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「 140文字の物語 」
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姉が大輪の百合を花瓶に活けていた。
カサブランカだ。
普段、花などと無縁の家だから、その手つきが儀式めいていて眺めてしまった。
視線を感じたのだろう。
「神無月がやってくるからね。おまじないよ」姉は微苦笑を浮かべる。
私は納得がいってテレビに視線を戻す。
神頼みもごっただ。
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「ねぇ、お母さん」布団の中にもぐりこんだ少女は、母に尋ねる。
「なぁに?」優しく頭を撫でていた母が微笑む。
「どうして、私に優しくしてくれるの?」少女が照れながら問う。
「貴方の全てが愛おしいの。だから自然と優しくなっちゃうのよ」内緒話をするように母は答えた。
少女は満足した。
メトロノームのように、行ったり来たり。
心が揺れる。
この感情はどんな名前のモノだろうか。
『好き』じゃ足りない。
『愛している』じゃ重すぎる。
心に宿った気持ちは規則正しくカチコチと鳴る。
その音を聞きながら、もうしばらく味わっていようかと思う。
気持ちに名前を付けてくれると信じて。
青年が呻き声を上げる。
高熱からか、間接を痛がる。
それなのに少女にはできることはない。
額に乗せた濡れタオルを交換する。
そろそろ汗を拭った方が良いだろうか。
青年の部屋のタンスを開ける。
パジャマを取り出して、枕元に置く。
少女は青年のパジャマのボタンを外す。
青年は歯ぎしりをする。
母の再婚相手には同じ年の娘がいるらしい。
顔合わせで、俺は凍りついた。
同じクラスの学級委員長がそこにはいた。
「初めまして」学級委員長は挨拶した。
他人の振りをしたいということか。
満面の笑みを浮かべながら、学級委員長は手のひらを折れんばかりに握る。
俺は怖くなって息を飲みこんだ。
友だちと電話をしていると、飼い猫が突進してきた。
『構え!構え!構え!!』というように。
話を続けながら、猫の喉を撫でてやる。
甘えん坊な猫は上機嫌にゴロゴロと喉を鳴らす。
風邪を引いていた捨て猫を拾った時は家族も大反対していた。
けれども、今や我が家のアイドルに収まっている。
予感はあった。
ずっと雷が鳴っていた。
ひときわ大きな音がして、暗闇は訪れた。
どうやら停電したようだ。
独りっきりで取り残されたようで、暗闇の中で震える。
不自然な暗闇だった。
蛍光灯が明滅して、パソコンが起動する音がした。
SNSに一刻も早く書きこみたい。
電気がないと生きてられない。
生まれる前からのお隣さんは心配性だ。
私を見ていると危なっかしくて仕方がないそうだ。
高校最後の楽しみの修学旅行で同じ班になってしまった。
あれこれ言われるんじゃないかと、行く前からげんなりしてしまった。
現地に到着すると力強く、両手のひらを触れ合わせる。
「行くぞ」手を繋がれた。
失せ物探しは苦手だった。
探していない物が見つかる。
この時もそうだった。
白い珊瑚のペンダントが出てきた。
夏の間探していたのに見つからなかったものだ。
季節を置き去りにした感じがして、ぼんやりと眺めてしまった。
探し物はいつか出てくるだろうか。
珊瑚のペンダントをしまう。
「これからいっぱい食べて、勉強をしなさい」妙齢の女性は笑顔で言った。
妖艶な笑みにまじまじと見惚れてしまった。
今までの生活よりも良い生活を与えられていいのだろうか。
返事ができずにまごついていると「誰のものだとお思いで?貧相なものを側に置きたくないんですの」女性は麗しく言う。
もうすぐ誕生日がきて大人になる。
もう子ども扱いされないのだ。
この日をどんなに待ち望んだろうか。
お酒を呑んでも、煙草を吸っても、咎められることはないのだ。
ただ大人になる怖さがあった。
子どもだからと許されていたことを自分の責任で持たなければならない。
もう少し子どもでいたい。
戦に負けた。
戦国の世の習いだ。
この小さな国は植民地として隷属することになった。
それを読む官吏に首を垂れる。
代理とはいえ皇帝の使いだ。
この国では官吏は皇帝に等しい扱いをすることになっている。
瞳から熱いものがこみあげてくる。
戦火で散らず、おめおめと生きながらえている悔しい。
待ち合わせというわけではないが、同じ電車の同じ車両に乗る。
混雑には、まだ早い時間なので、座席に座ることができた。
電車の中で一番忘れ物が多いのは傘だという。
俺はしっかりと柄を握る。
隣の存在は傘を持っていなかった。
「ねぇ、雨が降ったら傘に入れてくれる?」とちゃっかりと言う。
DVDに時折、指が映りこむ。
「これ、お父さんの指?」一緒に録画を見ていた母に尋ねる。
「お前が生まれてから、猫可愛がりだったのよ」母は偲ぶ。
不思議な感じで見つめる。
物心つく前に他界してしまったので、父という存在がピンとこない。
「本当に子煩悩な人だったのよ」と母は柔らかく笑う。
「さあ、挨拶をしなさい」父が言う。
私は売られたんだと自覚した。
浪費家の母の借金を補っても有り余る結納金のために。
恐る恐る、相手の顔をチラリと見る。
成金らしい卑屈さが漂っているがこちらは没落貴族だ。
自分の手のひらを折れんばかりに握る。
できるだけ優雅にスカートをつまみ上げる。
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