる。
おおよそ整理整頓できているとは呼べない。
どこに何があるかは分かっている。と部屋の主は嘯く。
到底看過できるものではないので季節外れの大掃除が始まった。
ふいに本棚から写真が一枚、抜け落ちてきた。
浴衣を着た少年少女たちが写っていた。
部屋の主は微笑む
生命の焔は秒針のように、体に刻み込まれる。
荒野を駆け抜けるように通り過ぎていくもの。
どれだけ残されているかは分からないまま、その音を聞く。
その中で没頭することができたなら幸いだ。
痛みも悲しみも喜びに変えることができるだろう。
永遠を見出すことができるだろう。
テレビをつけていれば一日中、少女はかじりついていた。
変わり映えのないニュースを見ていて楽しいのだろうか。
今日もリビングにあるテレビを見ていた。
その小さな背中を見ながら、青年は守らなければと意識する。
神剣・神楽を手にした瞬間から決まった運命に逆らう気はない。
アラーム音に気づかなかった。
目を覚ますと寝汗でパジャマが肌に張りついていた。
窓から差しこむ日差しに驚く。
時計を見れば、起きる予定の時刻から一時間も過ぎ去っていた。
確実な寝坊だった。
ダッシュで風呂場に向かう。
デートまでにかけられる時間は残り少なそうだった。
少女はおもむろに神剣・神楽を手にした。
鞘から白刃を抜くと、鋼の塊にキスをした。
妖刀は嬉しそうに律動した。
少女は刃を鞘に戻すと、青年に手渡した。
「必ず帰ってきてくださいね」と少女は微かに笑む。
「もちろんだ」と青年は神剣・神楽を受け取る。
鉄の塊はいつもよりも重かった
外はとろけるように暑い。
容赦ない日差しにじりじりと焼かれる。
噴き出す汗をハンカチで拭いながら家を目指す。
暑いを通り越して熱い。
重い体を無理矢理動かして玄関まで辿りついた。
よろよろと冷凍庫を開ける。
買い置きのアイスが入っていた。
一口食べれば冷たさと甘さが嬉しい。
見えない振りをしていたけれども、Goサインは出ていた。
このまま傍で立ち止まっていたかった。
君を置いて独りで向かう道は寂しい。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、どんどん遠ざかっていく。
君も独りで行くんだね。
これから先、会えなくても笑顔を忘れないよ。
隠れるようにカーテンの陰でキスをした。
小鳥が餌を啄ばむように、何度でも。
くりかえされるキスの数分、怖かった。
いつか終わりが来るんじゃないかって。
今は気持ちが重なっているけれど、離れ離れになる日がやってくるんじゃないかって。
優しいキスの分だけ思ってしまう。
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