桜の蕾もほぐれるような季節だった。
二人の出会いを祝福するような時が、また巡ってきた。
いつもの帰り道、何か言いたげな彼に言葉を待つ。
改札口で彼は小箱を差し出した。
中には指輪が入っていた。
驚きと喜びで涙が出た。
「もう離れたくないんだ」と彼は言う。
手の甲で涙を拭う。
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同僚とはよく休日の希望がぶつかる。
社内ではオタクなのを隠しているが彼女もお仲間なのだろうか。
不意に浮かんだ疑問に首を振る。
社交的で明るい彼女が同人誌を抱えている姿は不釣合いだった。
ただの偶然だろう。
コミュが高い彼女には似合わない。
たまたま休みが被っただけだろう。
これで終わりなのだろうか。
拍子抜けするほどあっけない最後だった。
別れの季節は巡る。
もう二度と会えないだろう。
目に焼きつけておこうと見つめる。
涙は飲みこむ。
満面の笑みを浮かべながら、自分の手のひらを握り締める。
引き止めてしまわないように。
美しい想い出に換わるように
ただ時が落ちていく音を右耳で聞いていた。
さらさらと硝子の中を流れ落ちていく砂を見つめているようだった。
息を吐いて、息を胸いっぱいまで吸って。
生きている。
それを確認するようだった。
横たわっていると境界が曖昧になる。
静かに流れる時に身を任せ、そっと手を伸ばした。
僕の想いが伝わることなんて、これぽっちもない。
君にとって僕は都合の良い友だち。
異性として意識されることはない。
ただの良い人。
そんな関係を壊したくて僕は想いを伝えた。
ずいぶん前から知ってたよ、君の答えは。
君の視線の行く先が僕じゃないことも。
それでも知って欲しかった
目玉焼きにかけるのは醤油かソースか塩コショウか。
趣味嗜好の問題で意外に根深い。
今朝もできたての目玉焼きに七味を振ろうとして、止められた。
パンに合わせるならケチャップだろうと君は言う。
堂々巡りの始まりだ。
朝から不愉快にも口論になる。
仕舞いに君は泣く。
僕は降参した。
いつも貧乏くじを引いている君。
損な役回りを引き受けている君。
それでも笑顔を絶やさずに、毎日を過ごしている。
それを僕は知っている。
だから僕が、君を幸せにしたい。
飲みこんだ涙の数の分だけ、愛情を届けたいと思うんだ。
言えなかった悲しみの分だけ、喜びを届けたいと思うんだ
平等に配られる慈悲だとしても嬉しかった。
ラッピングされたお菓子は可愛らしい。
食べずに取って置きたいと思わせるのに充分だった。
インターネットでお取り寄せしたのだろうか。
それともお店で予約したのだろうか。
どちらにせよ、慣れた顔色で購入したに違いない。
それでも嬉しい。
まるでスイッチを切り替えられたようだった。
真っ暗な部屋に電球が点ったようだった。
世界の鮮やかさを再度、教えられたようだった。
お手本のように僕は恋に落ちた。
あの日の君の優しい笑顔に救われた。
記録のように僕の心に灼かれた記憶を想い出とは呼びたくない
僕は贅沢だから、たくさんの願い事を神様にしてきた。
欲しい物は星の数ほどあって、一つ手に入ると次が欲しくなる。
君と出会って、僕は変わった。
神様に願うのはただ一つの永遠となった。
君とずっと一緒にいたい。
一分一秒を大切にしたい。
終わらないラブストーリーを綴りたい。
海へ行こう。
塩辛い涙を携えて、どこまでも遠い海へ行こう。
波打ち際を歩けば、悲しみは薄れるだろう。
海へ行こう。
体の中に流れる水分と同じくらいの塩辛さを教えてくれるだろう。
僕にできないことを海は解決してくれるだろう。
だから電車を乗り継いで、涙と一緒に海に行こう。
いつもの帰り道。
野良猫が日向ぼっこをしていた。
近づいても逃げる気配はない。
むしろこちらに興味があるようだった。
誰もいないことを確認して、野良猫に近づいた。
喉をさわるとごろごろと鳴く。
「意外な組み合わせだね」声が降ってきた。
一人だと思っていたらクラスメイトがいた。
「仮にもデートなんだから、少しはらしくしないと」と手が差し出された。
人選を誤ったと後悔した。
私は嫌々ながらも、彼の指をぎゅっと握る。
「よくできました」と彼は余裕の笑みを浮かべる。
空いている方の手でよしよしと頭を撫でられる。
親友の姿を見失わないように目で追いかける
僕は欲張りだ。
ケーキの1ピースのように切り分けられた君では物足りない。
誰にも渡さず1ホール分食べつくしてしまいたい。
一生分の君が欲しい。
僕の残りの人生すべてを差し出すから。
君も残りの人生を僕にくれないか。
誰よりも大切にすると約束するから。
僕の物になってくれないか
繋いだ手があたたかかった。
願わくばこのまま、永遠にしてしまいたかった。
離れ離れになることが辛かった。
いつか来るお別れが今だということが悲しかった。
笑顔で見送りたい、と思っていた。
けれども現実は違った。
涙がハラハラとこぼれる。
どうして別れなければならないのだろうか