ソファの上、並んでDVDを鑑賞していた。
僕の隣が猫背気味に観ていたから、背中の筋をさわった。
すると君は目を逸らしつつ、指に爪を立てる。
夢中で見ていたのを邪魔されたのが気に食わなかったらしい。
かじりつくようにテレビ画面に視線は移った。
僕は面白くいない気分でにテレビ画面を見た。
君が見た夢はどんな形をしていた?
君の夢の中に、僕は出てきたかな。
できれば君の隣に座って一緒に未来を追いかけていたのだけれど。
君の夢が叶うことを望んでいるよ。
たとえ僕を置き去りにしたとしても。
君には君の夢を見る権利があるのだから。
さあ、笑って夢に向かって走り出してごらん。
廊下にテストの結果が張り出される。
自分の名前を探す。
順位は悪くなかった。
普通の両親だったら喜んだろう。
前から二番目にある名前に俯く。
どうしても白金の頭髪の少年に勝つことができない。
いつか一番目に名前が書かれることを願っている。
少年とすれ違った。
一位なのに無表情だった。
いつでも君は小走りについてきた。
笑顔だったから見落としていた。
僕と君の歩幅は違う。
僕はコンパスが違うのに気づかない。
だから、君が涙を流していた理由も分からなかった。
君が零した滴におろおろする。
できるだけ優しくその背を撫でるのが精いっぱいだった。
君の涙の理由は分からない。
幼なじみは「幽霊なんて非現実的だ」と言う。
「肝試しなんて馬鹿々々しい。さっさと追われせて帰るぞ」とためいきまじりに断言する。
私は怖くて一歩も進めない。
その様子に幼なじみが手を差し出す。
遠慮がちに、両手のひらをぎゅっと握る。
あたたかい手だ。
それだけなのに不安が解けていく。
「君が好き」何度くりかえしても君の涙は枯れることがない。
これほどまでに愛しているのに伝われない。
僕は君を嫌うことなんてできないのに、君は信じてくれない。
あと何度、言えばこの想いが届くのだろうか。
それとも一生、くりかえさなければならないのだろうか。
それはちょっと切ないな。
君と何度も約束をした。
守る事のできない約束もあった。
果たす事のできた約束もあった。
これからも何度も約束するのだろう。
君が飽きるまで。
絡んだ小指だけが、証拠だ。
僕はできるだけ約束を守ろうとするだろう。
君はそれを期待するだろう。
他愛のない約束でも降り積もれば重さを増す。
想い出は淡く、輪郭は霞みがかっている。
どうして、あの時手を離してしまったのだろうか。
ぼんやりと後悔する。
手を離さなければ違う未来が待っていたのだろうか。
繰り返し夢のように悔いる。
涙を流しながら電車に乗る君を抱きしめれば良かったのだろうか。
後悔は先に立たず。
想い出になる。
「武ばかりを努力してきた武士だ。策を授けてくれないか」武士は頭を下げた。
「どのような策も授けて差し上げましょう」策士は言った。
「真か?」武士は喜ぶ。
「ただし、貴方の信条を曲げるような策かもしれません。それでもよろしいと血判をいただきたい」
策士は言った。
「もちろんだとも」
「俺のことを見捨てないでくれよ」酔っぱらいは泣きそうになりながら、指先にしがみつく。
「はいはい。見捨てませんよー」適当な相槌を打つ。
「本当にそう思っているのは証拠を見せてくれよ」酔っぱらいは面倒くさいことを言う。
「こうして迎えに来てあげてるじゃないですか」私は溜息をつく
形ばかりのお付き合いだった。
世間の恋人同士がするようなことをなぞった。
それでも私の心をはときめかない。
あなたはそれでもいいと言ってくれたけど、不実な気がした。
ホテルのバーで重たい口を切り開いた。
「知ってたよ、君に答えは」あなたは寂しそうな笑顔を浮かべた。
申し訳ないと思う
掠め取られた唇は骨ばった体つきとは意外なほど柔らかかった。
まるで恋人宣言のようなキスだった。
今まで友達としか見られなかった君が一気昇格する。
それぐらい驚きに満ちたものだった。
君はどんなつもりで私の唇を奪ったのだろうか。
二人の関係性は変わってしまった。
嫌だとは思わない。
スマホのカメラで撮ったフォトをどれをメール添付するか悩む。
あの日、僕と君が一緒にいた証。
滑稽なほどフォトは君ばかりを写していた。
まるで僕の視線のように。
一番素敵な笑顔を写したフォトを添付する。
僕の気持ちが伝わりますようにと願いながら。
フォトは光の速度でスマホに送られる。
行楽日和になった今日は、公園には長閑な景色が広がっていた。
それなのに君の表情は下り坂。
遅刻もしなかったし、君の話をきちんと聞いていた。
それなのに君は怒り顔で、僕の指に触れる。
「卵焼き失敗したの」君は言った。
どうやら怒りの方向は僕ではなく君自身だったようだ。
僕は安堵した。