季節は移ろいゆく。
生命の限り鳴く蝉の声と流れ落ちる汗も懐かしいと思う日が来るのだろか。
一瞬、一瞬、見逃せない。
季節は巡りゆくとも同じ顔をしているわけではない。
今しかない瞬間だった。
それを少女と共に過ごせるのは嬉しいことだ。
少年はさりげなく、少女の指を握り締める。
緊張する
独り暮らしも決まって、住む家も決まった。
春になれば実家から出る。
その前に、独り暮らしでもやっていけるように、母から料理を習う。
細かいレシピを知りたかったのだが、母は「適当よ」と笑う。
いつも同じ味になるのだから、そんなことはない、と言うと母は苦笑する。
「あえて言えば愛情」
ボールペンを置き、ミカンを手に取る。
皮をよくもんでいると爽やかな香りが漂った。
皮をむき、一房口に入れる。
甘い味が口いっぱいに広がる。
どうやら当たりのミカンだったようだ。
あっという間に1個を食べつくしてしまった。
さらにもう一個食べたかったが仕事が待っている。
書類に向き合う
初恋じゃあるまいし、いい年をした大人だった。
晩稲の彼は手すら繋がない。
それがもどかしかった。
両思いなのは分かっているのだから、遠慮はいらない。
無理やり奪って、今すぐに。
情熱的な恋に落ちたいと考えてしまう。
こちらから言い出すのも恥ずかしくて、他愛のない会話で終わってしまう
今日の少女はご機嫌斜めだった。
何か怒らせるようなことをしたのだろうか。
青年はお味噌汁をすすりながら記憶を振り返る。
いつものように美味しかった。
完全無視を決めこんだのか、少女は言葉を発しない。
珍しいこともあるものだ、と青年は少女の輪郭を視線でなぞる。
いつまで続くのだろうか
無我夢中だった。
手段なんて選んでいる暇などなかった。
離れていこうとする後ろ姿を引き留めるために叫んだ。
銀河を渡る船の全館アナウンスだと気づいたのは、自分の声が響き渡ってからだった。
去っていこうとしていた少女は振り返り、腹を思いっきり殴った。
言葉通りに黙らせるために。
僕は君の「大丈夫」が、大嫌い。
少しぐらい僕を頼ってくれてもいいと思うんだよね。
泣きそうな顔をして「大丈夫」と強がらないでよ。
僕の立場がなくなってしまう。
僕と君は恋人同士なんだよね。
だったら、いくらでも愚痴や弱音を吐き出してよ。
ちゃんと君を支えてあげる。
不安にならないで。
君と僕の出会いは偶然だった。
たまたま同じクラスになって、隣の席になった。
君は面倒見が良かったから、細々と助けてくれた。
そんな君に惹かれて、その気持ちはやがて大きく育った。
気がつけば君に恋していた。
君は優しい人だから、僕以外にも親切だった。
恋人になるとは思っていなかった。
本棚の上段の本を取ろうと、梯子に足を乗せた。
ズボンがずり下がってきた。
一回、床の上に戻る。
ベルト穴を一つ変える。
昼ご飯を抜いて図書館にこもっていたせいだろうか。
読みたい本はたくさんあるが図書館は飲食禁止だ。
お弁当を持ってきていないから、どこかに食べに行かなければならない
人気のない公園で『話がある』と彼女が言った。
別れ話でも切り出されるのかと思って僕は冷や冷やした。
「私、接触性のテレパシストなの。触れた人の心が読めるの」彼女は俯いたまま言う。
僕は手を差し出した。
彼女は遠慮がちに、手のひらに触れる。
彼女の顔が綻ぶ。
それも、もう過去のこと。
あーあ、なんて可哀想な君だろう。
君の努力は報われない。
努力していることすら、僕以外の誰も気がついていないだろう。
苦しいだろう。
辛いだろう。
弱音を吐くことすらできずに、君は笑顔を作る。
まるで、それが当たり前のように。
そんな可哀想な君に同情してしまうが、僕は何も言わない。
スマホの液晶画面を叩き割ってしまいたい。
デートでランチを楽しむはずだった。会えなかった分、話したいことはたくさんあった。
それなのに恋人はさっさと食事をすますと、スマホをいじり始めた。
一緒にいられる時間よりも、それは大切なことなの?
泣きたい気分になってしまい食が進まない。
委員会で帰るのが遅くなった。
夜道を女子生徒尾が一人で帰るのは危ないと同じ方向の男子生徒が送ってくれることになった。
必要最低限しか喋ったことのない男士に少女は緊張した。
会話もなく歩いていく。
急に男子が肩を抱いた。
少女は力強く、自分の両手をぎゅっと握る。
程なく車が通りすぎた
君があまりにも綺麗に泣くから、僕まで泣きたくなったじゃないか。
君の手はあまりにも小さく、全てを救うことはできない。
零れ落ちていく生命を嘆いては、乾いた眼のまま静かに心の中で泣いていたね。
涙を見せずに泣く姿に僕は後悔をする。
君は君らしくいて欲しいのに伝えることができない。