「予報通りに、雨になったら良いのに」少女は呟いた。
残念ながら、空は青をたたえていた。
天気が急変しない限り、雨は降らないだろう。
珍しく、天気予報が予報を外した。
「どうして?」少年は問うた。
「新しい傘を買ったの」目をキラキラと輝かせながら少女は言った。
使い道が欲しいらしい。
少年は器用にコインを扱う。
それを食い入るように少女は見つめた。
一瞬たりとも見逃さまい、と見る。
「これからコインが消えます」少年が宣言して、コインに紙コップを被せる。
そして紙コップを叩くと、コインは消えた。
少年は少女に紙コップを手渡す。
まさに種も仕掛けもありません、と。
冷酷と近隣で喧伝された帝王に小国の王女は嫁いできた。
噂ができるのも無理がないと王女は思った。
嫁いでから、帝王が笑ったところを見たことがなかった。
どんないたずらをしても顔色ひとつ変えない。
「次から次へとよく思いつくな」とある日、帝王が言った。
王女が恋文を渡すと頬を染める。
せっかく見知らぬ土地にきたというのに。
一緒に遊びににきた幼馴染はそっと、両手のひらにしがみつく。
旅行を楽しもうという気がさらさらないように見える。
それどころか怖くなって引き留めているようだった。
引きずるようにして歩き出す。
しぶしぶと幼馴染も歩き出す。
手を繋いだままだけど
この感情は愛なんて綺麗なものじゃない。
君に向けられる思いは全て愛でなければいけない。
君は幸せな人だから。
醜く歪んだ独占欲は叫び続ける。
君が欲しい、君が欲しい、と。
それを隠して笑顔を作る。
物わかりの良さそうな顔をする。
君は気づかないだろう。
それでいい、それがいい。と思った
君は夜空に輝く天狼星のよう。
その輝きが羨ましくて、手を伸ばしたこともあった。
けれども手に入らないことを思い知るだけだった。
君が自然とできることが僕にはできない。
君にとっては当然のことなのだろう。
賞賛を受け、はにかんだように笑う。
その裏で僕は唇をかみしめる。
君にはなれない
辛うじて息はあった。
捨て猫のように少女は捨てられていた。
現実感がなかったが、捨て猫のように拾う。
それは許されるだろう。
少女に必要な物はないだろう。
暖かい布団だろうか。
その前に泥を落とさせなければいけないから風呂が先か。
やせ細った体は軽かった。
拾わなければ命を落としていた
急に抱きあげられて君は不機嫌になった。
それでも嫌々ながらも、従ってくれる。
腕に爪を立てるけれども。
あのまま大広間にいたら、母后に出会ったことだろう。
紙一重で潜り抜けた。
まさに危機一髪だった。
「いつまでこうしている気?」君は尋ねた。
「ベッドの上まで」と僕は軽口をたたく。
今は夢中のパズルも完成すれば、やがて飽きるだろう。
そうやって少女が見捨てていった物は数知れず。
今は遊び相手になっている少年もお役目御免の日が来るのだろう。
それは寂しいことだったが仕方がないことだった。
そういう契約を交わしたのだから。
パズルよりもゆっくりと飽きてほしい。
「本当はダイヤモンドの指輪を贈りたかったんだ」青年は言う。
乙女の左手の薬指にはめる。
ちょうどのサイズに指輪は、元から乙女のものだったようだ。
乙女ははにかむ。
「あなたがくださってくれたものですもの。中身が伴っていれば充分ですわ」乙女は言った。
優しい言葉に青年はホッとした。
集合場所で「ほら」と手を差し出した。
少女は「子ども扱いしないでくれる?」と言った。
「はぐれても知らないぞ」と青年は苦笑した。
「大丈夫よ」と意地を張る。
こうなると少女が頑固なことを知っている青年は歩き出した。
すぐさま少女と距離が開く。
少女は軽々しく、指先をぎゅっと握る。
昔は『ただいま』という言葉が好きではなかった。
玄関の鍵を開けても、迎えてくれる人がいなかったからだ。
「ただいま」と習慣で言っても、返事はない。
独りぼっちだと痛感する。
自分の部屋に静かに戻っていった。
今では『ただいま』が好きになった。
君が「お帰りなさい」と言ってくれる。
少女は下腹部がどんよりと痛かった。
女が女であることをの訪れだった。
だからといって、それを理由に保健室には行きたくなかった。
テストの最中なのだ。
今度こそ、白金色の頭髪の少年に打ち勝つ、と思っていた。
しかし、痛みは増すばかりだ。
神様は人を造る時にこんなに不公平にしたのだろう
夜間の出歩きが禁止された街は静かだ。
暇を持て余した幼馴染は両親のコレクションを漁る。
映画好きな両親が揃えている映画の本数は休み明けまで観ても、まだ観きれないだろう。
本当はこうして幼馴染に会うこともいけないのだが、誰も文句は言わない。
肌寒い室温に毛布を羽織る。
視聴の開始だ