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「 140文字の物語 」
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少女は小さなことで喜ぶ。
ささやかな日常が得難いものらしい。
神剣・神楽の巫女として、石牢に閉じこめられていたのだから、どんなことも幸せだろう。
だから、いつまでも少女が笑顔でいられるように、日常を守ろうと思った。
たとえ、それが仮初のものでも。
戦いと戦いの間の刹那なものでも。
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部屋を掃除していたらDVDが出てきた。
表面には油性ペンで自分の名前が書いてあった。
もう一人分、名前があったがそれは修正されて読めなくなっていた。
いぶかしがりながら、再生してみた。
幼い頃の自分が映っていた。
そして、見覚えのない犬がいた。
記憶から遠ざかっていた名前を自分が呼ぶ。
春まだ浅い頃。
制服に指定のコートを着て、張り出された掲示板を見上げる。
手元の数字と同じ数字を見つけて「あった!」と叫んでしまった。
一緒に来た友だちも、にこやかな笑顔を浮かべていた。
堂々と、両手のひらを触れ合わせる。
ハイタッチもしたくなるものだ。
無事に大学生活が始まる。
見守ってくれる少女がいるから強くいられる。
そうでなければ、同胞同士の殺し合いに早々リタイアしていただろう。
これまで戦い続けられるのは、少女の存在が大きい。
孤独を埋めてくれる家族ごっこかもしれないが、ささやかな日常を守りたい。
神剣・神楽を見つめながら、そんなことを思った。
いつもと環境が違うからだろうか。
それとも新婚旅行を楽しんでいるからだろうか。
洗顔をしようと洗面所に立つと指輪を見つけた。
それをポケットにしまうと顔を洗う。
それからしばらくしてすごい物音がした。
「おはよう、奥さん」指輪をはめる。
君は泣き顔で、僕の両手のひらを両手で包む。
「本当にいいの?」不安げに君は尋ねる。
何度目だろうか。
「君と一緒なら何だっていい」僕は何度目かの台詞を言った。
「だって、もう家族とも、友だちとも会えなくなるんだよ」君は涙をたたえた瞳で僕を見る。
「君と離れ離れになるよりいい」僕はキッパリと答えた。
これからは逃避行だ。
いつもと同じ帰り道。
今まで一緒に通った道。
明日からは別々の道を通る。
別々の誰かと、他愛のない話をするのだろう。
そう思うと胸にぽっかりと穴があいたような気がする。
君は未来ばかりを見ている。
別れ道で「じゃあ」と軽く手を上げ、家に帰っていく。
君が振り向くことはなかった。
「どんな指輪が欲しい?」大切な記念日に贈るものだ。
彼女好みの指輪を選びたい。
彼女は庭先を見て「あの椿のような指輪がいいわ」と言った。
白い指先に、赤い椿色の指輪は映えるだろう。
どんな願いを叶えたい、と思う彼女の望みが背中を押す。
宝石店に緊張しながら、人生初の入店をする。
「別に暇だったから、付き合ってあげるだけだからね」君は言った。
「分かってるよ。これはデートなんかじゃない」僕は告げた。
どこからどう見てもデートだとしても君の自尊心を傷つけたりはしない。
僕は華奢な肩を抱く。
満面の笑みを浮かべながら、君は指先に爪を立てる。
「勘違いしないで」
「大きな手ね」と少女はポツリと呟いた。
「ピアノを弾くのには便利だな」と少年は言った。
「より鍵盤を押さえられるからな」
「そうなんだ」少女は納得したように頷いた。
「俺はお前の手が好きだぜ」少年は笑った。
少女の心臓が跳ねた。
少年を正視することができなくて思わず視線を逸らした。
宿題を忘れてきた罰として、黒板に答えを書かされた。
チョークで書いた文字は、どことなく頼り気なく、不格好だった。
背後でクスクスと笑う声が聞こえてきた。
僕はムキになる。
書き上がっていた文字を消して、丁寧に、綺麗に見えるように、再度書き出した。
書き終わる頃には笑い声は止んだ。
もうお別れ。
帰り道はいつでも短い。
明日になれば、また会えると分かっていても、寂しくなる。
あと、ちょっと。
あと少し。
一緒にいたい。
そんな君の気持ちが伝わってきた。
君は恥ずかしそうに、僕の指をぎゅっと握る。
僕は別れの言葉を飲みこんだ。
その代わりに、君の小さな手を握り返した。
お母さんとの約束だった。
好きな人ができたら、絶対に教えること。
恋人同士になったら、家族に紹介すること。
今時、ちょっと古風な約束だったが、それを守る日がきた。
照れる恋人を家に連れてきた。
お父さんは複雑な顔をしていたけれども、お付き合いを許してもらえた。
幸せな気分になった。
同胞殺しの妖刀が虚栄を張っているのは、今なのかもしれない。
血塗られた伝説の中で、もっとも活躍している。
神剣・神楽は生き生きと血を求める。
それも同胞の。
その妖刀を青年は抱きしめる。
傷が癒えていくのが分かる。
望むとも、望まなくても、戦いの日々は続く。
青年は静かに目を伏せた。
同胞との戦いは無傷というわけにはいかなかった。
中立だった病院も信頼を置けなくなった。
神剣・神楽の癒しの力を頼ることが増えてきた。
結界の外で待っていた少女は泣き顔で、青年の指先を両手で包む。
泣き疲れて眠りにつくまでそうしていた。
静かな寝息を聞きながら、青年も微睡につく。
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